新学期が始まった。
文化祭の準備が慌ただしく進むようになり、美術部でも展示作品の制作が本格化するようになった。
ソ奏多は、華と二人だけの秘密の場所だった美術室で、黙々と準備を進めていた。
相変わらず、自分の絵を描くことはできないまま…
そんなある日、美術部の部員数人が、ソウタの近くでひそひそと話していた。
「あいつ、相変わらず自分の絵、描いてないよな」
「センスだけはあったのに、もったいないよね」
「結局、挫折したってことだろ。中途半端な奴」
その声は、ソウタの耳にもはっきりと届いた。
彼は、何も聞こえなかったふりをして、ひたすら壁の装飾を続ける。
しかし、隣で話を聞いていたハナが、思わずといった様子で口を開いた。
「そんな言い方、ひどいよ!」
ハナの鋭い声に、部員たちは一瞬静まり返る。
ソウタは、そんなハナの行動に焦燥感を覚えた。
自分にかばわれることは、もう求めていなかった。
「華、もういいよ、大丈夫」
奏多は華を止めた。
彼女は、奏多の言葉にショックを受けたように顔をこわばらせる。
「どうして、そんなこと言うの!?
もっと自分を大事にしなよ」
「自分を大事にしろって……君はいつもそうやって、自分の気持ちを押し殺して、周りの期待に応えようとしてるじゃないか」
「それは……」
「僕を助けるふりして、結局、自分を傷つけてるだけだろ。そんなんで、誰かを愛せるわけないだろ!」
ソウタは、ハナの核心を突く言葉を投げつけてしまった。
それは、自分自身にも向けられた言葉だった。
ハナは、ソウタの言葉に打ちのめされ、言葉を失う。
そして、静かに美術室を出て行った。
あぁ、また独りだ……
と、一人になった美術室で、ソウタは再び孤独を感じる。
華を傷つけてしまった後悔が、胸に刺さる。
自分は、ハナにとっての「居場所」になりたかったはずなのに。
一方、一人になったハナは、涙をこらえながら自宅への道を歩いていた。
ソウタに言われた言葉が、頭の中で何度も繰り返される。
「君は、自分を愛せていない」
その言葉は、ハナがずっと目を背けてきた真実だった。
「なおざりになった 『人生の課題』 ハローグッバイ」
「…私も、頑張らなくちゃ」
華はこれまで背を向けてきた「自分の課題」と向き合うことを、決意した。
次の日から、華は美術室で一人、ある絵を描き始めた。
それは、以前奏多が破り捨てた、あの漫画のキャラクターだった。
奏多の力強い線を生かしながら、自分なりに色を乗せていく……
描いているうちに、華は、奏多がどれほどの情熱をこの絵に注いでいたかを感じ取った。
同時に、過去の失敗を乗り越え、自分自身を認めたいという、自分の心の声にも向き合うことができた。
数日後、美術室のドアを開けた奏多は、キャンバスに向かう華の姿を目にした。
「…!これって……」
華が描いていたのは、自分の絵だった。
そして、その絵を描くハナの表情は、どこか吹っ切れたように見えた。
その光景を見て、ソウタは気づく。
ハナは、僕の代わりに絵を描いてくれているのではない。
自分のために、そして、僕との関係をやり直すために、この絵を描いているのだと。
自分の臆病さから、一番大切な人を傷つけてしまった。
そして、その傷ついたはずの彼女が、自分の「人生の課題」と向き合い、未来を描こうとしている。
その姿に、ソウタは胸が締め付けられる思いだった。
「次は僕がやらないと…」
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誤字等ありましたら、教えてくださると嬉しいです。感想なども大歓迎です!
また、今日中に時間をおいてこの小説は投稿し、次の話で完結します。最後までどうぞお楽しみくださいませ…
コメント
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40以上も♡が!? とっても嬉しいです♪ 次の最終話も投稿いたしましたので、是非お読みください! あと、「藍」というMrs.GREEN APPLEの「藍」の歌詞を元にお話しを書いたものも投稿いたしました。そちらも是非読んでくださると嬉しいです!!