注意⚠️
中華パロ、捏造、キャラ崩壊、本番の匂わせあり、オチ無し、晒し行為はお控えください。 何でも許せる方向け
夜の路地裏に焦る息遣いが響く。二つの速度の違う足音が交互になり、着実に近づいてきていた。
ピュンっと黒い光が頬を掠め、壁に刺さった。伝う血を手で抑えつけて、奥歯をかみしめた。ゆっくりと余裕綽々と近づいてくる男に伊波は声をあげて一か八かの賭けをした。
「…ねぇっ!ちょっとお話しようよ!」
「何、 命乞いか?」
「命乞いって言うより、お願いに近いかな。」
壁に背を置いて、影から姿を現す男をじっと見つめた。月光に照らされている白髮が眩く光り、2色の眼光が伊波を睨む。汗と仄かな血が頬を伝って顎に落ちる。傷口を抑える手をぎゅっと握りしめた。
「オレさ…死ぬ時は幸せの絶頂でありたいの。それで、オレの中の一番の幸せって、誰かにめいいっぱい愛して貰う事なんだ。」
「………なんそれ、結局どうしたいん。」
「一番愛を感じられる行為………知らない?」
そういじらしく笑ってみせると、呆気に取られている男の胸へと飛び込んだ。
抱き着いた瞬間、直ぐ様頭を掴まれクナイを突き付けられる。が、引っ張り剥がされる前もしくは首を刺される前に、伊波はちゅっと口にキスをした。瞬間、ピタリと男は静止する。カランっと落ちたクナイ。ぞわぞわと這う感覚が背筋を駆け巡り、顔は給湯器ように赤くなっていく。ガンッと離れろ!!と叫ばれる代わりに腹に軽めの蹴りを食らった。
「ちょっと!蹴るこた無いでしょお!」
「うっさい! 黙れ黙れ!!なんなん!?急にっ…!」
そう声を荒げる彼を前にクスリと口角を上げて、服の土を払いながら伊波はうっとりするような目で告げる。
「オレはね、ぎゅーして、ちゅーして、最後に寝床の上で抱き合うのが、一番愛してるを感じられると思ってるんだ。」
一つ、二つやっても十分愛は伝わるけれど、死ぬ時くらいは死ぬ程の愛を味わってみたい。
「だからさ、オレに全部やってよ。忍者さん。一気に二つやったから あと一つだよ。」
少し戸惑う彼も、最終的には伊波についてきていた。流石に道端で及ぶ訳にはいかないので、伊波の家に行く事になったのだ。家に入り早々、2階に上がり寝室へと招かれる。
「そういや、名前なんて言うの?」
「…教える必要ある?」
「名前言い合った方が、なんかえっちじゃない?」
「………」
じとっとした目で見つめられる。明らかに呆れた顔で溜息をはくと、叢雲カゲツ…と呟いた。
カゲツはどかっとベッドに腰掛けると、いそいそと部屋を片付け始める伊波を横目に見ていた。
「お前、色んなマフィアのボスから懸賞金かけられてるぞ。一応、僕も雇われた一人やし。」
「知ってるー。心当たりあるもん。」
「……依頼される時、殺す理由は言われんかったんよね。僕も興味ないからは聞かんかったけど、なんでなん?」
「えー? お小遣いちょうだいって色んな人に言い回っただけだよ。」
「いや…意味分からんやろ。パパカツって事?」
そう言うと、伊波は吹き出してふくふくと笑い始めた。持った荷物を落とさぬよう、確かにそうだと告げる。パパ活と言ったのはカゲツだが、カゲツはパパ活の意味を知らなかった。ただ、なんとなぁーくは知ってるので理解したように首を縦に振る。
簡単に言うと、自分の顔の良さと愛嬌を最大限使って、怖いもの知らずにマフィアの首領に金を絞り続けたらしい。流石に絞り取られ過ぎた一人が、騙された自分を棚上げして伊波を殺すようカゲツに依頼した言う事になる。そして、カゲツも現在進行系でハニトラに引っかかりそうになっているのである。
(どうしよっかなぁ〜……金と女を天秤にかけてんのか今……いや、男か…あれ?じゃ、金一択やないか…?)
