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「はぁ、、、。」と思わずため息をつく。何故かって?そんなん決まっとるやろ。俺の視界いっぱい書類、書類、書類。そしてその中心には濃い隈を作って、今も俺が居ることにも気が付かずに書類をしている書記長が居た。

「トントン、おーい。」

俺が声量を上げて名前を呼ぶと、普段ならうるさそうにする書記長ははっとした様子で俺に微笑んで

「ロボロ、どうしたんや?」

と、そう言ってきた。うわ~、、。めっさ違和感あるし何ならキモイ。可哀想とも思わない自分はやはり無慈悲なのだろうか。そんなことを考えながら、もはや恒例行事のようなこの事態を想定して持ってきた香水を取り出す。勿論ただの香水ではない。睡眠薬を気体にして、あらかじめ買っておいた香水に混ぜたものだ。

「香水買ってみてん、使ってや。」

そうして俺が振り向いたころには、書記長は深い眠りの底に落ちていた。


それにしても、と俺は書記長を医務室に運んでもう一度帰って来てから考え事をしていた。流石におかしい量の書類だ。普段はこれよりもっと少ない。と言ってもまぁ大概多いんやが。そして俺は近くにある書類を一枚とって目を通す。あぁ、そう言う事かと納得する。

「すまんな、トントン。機密情報なんやろうけど、俺は知っとる奴やねん、これ。」

誰も居ない部屋に声が木霊する。そして俺はその書類の大半を持って自室に帰るのだった。


たまたま見つけたそいつは、ひどくふらふらしていて顔色も悪かった。多分入りたての新人なんだろう。仲間の死体でも見たか。その時のことだった。そいつの後ろから手が伸びてきて、思いっきり押されて反応しきれなかったそいつは落ちていく。流石の俺でも、無事では終わらないんだろうな。それに、と俺は自分の手元を見る。トントンの書類はまだやっている途中だが、自分の書類は提出が近いため書記長室まで持っていこうとしていた。今はその途中だった。まぁしゃーなしやな、と俺はその兵士に手を伸ばし庇う体制になる。その数秒後、ゴンッという痛々しい音がして俺は意識を失った。


目を開けると見慣れた白い天井。医務室かと思い起き上がろうとすると

「ロボロ幹部ッ!申し訳ございません!」

という声が耳元から聞こえた。あー、そう言えばそうやったな。一般兵庇って階段から落ちて、、、あ~資料やり直しや。最悪やな~。そう思っていると、ぺ神がやって来て驚いた顔をした後すぐにインカムに繋げて何か話していた。その刹那、物凄い勢いで医務室の扉があけられ、真っ先に紫のヘルメットをかぶった奴が姿を現した。

「ロボロさん!聞きました!大丈夫なんですか⁉」

?誰やこいつ。こんな奴俺知らんぞ?

「ロボロさん?どうされました?」

やっぱ敬語やし幹部では無いやんな?にしても一般兵としても見たことないぞ?

「どうしたんですか?体調でも悪いんですか?」

「えっと、、、お前誰や?」

その一言にそいつは目を見開いて驚いた。いつの間にかやってきていた皆も何故か暗い表情をしている。

「あー、もしかして新入生か?」

その質問は答えらず、代わりに少し震えた声が返って来る。

「いやいや、冗談きついっすよ。」

かなり顔が青ざめているが、本当に覚えがない。人違いだろうか。

「冗談やないで?」

出来るだけ場を和ませようと、ニコッと笑って返事をする。いや、きっと気まずいだけだ。いつの間にか皆の顔も青ざめていて、悲しそうな、キレそうな、複雑な表情をしていた。

なんで皆そんな顔しとるん?

俺の素直な疑問は口に出すことなく、俺の中だけで消えていった。そんな中、一人が口を開き言った。その言葉を。

「記憶、、、喪失だね。」

記憶喪失?俺が?と少しは思ったものの、俺は周りを見てすぐに理解した。何もかもを。俺の近くには沢山の手術道具があった。それだけ全力を出さなければいけないほど、俺はやばい状況だったのだろう。でもそれだけ全力を尽くしてもなお、俺を記憶喪失にさせてしまった”医療の神”はやるせない顔をしている。

そんな顔すんなや。記憶喪失なんてどうにもならんもんねんから。

その言葉も、口に出されずに俺の中で消えていった。

「す、すみません!」

「え?ちょ!」

俺の呼びとめも無視してそいつは帰っていった。

「わ、私!ショッピさんの所行ってきます!」

そういい勢いよく扉を開けて出ていくエミさん。何かまずい事をしてしまっただろうか。いやまぁ俺がショッピと呼ばれた人物の事を忘れたのは確かなんやが。そこまでショックを受けるほど仲良かったんやろか。なんて考えながら、俺はあいつが出ていった扉を見つめていた。



「すまんな。」

と誰も聞いていないであろう言葉を発する。

自分もお前も、もう覚えてちゃいけない事やから。

自分には、もうこうすることしかできないから。


”どうかこのまま、何も知らないまま、幸せに暮らしてくれ。”

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