テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
進んでいるうちにだんだん騒がしくなってきた。きっとこの先では乱闘が繰り広げられているのだろう。
無陀野「そろそろ本格的に戦闘が始まる。気を引き締めろ。」
戦場は地獄のような総力戦だった。お互いを殴り斬り血を流して戦っている。皆散り散りになって乱闘の中へ消えていった。
そんな中で知った顔を見つけた。
氷介「…滝谷?」
元々の世界で僕の部下だった奴だ。こいつは気さくで良い奴だった。鬼も沢山殺した。
僕の声に反応してばちっと目が合う。
滝谷「…は?誰だ?」
当たり前だ。この世界では面識なんてないんだから。
当たり前なのになんで心が痛いんだ。
頭では無駄だと分かっていたのに何故か口が勝手に動く。
氷介「僕だ…!氷介だ!!お前はよく知っているだろう!」
止まらない。何故だ。お願いだから止まってくれ。惨めになるだけなのに。
滝谷「お前みてぇな鬼知らねぇに決まってるだろ!!」
分かってるのに
氷介「ぼくも大概馬鹿だな…」
滝谷が襲いかかってくるのに体ひとつ動かせやしないんだ。不甲斐ない。
殺さなきゃ死ぬ、殺さなきゃしぬ、こロさなきャシぬ…!
でも殺せない…!!
ダメだ頭がぐちゃぐちゃになって対応しきれない。
― バンッ
突然聞こえた銃声が僕の思考を全てかっさらう。頭が冷めていくのを感じる。次第にはっきりしてきた意識が銃声の正体を突き止める。
一ノ瀬…?
四季「しっかりしろよ!!」
四季「多分だけどあいつお前の部下だったやつなんだろ!?部下に人殺させんじゃねぇ!」
四季「ましてや自分の上司をな!!」
そうだ。しっかりしろ。
氷介「…ごめん。お前には沢山世話になったけど殺すね。」
せめて痛くないように、安らかに。
ドサッと滝谷が倒れる。
鼻の奥が痛い。なんでだろう。こんなこと初めてで分からない。
目頭が熱い。殺すのってこんなに疲れるっけ?なんでこんなに苦しいんだ?
四季「…お前にも仲間を大切にする気持ちあんじゃん。」
たいせつ…そうか、僕は僕が思ってた以上に仲間が大切だったんだな。
今まで苦労をかけたよな。ごめん僕が頼りないばかりに。でも僕は気づけたよ。
大切だからこそもうこんなことはやめて欲しい。
本当は気づいてたんだ。鬼を殺すことが正当ではないこと、桃の中に蔓延る淀んだ空気も、僕がどれだけ鬼を殺したってもう過去を清算出来ないことも、その考え方すら間違ってることも…
氷介「一ノ瀬、ありがとう。」
氷介「せめて安らかに逝けるように。」
僕の能力はそれに適している。今までの鬼も血を見せず綺麗に殺してきた。少し乱暴にはなるけど、内側の内臓を切り裂いて殺す方法だ。中は汚いけれど表は綺麗に死ねる。一瞬なので痛みを感じる暇もない。
桃が倒れていく。
ふと独りよがりではないかと不安になった。
でも僕は思う。これがこの不必要な戦いに参加させられる君たちを救う唯一の手段だったのではないかと。