てか今から僕初対面とやるの? と今更過ぎる事に気が付く。相手はもう既にシャワーを浴びに行ったっていうのに。ベッドの上に寝っ転がって、カゲツはやっと今の状況を理解した。カゲツは最近20歳になったばかりで、そういった事もやった事がない。
まずいか、ちょっと。逃げ出そうと思えば簡単に逃げ出せる。けれど、女(男)を取らず帰るにも、今ここで殺しとかないと金も取れないどころか、マフィアの依頼を完遂できず逃げ帰った事実だけ残る。そうすれば、結構ややこしい事になるに違いない。
殺すかこのまま初めてを捨てるか。
(普通なら、殺す一択なんやけど……。)
顔が良い。それだけでカゲツの心は揺らいでいる。話し方も何処か愛くるしさがあって、言動も好感が持てる。笑う顔も、思わず吹き出してしまう顔も、追いかけている時に見せた焦っている顔も、全部 可愛いと、その時のその時を思い起こしながらカゲツは一人思った。
なる程、どうりで被害者が多くいる訳で、殺したくなる程憎む理由も分かる。手の平で踊らされてるような感覚は確かにカゲツにイラつきを覚えさせた。
悩んでいると時間切れを告げるように部屋の扉が開き、伊波がひょこりと顔を出す。
「お待たせ、寝てたらどうしようかと思った。」
「……寝れるわけ無いやろ。こっちは心臓バクバクいってんのに。」
そう言うと伊波は口角を上げて笑うと、ベッドを這ってカゲツの傍に寄った。
「緊張してるんだ。近くで見れば可愛い顔してるね。」
そう、可愛い顔の奴に言われる。今もなお、カゲツの脳内は伊波と大金で天秤が揺れている。若干、伊波に傾きつつあるが。
伊波はカゲツを引っ張って枕元へ頭を向ける。カゲツが上体を起こすと、伊波はカゲツにぐいと顔を近づけた。カゲツの脇腹あたりに手を置いて、じっと上目遣いでこちらを見てくる。天秤が、グラグラと揺れる。けれど、カゲツの顔はやたら冷静に見えた。
「……ねぇ、ほんとにやんの?」
「え、嫌?」
「いや…嫌なんかな…初対面やし、でも絶対嫌って訳やなくて…でもなんか…さ。」
そうしどろもどろに答えるカゲツに伊波は口をつぐむ。が、すぐに口を開いてまるでなだめるような撫で声で話す。
「でも、もうここまで来たんだからさ。今更オレのお願い聞かないなんて言わないでよ。」
「せやけど…」
「それにっ、絶対満足させれるよ? カゲツがしたいなら、どんなプレイだってやるし…」
伊波はカゲツの両手を掴むと自分の頬に擦り付けた。自分の手を追うように伊波の顔に視線を向けると、頬に冷や汗が伝っているのが見えた。焦っているのだと、カゲツは気付く。だってそうだ、ここで断れれば殺されるんだ。だから好きになって貰うのに必死になっている。
「ね、お願い…。」
そう不安げに呟く、ここまで演技なのかどうか分からないけれどカゲツはその顔にしてやられたと、心臓が痛いほどなった。
その後まぁ、ご想像通りで。朝起きて、伊波の顔見て、カゲツの脳内の天秤は完全に伊波側に傾いていた。なんなら地面が抉れるほど堕ちた。
伊波の方もなんだかんだカゲツを気に入って、一緒に暮らさないかと持ち掛ける。
「一緒に暮らすんだったら、引っ越しかなぁ。」
「なんで?この家めっちゃ広いやん。」
「そりゃ、買ってもらった家だからね。でも、一人で暮らす分にはさ、広いけりゃ広い程良いんだけど、好きな人と暮らす時は少し狭い方がオレは好きかな。」
カゲツは目を見開いて、きゅっと口を窄める。すぐにふいと顔を反らし、好きにすれば。と呟いた。
そんな日から数ヶ月後。ある手紙が届いた。封を開けるとハラリと1枚の紙が宙を舞う。拾い上げてみると、そこには昨日の一夜中の目隠してぐちゃぐちゃの姿の自分の写真であった。直ぐ様裏返し、手紙の内容を確認する。
