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晴人×真樹
晴人真樹
晴人
ヘタレ攻め、優しい
真樹
口悪い、自立心ある人
あだ名「キムチ」
「……血、出てんじゃん。じっとしてろ」
真樹が小さなため息をつきながら、引き出しから絆創膏を取り出した。さっき駅前で転んだ晴人は、まだ膝を押さえて床に座っている。
「い、いや、たいしたことないし!自分でできるから……!」
「できてねーだろ。お前、不器用なんだから、バカかよ」
ぺたり、と貼られた絆創膏が、晴人の肌にじんわりと温かい。
「……ありがと、キムチ」
「礼はいいから。あーもう、ほんと情けな。」
口ではそう言うまさきの指先は、やさしかった。そっと膝を撫でるようにして、最後にトントンと貼った絆創膏の上を叩く。
「……ごめん。なんか、迷惑かけてばっかだよな、俺」
「……は?」
真樹が顔をしかめた。
「お前な、謝るくらいなら転ぶな。あと、全然迷惑だって思ってないし」
「うっ……ご、ごめ……じゃなくて、ありがと」
「……ほんっと、お前ヘタレ。……でもまあ」
真樹は少しだけ視線をそらして、照れくさそうに呟いた。
「そういうとこが、嫌いじゃない」
「えっ」
「なんて言ったの?!」
「なんでもない!」
「お願い、もう1回だけ」
「うるせぇ。騒ぐと剥がれるだろ、絆創膏」
晴人 は思わず笑った。
どこか不器用で、でもちゃんと優しい。
まさきの手が、痛みよりもあたたかかった。
それから数日後。
「なに見てんだよ。キモ」
教室の窓際、プリントを片手に真樹が睨んでくる。
「いや……今日の髪型、ちょっと違うなって思って……。かっこいい、かも」
「…お前、急に言うなよ。……バカ」
言葉とは裏腹に、まさきの耳がほんのり赤く染まるのを、晴人はちゃんと見ていた。
最近、少しずつ“変わってきた”気がする。
真樹の態度も、そして自分自身も。
以前なら冗談っぽく流していたこんな会話も、
ちゃんと受け止めたくて──晴人は、思わず言葉をつづけた。
「……俺、キムチのこと……好き、だよ」
「……」
真樹が言葉を失う。それも無理はない。
ずっと流されるだけだった“ヘタレ”の自分が、はじめて正面から気持ちを伝えた。
「…なんで、今……」
「言わなきゃって思ったんだ。キムチのこと、いつも助けてくれて、強くて、でも優しいって……ちゃんと伝えたかった」
真樹はしばらく黙ったあと、ふっと息を吐いた。
「……あーあ。なんだよ、それ。……そんなの、断れないじゃん」
「っ、ほんとに!?」
「……期待すんな。俺、面倒くさいし……お前みたいなヘタレに付き合ってやるの、手間かかんの」
「うん……! でも、それでも、俺がキムチを守りたい。頼りなくても、ちゃんと隣にいたいって思ってる」
「……んだよ、それ。……調子乗んな、バカ」
真樹はそう言いながらも、そっと手を伸ばして、晴人の指を握った。
その手には、小さな傷があった。
「……また、ケガしてんじゃねーか。ほんっと、子どもかよ」
「はは……また、絆創膏お願いしてもいい?」
「……バカ。ずっと貼っててやるよ」
ぎこちなく繋がれたその手のあたたかさが、
まるで絆創膏みたいに、二人を優しくつないでいた。
「……あー、もう無理。辞表出してぇ」
玄関を開けた瞬間、スーツ姿のままソファに倒れ込む真樹。ネクタイはぐちゃぐちゃ、目の下にはうっすらクマ。
「キムチ、お疲れ様……」
キッチンから顔を出した晴人は、エプロン姿のまま心配そうに近づく。
「ごはん、温める? お風呂先に入る?」
「……絆創膏」
「え?」
「心がすりむけた。……貼れ」
「……ああもう、そういうとこ、ほんと変わんないな」
晴人は笑いながら真樹の隣に座って、そっとその頭を自分の肩に預けさせた。
「……キムチが頑張ってんの、知ってるよ」
「……お前も、仕事大変なくせに」
「俺は……真樹が家に帰ってくるだけで、癒されてるから。貼られてるの、俺の方だよ」
「……ヘタレ」
「うん、知ってる。でも、お前が“俺の彼氏”でいてくれてるから、ヘタレでも大丈夫」
真樹がくすっと笑う。そのまま目を閉じて、小さく呟いた。
「……じゃあ、あと10年くらい貼っといて」
「10年どころか、ずっとだよ」
晴人はそっと、真樹の指を握った。
スーツ越しのその手は、仕事の疲れも、日々の重さも全部知っている。
けど、ふたりで支え合えば、それもきっと絆になる。
絆創膏みたいに、剥がれないままで。
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