コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
昴side
お泊まり会はとても楽しかった。
斗真と真守と夜通し騒ぎ、次の日の朝
眠そうな俺達を見て、蓮さんと朔月さんに
笑われた。
こんな日が来るなんて。
本当に奇跡だ。
あっという間に時間が過ぎて、2人と朔月さんが
帰って蓮さんと2人きりの時間を迎えた。
「昴」
リビングでコーヒーを飲みながら、こちら視線を
向けてくれて、名前を呼ばれると蓮さんの彼女
にでもなったかと思うくらい心臓が跳ねる。
めちゃくちゃ絵になるのだ。
「はい?」
「今日、一緒の部屋で寝ないか?」
「……え?」
「俺も、昴と夜通し騒ぎたい」
「ははっいいですよ。俺もさっきまで賑やか
だったから寂しかったんです。」
「良かった。昴の部屋の隣の勉強に、ダブルサイズ
のベッドがあるからそこで寝ようか」
「はい。……あの。」
「ん?」
「お菓子とか……持って行ってもいいですか?」
「……最高だな」
「はい!」
多分気を使ってくれたのだろう。
俺が寂しくないように。
ベッドが、2つある部屋じゃなくて、
本当に一緒に寝るんだ。
「このお菓子美味しいな」
「ですよね!俺これ好きなんです」
「これも美味しい」
「え、でもこれ葉っぱの野菜入ってますよ」
「…………昴のご飯のおかげで葉っぱ克服し始め
ているのかも。」
「やった!」
夜更かしを楽しんでいると
あ、そうだと
蓮さんが部屋を出て行ってしまった。
……お仕事かな。
邪魔しちゃダメだ。
どんなに楽しくても忘れちゃいけない。
あの人は俺の雇い主で、俺は雇われている関係。
とても忙しい人だし、こんなに恵まれた環境に
俺なんかを置いてくれているだけで、
有難いこと。これ以上に何を望む。
駄目だな。
どんどん欲が増えて、嫌な人間になる。
この日常が当たり前になっている。
そんな悶々と考えていて、気付かなかった。
部屋に戻って来ていた蓮さんを。
「昴!」
「っ!!!!」
「……どうしたの?具合でも悪い?」
「いや、違くて。その、お仕事ですか?」
「え?」
「部屋出て行かれたので、お仕事残ってたり
したのかなって。俺の事は気にしないで下さいね」
「仕事じゃ無いよ。この間話していた映画の円盤
持って来たんだ。一緒に観ようと思ってね」
「あ、そうなんですね。」
「昴」
「はい?」
「俺はね、昴が大事だし、大好きだよ。すごく」
「え……?」
「今まで一生懸命に生きてきて、もがいて、
苦しんで諦めないで生きてきてくれた君が
大好きだ。今の俺の生活に居なくちゃいけない
存在になっている。だからね、俺自身がやりたく
て、君を第一に考えているんだよ。
君のご飯を早く食べたいから仕事を早く終わらせ
るし、一緒に食べたいから早く帰ってくる。
昴。なにか、悩んでいるよね?俺には教えられな
いこと?」
「…………あ、の。悩んでいるというか。
その。俺、今めちゃくちゃ幸せなんです。
今までの人生のなかで1番。
それは、蓮さんがくれました。
今もくれ続けています。だけど、どんどんそれが
当たり前になっている気がしてるんです。
俺の中で。それじゃ駄目なのに。」
「どうして駄目なの?」
「っ、だって!全部蓮さんがくれてる!
俺は何も返せてないのに。
蓮さんはありがとうって言ってくれる。俺に!
やりたいこと探すって言ってここに連れて来て
貰ったのに、毎日が楽しくてそれすらしていない
こんなんじゃ駄目なんです。それはわかってる。
俺、こんなに嫌な奴だったなんて、知らなかった」
「……ねぇ、昴。
そんなに頑張って大人にならないでよ。」
「っ」
「俺は、そんなに昴に期待していないよ」
「え」
「だって、まだ高校2年生の君に何を期待する?