「何も言わず帰った事に腹を立てています。謝りに来ないと許しませーん。恨み積もって写真をばら撒いちゃうかも。 匿名蛸より」
このふざけた文章とヒントのタコ。そしてこの写真を撮れたのは一人しかいない。
「星導からだ…絶っ対!」
「誰?それ。」
「んー……今彼。」
「イマカレって何や?」
「今の彼氏…。」
そう言うと、カゲツは目を見開いてガバッと伊波の肩に手を置いて揺さぶる。
「それって僕やないの!?」
「カゲツはぁ、本命。」
「それってイマカレと何が違うねんっ!」
閑話休題
ダイヤルを回して電話を掛けると、ワンコールで繋がる。
「ちょっと、星導? この手紙どういうつもり?」
「おや、ちゃんと届いたんですね。どういうって、書いてる事が全てですけど。」
「意味が分かんないんだよ!」
「だって、貴方。誰にでも好きだって言ってるんでしょう?魔性さん。」
電話越し、怒りや呆れなどの心に薄い冗談の膜を乗せた言葉を吐く彼は、遊ばれている立場に居るのを完全に理解している。
「傷付いちゃったなぁー、あーあ、聞いちゃったんだー、ライが誰とでもやるタラシだって。」
「人聞き悪い…。」
「事実でしょ。」
「……確かに、他の人達にも同じような事は言ってるけど、全部嘘で絆してるから。星導に対しては全部本気だよ。」
そう言うと、相手から何も返ってこなくなる。行けたか…?と決めかねていると、ガチャリっと通話の切れる音とピーピーという残響が鳴った。逃げた、いやまだ怒ってるかもしれない。なんなんだ、アイツの感情全てが読めない。面のわりに面倒だし、めっちゃ重い。
どうしたもんかと伊波は親指の爪を齧る。
「いなみー、僕もそれ言われたい。全部ホントって、言われたぁーっ…んぐ。」
ぺしっと寄ってくるカゲツの顔に例の写真を押し付ける。ナニコレ。と顔から外してまじまじと見つめ固まってしまったカゲツを無視して、直接話がしたいようである男に会いに行ってやる事を決めた。
チャリンっと受話器を置く音が鳴ると、星導は口角をつりあげた。
「これでライは俺の所に来る筈……。」
「またやってんのか、恋人ごっこ。」
「ごっこじゃないでーす。本気でーす、マジの修羅場なんですぅー。」
「お前はそうでも、相手がごっこ遊びしてるだけだろ。」
そう言うと、小柳は手にもつ書類を雑に星導の机に置く。ムスッと頬を膨らませると、星導は腕を組む。
「なんて酷い事言うんですか。貴方雇われ主でしょ、雇い主にそんな事言っていいの?」
「別に、クビになったら他の奴に雇ってもらうだけだし。」
「 小柳くんも誰でも良いって言うのっ!?」
勢いよく立ち上がり星導は声を荒げる。小柳は顔を顰め、直ぐ様耳に手を当てた。黙っていれば威厳があるもんだが、喋るとこうだ。面倒くさい男に成り下がる。
「こんなに優しい主人は他にいないと思うけどねぇ!?タメ口も遅刻も許してあげてる主人なんてさぁ!」
「あー あっー!分かったって!俺が悪かった!」
不貞腐れた顔で椅子に座り直す。ガキじゃないんだから、拗ねる姿は可愛いの欠片もない。あるのは扱いのムズいジジィの姿だけ。まぁ、彼の言う優しい主人というのは認めざるおえない。あんまり、かしこまった言動が出来ない自分にとってはタメ口が許されるのは結構助かってはいるからだ。後、遅刻も。
星導が拗ねるとこの状態を直せるのは一人しかいない。小柳は溜息を吐いて、いたたまれない気持ちから今此方に向かっているだろう彼の到着を早くなるよう望んだ。
チャリンチャリンと玄関のベルが鳴った。その後は足音がダンダンと響き、2階の扉が開かれる。
「星導ー? 来てやりましたけどー。」
「同棲中とかいうカゲツさんは?」
「出かけるってだけ伝えて来た。後同居ね。」
「よっしッ…!」
