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「さやちゃん、貴仁君との暮らしはどうかしら?」
仕事が手すきな合間に、菜子さんからそう声をかけられて、
「とっても順調で、なんだか怖くなりそうなくらいで」
と、やや恐縮して答えた。
「あら、怖く……って、どうして?」
菜子さんが、ふと首を傾げる。
「その……幸せすぎて怖くなるって言うか、貴仁さんがとても優しいので……」
話している内に、顔がぽっぽと熱くなってくるのを感じる。
「まぁ、ごちそうさま。本当に幸せなのね。よかったわ」
にっこりと笑う菜子さんに、ちょっぴりくすぐったい思いで、照れ笑いを返した。
「そうだ、今日は久しぶりに、二人で飲みに行きましょうか?」
菜子さんに言われて、「ハイ!」と、即答した。
──仕事が捌けて、菜子さんと連れ立って居酒屋さんに入る。
「まずは、乾杯しましょ」
そう促されて、生ビールのジョッキをカチンと合わせた。
「二人の幸せに、乾杯ね」
「ありがとうございます」
笑顔で答え、ビールの一口をぐっと飲み込む。
すると菜子さんが、ジョッキを握る私の手元をじっと見つめて、
「結婚指輪、いいわね」
左手の薬指に嵌めたリングを、爪の先で差し示した。
「はい、ペアで貴仁さんもつけてくれていて」
手の平でそっと指輪を撫でて言う。
「貴仁君もなのね。私の旦那なんて、指輪は邪魔だってほとんどしてなくて」
菜子さんがジョッキを片手に話して、
「ただ私の方も、指がむくんでできなくなっちゃって、もうずっとしまいっぱなしだから、あんまり旦那さんのことも言えないんだけど」
と、苦笑いを浮かべた。
「そういえば、慎一さん……さやちゃんのお父さんも、指輪をしていたわよね」
不意の指摘に、そうだったかなと思う。お父さんの指を、あんまりまじまじと見たこともなかったから、私自身は気づいていなかった。
「きっと、今も友梨恵さんのことを、想われているのね……」
(お父さんが、母のことをそんな風に想い続けていたなんて……)と、ちょっぴり涙腺が緩みそうになる私に、
「貴仁君の方も、指輪を見てあなたのことを思い出しているかもしれないし、今晩は早めに引き上げるようにしましょうか」
菜子さんがふふっと優しげに微笑って、
「本当に幸せそうで、よかった……」
そうまたしみじみと口にすると、こらえ切れなくなった涙が私の目から零れ落ちた。