「徹夜⋯ですか?あの?」
「そうそれ」
俺が肯定すると、エルミは顔を真っ青にして膝から崩れ落ちる。
「あ、ああああれは地獄でした⋯⋯!」
そんなにか。もうトラウマレベルなのでは?
「何日こもってたんだ?」
「ええと、1週間はあった気がします⋯。3日ぐらいまでは覚えてたんですけど、そこからはもう⋯⋯⋯」
思ったより酷かった。
「悪い。嫌なこと思い出せちゃったな」
「い、いえ!いいんです。⋯あの、ちなみに黒様は何日徹夜をされていたんですか?」
…様?まあいいか。
てか、それ聞いちゃう?エルミの体験がちっぽけに感じちゃうかもしれないけど。
「ええと、何だか言いにくいな⋯⋯」
「すいません⋯」
「いや、いいんだ。俺はまあ、軽く1年かな」
「い、いち⋯⋯」
王から依頼を承諾した時から一睡もした覚えがない。でも、《睡眠無効》という徹夜用みたいなクソスキルあったからな。耐えられたのはこのおかげかもしれない。
⋯あれ、それだったらクソスキルとは言えないな。なんか悔しい。
それからその時の辛さや怒りを熱く語り合い、
「じゃあお互いのことも知ったことだし、目的地に向かおうか」
「結局、何をするんですか?」
「ふっ、言ったらわかるって」
着いたのは、どの建物より目立ち、中心に佇む王城。そう、俺たちが1度離れた、我が家でもあったお城だ。
今、入門の近くの木から見下ろしている。(城が大きすぎて見下ろせるのは門の奥だけ)
べ、別に憧れていた訳ではないからな。ただ周りを見渡せる所がなかっただけ。うんうん。
「あの、黒様?ここ王城ですけど…」
「うんそうだな」
「まさかここが目的地ですか…?」
「うんそうだな」
「えぇぇぇぇ!黒様ノーリアクションですか?!」
エルミが目を回し始めた。いや、そんなに大袈裟にならなくても。ずっとあの中にいたんだよな?俺たち。
「うんそうだな。あと、大きな声出さないでくれると助かるかな」
「あっ。すいません…」
「とにかく、これからの事を説明するぞ」
ああ、忘れてた。その前にやることあったんだった。
俺はぴょんっと門の真上に飛び乗り、軽く警備中の兵士を眠らせた。勘違いしないでね?《睡眠衰弱》っていう、神経衰弱みたいな名前の魔法を付与しただけだから。
「く、黒様!そこには結界が…」
そう。城が丸裸で過ごすはずがない。国のおっさん(魔術師)達が寄ってたかって、国のためにテキトーに結界を張っているのだ。(※元勇者の感想です)
基本、門を通らないと入ることが出来ないようになっている。だが関係ない。
「大丈夫大丈夫。えーと、まずこの結界を…」
俺は、目には見えない魔力のうすーい層を、人差し指で弾いた。
『バギィイイン…』
「え?黒さん?!」
これではダメだ。おっさん(魔術師)達は、常に魔力を結界に注ぐのを嫌うため、アーティファクトを設置している。
その為、結界を壊しても少し経てば元通りになってしまうのだ。なので…
「《空砲弾》」
『ボンッ』
中に浮いている数十個のアーティファクトを破壊。
「あっ…えっ?」
「《空砲弾》、《空砲弾》!!ふはは!塵がゴミのようだ!」
初級魔法を連打しているうちに、何だか楽しくなってきた。
「塵がゴミって…それ同じじゃ…」
ほう?エルミも驚かなくなったか。(呆れているだけ)中々慣れるのが早いじゃないか。
「セキュリティガバガバだぜぇ?!なあ、王サマよォ!?」
「きゃあああ?!黒様ぁぁあ?!」
ついでに各門番である兵士を眠らせ、さらには俺が大声を出してしまう。
でも大丈夫!既に《隠密》と《隠蔽》、《無音》を使っているからな!
…あ、すまんエルミ。言うの忘れてた。
「あ……」
エルミは心臓バクバク。木の上で、今にも気絶しそうになっていた。それもそのはず、城への奇襲は死刑に値する危険行為。
想像以上の行動に、驚かないはずがない。
「エルミには、姿がバレないような魔法を付与しといたから安心してくれー!それより、こっち来れるか?」
「えっ、む、無理そうです…」
「わかった、ちょっと待ってろ」
俺はエルミに向けて新たな魔法を、一時的に付与した。
「《浮遊魔法》」
「うわっ?!これって…浮遊魔法ですか?」
「おう、よく知ってるな」
「現に存在しないはずの伝説級魔法のひとつを何故…」
あら?これもそうだったっけ?やっべ。
「そ、そんな事していると置いていくぞ?」
「ああっ、待ってください!!」
まずはセキュリティホームこと情報管理室にでも行くか。
記録の修正、しないとなw
コメント
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その日、おっさん共(魔術師)は思い出した__ 予想外の敵襲による恐怖を…… これからの労働(跡形もなく破壊された結界の修復)による屈辱を…… 「(*ノω・*)テヘ」←犯人 何て妄想をしながらここで爆笑してます、相変わらず面白いです!(笑) 次回も頑張ってください!