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この日、伊波はカゲツと共に討伐任務へと出向いていた。増援として呼ばれた2人は空を裂いて走り速やかに戦線へ入る。増援を呼ばれるだけあって現状は苦戦を強いられていた。けれど、西の最高戦力ともなるディディカの二人が来ればその場は一気に形勢逆転し、最終的には他の増援者は手を出せず任務は終わりを告げたのだった。
これにて無事終了、とこの話はそう簡単に終わらない。任務が片付いたと同時にカゲツに人が寄ってきた。カゲツは一部から尊敬される先輩ヒーローとして名を有している、そしてそれは今日も憧れの眼差しを一心に受けていた。カゲツはそれが少し苦手らしい。
伊波はその場から一歩引く、カゲツに向けてキラキラとして目を向ける反面、そいつは伊波を見る時だけそのハイライトを沈めるのだ。どうやら伊波は尊敬の先輩リストには入っていなかったようで、カゲツがもう帰ろうと伊波の手を引っ張った時鋭く睨みつけられた視線を背中から感じ取った。
「お昼どうする?どっか食べ行く?」
「あ〜…あっ、ごめんオレ大学行かなきゃ。」
「え、今から?」
「うん。レポートの提出日ちょっと延ばしてもらったんだよね。」
「そうなんや。…タコ暇かな。」
カゲツは懐からデバイスを取り出し星導に連絡をとる。山道からやっと抜けた先、伊波に手を降ってその場を離れた。
結局星導は鑑定士の仕事があり、カゲツは外食を断念した。確か、拠点に買いだめしているカップ麺があった事を思い出し、小柳が日々溜めているカップ麺を一つ拝借し今はソファにだらけている。その時かちゃりと扉が開けられた。
外から入ってきたのはつい2時間ほど前に別れた伊波で、その姿は俯いていた。
「…伊波?」
その声を聞いてライは顔をあげ、いつも通り笑顔を見せて何?と尋ねた。
「いや…何でもない。」
「そう?なら良いけど。オレお腹ペコペコでさ、何かない?」
「戸棚にカップ麺あるよ。」
「マジ? やったぁ」
キッチンの戸棚に手を伸ばし、お湯を沸かす姿にカゲツは何かしらの違和感を積もらせていた。何処か、ぎこちないようなそんな気がする。
「なぁ、伊波。何かあった?」
「なんかって?」
「大学で再提出くらったとか、ヒーロー本部行って説教されたとか。」
「………別に。」
振り向かず伊波は答えた。こりゃなんかあるな。と1年弱チームを組んでいるカゲツはそう思った。伊波は結構溜めるタイプだ。溜めて、溜めて、ちょっと漏れ出る事あれど自分から吐き出そうとはしたことがない。さりげな~く愚痴を呟いたり、コザカシイを怒りのままハンマーで潰したりとたまに分かりにくい所でストレスを発散しているが、それではあまりにも空きが足りない。
ガシャンっ!とキッチンの方から音がした。急いでソファから起き上がり伊波の元へ駆け寄ると、ポットを落としたのか床が濡れて湯気が立っていた。伊波は熱湯で手を火傷したかのか右手を押さえてうずくまっている。普通ならすぐさま冷水で冷やすはずだろうに、声にもならないうめき声をあげその場に留まっていた。
「伊波、手冷さんと…!」
伊波の脇に手を差し入れ支えながら立たせ、シンクの水を右手に掛けた。
ほっと息を吐いたカゲツは伊波の顔色をうかがう。どう考えても普通じゃない、きっと疲れているんだろう。顔半分には影が落ちていた。
「………ごめん…もう大丈夫。」
「大丈夫には見えんけど。」
「…オレ…顔に出てた?」
「顔というか、雰囲気?なんかあったやろ、やっぱ。」
「……ごめん。不快にさせた。」
「不快?別に思ってないけど。」
「だって、見るからに疲れてるのに無理に振る舞ってるのって見るに耐えないでしょ。」
「……別にぃ。」
「気使わなくて良いよ。」
「いや…うん」
今日どうした? いつもの伊波じゃない。そう言いかけて、口を噤んだ。そんな事言われてもっと疲弊して仕舞わないか怖くなり、伊波の背に置いておいた手をそっと撫でるようにして少し目を伏せた。
よくよく見れば伊波から微かに術の気配がする。青くてもやっとした小さな煙が体から出ているようなそんなイメージ。カゲツはじっと伊波を見つめてその術を掛けた人物を探し当てようとした。
「……ああ…アイツか」
「え?カゲツ、何か言った?」
「んーん、別に。伊波、ソファ座っとって良いよ。床とか僕が拭くから。」
「え……でも、自分で零したんだから自分で片付けるよ。」
「いーや、今の伊波はつかれとる。絶対休んだ方が良い。」
「なぁ、伊波。なんか話せる事ある?それか僕に頼れる事とか。」
伊波の背中を優しく撫でながらすぐ横に並ぶ頬をそっと寄せそう呟いた。
伊波は間を開けてふるふると首を振った。肩に伊波の顎が擦れる。じんわりと服に涙が染みていく感触がした。
「…そう」
「……」
成人男子がソファに座って抱き合っていると言う光景はあまり見れたものじゃない。そう同期の狼なら顰め顔で言うだろう。しかし、カゲツは嫌悪感を覚えるどころか気分は少し高揚していた。お互い顔は見えないが伊波はきっと泣いているんだろう。泣いて、自分に縋って、声を押さえて、自分の弱い部分を少しだけ垣間見してくれている。それが例え何処の馬の骨か知らずの者に掛けられた呪術だとしても、今伊波が横にいる事が擽ったく思った。
どのくらいこの体制で居たのだろう。カチカチと鳴り続ける秒針に意識を向けていると、ふと肩に伸し掛かっていた頭がゆっくりと上がる。何か、声を掛けようと思ったが赤く腫れた目元を見てキュッと喉が締まった。まだ潤む目を伏せて、伊波はカゲツの背中に回していた手をそっと頬に移す。その後ムニムニと頬を手の平で押してぎゅっと上へあげる。むぎゅっとしたカゲツの表情を見て鼻から息を漏らす。
「……ちょっと、気分良くなったかも。ありがとね、カゲツ。」
「…そりゃ、良かった。」
そっと伊波の頭に手の平を乗せる。軽く撫でると伊波の方から頭を寄せて来て、カゲツの手の平を捕まえては自分の頬に添えた。柔らかく、優しく握られた時、手の平から腕までスッと力が抜けた。どんな手錠や手枷よりも外せないと思った、握られる手を離されるとストンとソファに沈む。
暫く同じ体制でいたからか、伊波はぐいと伸びをして大きく欠伸をする。
「あーっ、なんで泣いてたんだっけ…カゲツ分かる?」
「えっ。」
「分かる訳無いか。」
そう言うと、伊波はソファから立ち軽くストレッチをしながらキッチンへ向かって行った。結局、彼の弱さは分からないままだ。一体どんな思いで泣いていたのか、カゲツには知る由もない。ただ、泣く事となった原因とは、キッチリと話を付けなければならないだろう。
「カゲツー、カップスープ飲むー?」
「あー…飲むー。」
まぁ、後でも構わないけど。