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救命救急室に戻ってきた青年患者は、既に瀕死の状態だった。髙地が胸骨圧迫を続ける中、北斗と京本がすぐさま蘇生処置に入る。
「気管挿管完了、換気良好!」
「アドレナリン投与、今2本目!」
「心電図、PEA!」
心臓はまだ拍動を取り戻していなかった。
京本の額に汗が滲む。
「心嚢液なし、テンション気胸も否定…原因は出血性ショックだ」
「輸血ラインフルオープン!樹!」
北斗が叫ぶ。
「血液足りない!今在庫ギリギリだ!」
田中樹の声が張り詰める。
「……CRUSH症候群の可能性も高い」
京本が呟く。
──長時間の挟圧による筋肉崩壊、そこから漏れ出す毒素が全身を蝕んでいく。
「腎保護、カリウム排出開始する!」
静脈ラインから急速輸液が流れ込む。
午後3時15分──
手術室では、また新たなオペが始まっていた。
「臓器灌流がかなり悪い。肝機能も限界ギリギリだ」
ジェシーの顔が険しくなる。
「樹、動脈圧保て!」
「わかってる!昇圧剤もう限界値超えてるぞ!」
大量の出血、虚血、臓器障害──
ジェシーのメスは躊躇なく血管を探り、命の綱をつなぎ止める。
慎太郎がモニターを操作しながら叫んだ。
「腎血流ほぼゼロ!尿出てない!」
「人工透析も考えろ!」
ジェシーが叫ぶ。
午後3時30分──
「心拍再開!」
北斗の声が響いた。
「……けど弱い、自己心拍40台」
京本は冷静に心電図を見つめる。
しかし安堵はなかった。これはまだ”死戦期”──生と死のはざまにいる状態だった。
「カリウム上昇、致死性不整脈のリスクが高い!」
樹が薬剤を次々と投与する。透析準備も同時進行だ。
「これ以上、持つかどうか…」
髙地が歯を食いしばる。
「持たせるんだよ、絶対に!」
京本の声が救命室に響いた。
彼らは知っている。
もう一歩間違えれば、たった一つの数値の乱れで、この命は消えることを。
午後4時──
崩壊寸前だった患者は、ついに透析導入へ移行された。
毒素の除去が始まり、わずかに心拍が安定し始める。
京本はそのモニターをじっと見つめながら、指先が震えていた。
「……間に合った、のか」
だが、その瞬間も、隣の部屋では次の重症患者が到着していた。
休む間など、どこにもなかった。