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夜の静寂を裂くように、奈々の部屋の電話が鳴った。
画面に映るのは、祐介の名前。
「……父さん?」
「奈々、羽奈が……消えた。家の中から、突然姿を消したんだ」
声は震えていた。祐介の足取りが慌ただしいのが伝わってくる。
「今すぐ家に戻れ。何かがおかしい。真奈が目覚めてから、何かが狂い始めている」
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家に戻ると、廊下の隅に小さな白いリボンが落ちていた。
羽奈の大切なリボンだ。
「お姉ちゃん……助けて」
どこからか、羽奈の声がかすかに響く。
だが、その声はまるで別人のように歪んでいて、まるで風の中に溶け込む霧のように消えていった。
奈々はすぐに羽奈の部屋を調べる。
窓は閉ざされていて、鍵もかかっていた。
「これは……おかしい」
祐介も、顔を曇らせて部屋を見回す。
「母さんは……本当に目を覚ましたのか?
あの真奈は、何か別のもののように思えてならない」
奈々は胸の中で決意した。
(羽奈を取り戻さなきゃ)
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家族の中に潜む“灰の残滓”。
それは、妹の体にゆっくりと広がり、彼女を蝕んでいた。
奈々と亮太は再び“鏡の間”へ向かった。
そこに隠された秘密は、まだ終わっていなかった。
「羽奈は、まだ“灰”に囚われている。
あのリボンは、彼女の魂を繋ぎ止める鍵だ」
亮太はリボンをそっと握りしめた。
「俺たちが最後の審判をしなきゃならない」
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鏡の間の中央で、奈々は静かに唱え始めた。
「羽奈、帰ってきて。あなたは一人じゃない」
すると鏡の中に、ぼんやりとした羽奈の姿が浮かび上がった。
彼女の顔は薄く灰色に染まり、目は閉ざされている。
「お姉ちゃん……」
震える声が響く。
「私、怖い……消えそうで……」
「大丈夫、私たちが守る。必ず、君を救う」
奈々の言葉に、羽奈の体から黒い霧が溶け出し、鏡の中でゆっくりと消えていった。
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その瞬間、鏡の部屋が激しく揺れた。
「ユウカ……お前の執着は終わったはずだ」
響き渡る声。
「だが……灰は完全に消えたわけではない」
鏡の奥から、新たな“黒い影”が浮かび上がった。
「これは……?」
亮太が警戒する。
「“灰の根”だ。ユウカの本体がまだ、ここにある」
奈々は唇を噛んだ。
「私たちは……最後の決戦を迎えたんだ」
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鏡の間で、奈々と亮太は“灰の根”と対峙した。
その影は形を変え、二人の心の奥底の恐怖と絶望を暴き出す。
だが、奈々は祐介の教えを思い出す。
「恐怖は嘘をつく。真実は、自分の中にある」
奈々は強く手を握り、亮太と共に声を合わせた。
「灰よ、消えろ。ここに居場所はない!」
強い意志の光が鏡の間を満たし、黒い影は断末魔のような叫びをあげて消えていった。
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目を開けると、羽奈が静かに立っていた。
「お姉ちゃん……私、帰ってきた」
その瞳には、かつての温かさが戻っていた。
祐介と奈々は涙を流し、妹を抱きしめた。
「これで、終わったんだね」
亮太は静かにうなずいた。
「母さんも、そしてユウカも……きっと安らげる」
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数日後、家族は再び静かな日常を取り戻していた。
奈々はそっと窓辺に置かれた白いリボンを見つめる。
「忘れない。私たちの記憶も、愛も、強さも」
彼女は深く息を吸い込み、新しい未来へと歩き始めた。