楽しく友達と笑いあって、適当に勉強して、
未来のこと考えて少し不安になって。
それが当たり前なんだよ。
昴が今の生活を、俺と過ごす毎日を
当たり前だと思ってくれるなら、俺は凄くそれが
嬉しいんだ。君の当たり前の中に俺がいる
ってことだからね。
昴が何度もその事で悩むならその度に俺は言うよ
昴。君は俺の家族だ。幸せになる権利がある。」
「……っ、はいっ。」
「あぁ、もうほら、泣かないよ。
映画観よう!ね!」
「はいっ。」
「あ、でも、ちょっとつまめるの欲しいな。
お腹空いちゃった。」
「ふふっ、はい!何か作りますね」
蓮さんの言葉一つで、俺の人生、俺が頑張ろう
という気持ちになれる。
魔法の言葉を持っているんだ。蓮さんは。
蓮side
彼が少しだけれど、自分の感情を表してくれた。
自分本位では無い俺を気遣った感情だけど
それに喜んでいる自分がいて、心底驚いた。
ダブルサイズのベッドで、一緒に映画を観ていた
はずだけれど、隣にいる彼はいつの間にか
静かに寝息を立てている。
目の周りが少し赤くなっている。
『可愛い』
そんな感情が沸き上がる。
年下の子を見て思う母性本能的な感情なのか、
それとも、別の何かの感情なのか。
別の。
それに名前を付けてしまうとするなら。
愛情なのだろう。
親が子を思う愛情。
恋人を思う愛情。
……恋愛感情。
ふとそんな事を思う時もあるけれど、
きっとそれは無いだろう。
斗真という存在が近くにいるから、
同棲愛が身近に感じているが、そんな興味本位で
感じていい気持ちじゃない。
昴は、ただでさえ波乱万丈な人生を送っている。
その中にまた新たな困難を与える訳には
いかない。もし、この感情が、恋愛感情ならば
それは、俺の中だけのものだ。
そもそも、来る者拒まずで恋愛をしていた俺は
ちゃんとした恋愛感情がよくわからない。
だから、最も近くにいる昴にそういう感情を
抱いていると勘違いしている可能性もある。
「――――んーっ。」
隣で眠る彼の頭を撫でるくらいは
愛情を抱いている。
昴side
蓮さんと映画鑑賞していたはずが、いつの間にか
寝てしまっていた。
起きると目の前に蓮さんの整い過ぎた顔があって
めちゃくちゃ驚いた。
その日はまったりと過ごして、
お泊まり後初の月曜日。
学校に着くなり、
真守が俺と斗真を大声で呼んだ。
「もーなに?まもちゃん!うるさいよー」
「おはよう2人とも」
「いや一大事なんだよ!勉強教えてもらってから
家で勉強したんだけどさ、普通に解けたんだわ」
「「……ん?」」
「全く解けて無かったもんが解けるようになって
て、俺天才?」
「天才かどうかは別として良かったじゃーん!」
「今度のテストまでに
もっと天才になるしかないね」
「おう!またよろしくな!」
その時見せてくれた真守の笑顔が
なんだか、キラキラしていて目眩がするほどの
幸福感を感じた。
昴side
《ガチャ》
あー、今度は靴か。
バイトがある放課後は辞めて欲しいな。
最近俺はいじめられているらしい。
…強がりとかでは無くて、本当に辛いとか
悲しいという気持ちがないから別にほっておいて
いるけれど、物が無くなるのは探すのが面倒だ。
しかも、今日は靴。
そして、バイトがあるから帰りのHRが終わり
いの一番で教室を出て来たのにこれだ。
……面倒くさい。
大体、近くのゴミ箱に入っている事が多い。
辺りのゴミ箱を探したが
今日は中々見つからない。
んー。
まぁ、やむを得ない事情だからね。
中履きのまま帰ることにした。
……面倒と言う理由でほっておいたが、
それが今以上に面倒な事になるとは、
まだ知らなかった。