そう机の中でガッツポーズをとるも、声は漏れてるし顔でバレてる。星導はにんまりと笑うと、視線を扉に向けて、小柳に出てけと無言で伝える。小柳は溜息を吐いて、星導に耳打ちする。
「お年玉は今年の2月にあげてるからな。認知症で忘れてねぇだろうなお爺ちゃん。」
「しっかり覚えてますよ。それにもし、今月もあげてもそれは認知症では無く、自分の意思です。」
「………後で泣きっ面見るのはお前だからな!」
俺は知らん。と小柳は部屋を出いった。
星導はせっせとお茶を用意し、伊波に近くの椅子に座るよう言った。お茶を持って、自分も伊波の隣に座る。
「それで、電話と手紙の件だけど。謝るって、口だけで謝っても許される?」
「そんな訳無いでしょ。こちとらマフィアですよ、落とし前つけて貰わないと。」
「はぁー…だと思った。……朝になったから帰っただけじゃんかー。」
「何も言わず帰った事に腹を立ててるんです。起きたらいなくて、もう世界中探してやろうかと思ったんですよ?」
そう星導は微笑んで、左手をスルスルと伊波の身体に這わす。下から上へ持っていき、耳のピアスを指で揺らして遊び始めた。
「……で? 何して欲しいの?」
「付き合ってください。」
「……。」
「無理ならデート。」
「何処行くの?」
「付き合うのは無理なんですね……。」
はぁーと星導は溜息を吐き、ピアスで遊んでいた指も力無く下がった。
「だって、本命いるし。」
「えぇー、絶対俺の方が……」
「会ったこと無いでしょ。てか星導から会うの拒否ってんじゃん。」
「だって、見たら本当にいるって事になっちゃうじゃないですか。認識しなかったらいないと同義なんですよ。」
意味が分からないと伊波は顔を顰める。星導はそんなの気にも留めず、その顔可愛い。などと言いながら伊波の眉間をちょんと突ついた。
「ま、いいや。デートね、予定そっちで決めといて。」
そう言って、席を立つ伊波の腕をぐっと掴んだ。伊波は無言で振り返り、腕に力を入れて引っ張る。しかし星導は一向に離さず。
「何っ!? まだ何かあんの?」
「もう少しゆっくりしてきません?」
「しない!」
伊波は声を荒げると星導の手を払い除け、扉に向かう。が、星導は直ぐ様伊波に飛び付いて足を掴んだ。
「まだ帰らないでぇ!」
「帰る!」
「泊まって行きません?」
「明日普通に予定あるから…」
「それって朝からですか?昼からなら朝一番に帰れば間に合いますよね?」
正気ではなさそうな笑顔で足にしがみつき、振り払おうもタコ足のように離れない。
「カゲツに出かけるだけって言ってるから!」
「今電話すればいいじゃないですか!」
「もしもし、カゲツ? あー、駄目だって。」
「絶対かけてないでしょ!!」
画面真っ黒だったもん!と幼子のように泣きつく。最後の手段とでも言うように、星導は延長!と叫んで伊波の目の前に札束を見せた。
「……俺がそんなんでつられるとでも?」
「……」
「十分だけね…。」
きっかり十分測って、伊波は今度こそ駄々をこねる星導を払い除けて部屋を出た。そのまま一階へ行くと、書類仕事をしている小柳と目が合う。
「…うちの主人。振るなら早めに振ってくれ、そろそろ金銭がカツカツなんだ。」
「そうなの? でも星導の方が離れたくないって言ってるよ。」
「…………早く新しい金ヅル見つけろよ。」
「はぁーい。」
最後にいじらしく笑ってみせると、眉間のシワを深くさせ睨みつけられた。
きっと、伊波から離れたいと言っても星導は離れないし、他の人ができても星導がその存在を許さないだろう。
金はいくらあっても良い。伊波は金を多く出せる方の物になると決めている。
ただ、最近はプライベートでペットを飼うのを許可してくれる人じゃないといけないだろう。
家に帰った瞬間、ない尻尾をブンブン振るカゲツを見ながらそう思った。







