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瀬名 紫陽花
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91
睡魔
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1件
わあ……第38話、読み終えました。七年前の出会いが明らかになって、胸が熱くなりました。玲くんが迷子の星羅ちゃんの手を握ったあの温かさが、ずっと心の奥に残ってたんだなあって思うと、それだけで泣けます。そして甘い約束の直後に、もう一人の影と謎の手紙……運命の裏側にまだ何かがある感じがして、続きが気になって仕方ないです。素敵なエピソードをありがとうございます。
翌朝。
星羅は。
ほとんど眠れなかった。
机の上に置かれた。
一枚の古い写真。
そこに写っているのは。
幼い自分。
そして。
顔のほとんど見えない少年。
「……玲くん」
何度見ても。
そうとしか思えない。
服装。
髪。
そして。
自分の手を握っている、その手。
全部。
記憶の中に残っていた。
「……七年前」
星羅は目を閉じる。
ぼんやりと。
昔の記憶が蘇る。
――夏。
大きな人混み。
母親の手を離してしまった。
「……お母さん?」
幼い星羅は。
一人で歩いていた。
知らない人ばかり。
怖い。
泣きそうになる。
そのとき。
『大丈夫?』
「……え?」
一人の少年が。
目の前に立っていた。
『迷子?』
星羅は。
小さく頷いた。
『お母さん、どこ?』
「……分かんない」
『そっか』
少年は少し考える。
『じゃあ、一緒に探そう』
「……うん」
少年は。
星羅の手を握った。
温かかった。
その手を握って。
二人で歩いた。
しばらくして。
『あっちじゃない?』
少年が指差す。
そこに。
「星羅!」
母親がいた。
「お母さん!」
星羅は駆け寄る。
振り返る。
少年は。
少し離れたところで笑っていた。
『よかった』
「……」
星羅は。
少年のところへ戻る。
「ありがとう」
『うん』
「名前は?」
『……玲』
「玲くん?」
『そう』
「私は星羅!」
『……星羅』
少年は。
その名前を繰り返した。
『じゃあね、星羅』
「うん!」
『また会えるといいね』
「……うん!」
少年は去っていった。
――そして。
それが。
二人の最初の出会いだった。
「……」
現在。
星羅の目から。
涙が落ちる。
「覚えてる……」
全部ではない。
でも。
あの手の温かさ。
声。
そして。
名前。
ずっと。
心のどこかに残っていた。
教室。
「玲くん」
「ん?」
星羅は。
写真を持ってきていた。
「これ……」
「……?」
玲が写真を見る。
しばらく。
何も言わない。
「……」
玲の顔が。
少しずつ変わる。
「これ」
「……」
「どこで?」
「私の家にあった」
「……」
玲は写真を見つめる。
「この子……」
「うん」
「星羅?」
「……たぶん」
玲は。
目を閉じる。
「……思い出した」
「……!」
「七年前」
「うん」
「夏祭りの帰り」
「……!」
「迷子の女の子がいた」
星羅の胸が高鳴る。
「その子」
「……」
「星羅だったのか」
「……うん」
二人は。
しばらく見つめ合う。
「……すごいね」
星羅が笑う。
「何が?」
「私たち」
「……」
「本当にずっと前から会ってた」
「ああ」
「しかも」
星羅は少し笑う。
「最初に私を救ってくれたのも、玲くんだった」
玲は。
少し困ったように笑う。
「俺は覚えてなかったけどな」
「でも私は覚えてた」
「……」
「ちゃんと」
星羅は。
玲の手を握る。
「この手」
「……」
「ずっと覚えてた」
玲も。
その手を握り返す。
「……なんか不思議だな」
「うん」
「七年前に会って」
「うん」
「一年前にも会って」
「うん」
「そして今」
玲は星羅を見る。
「恋人」
「……!」
星羅の顔が一気に赤くなる。
「……言い方」
「事実だろ」
「そうだけど……」
星羅は玲の腕に抱きつく。
「……嬉しい」
「そうか」
「うん」
そのまま。
玲の肩に頭を乗せる。
「ねえ」
「ん?」
「これって運命かな?」
「……」
玲は少し考える。
「そうかもしれない」
「……!」
星羅の顔が緩む。
「じゃあ」
「?」
「これからもずっと一緒だね」
「ああ」
「約束」
「約束」
――放課後。
校舎裏。
玲は一人。
昨日のメッセージを思い出していた。
『七年前の夏の日を』
「……」
そこへ。
「黒瀬くん」
「……?」
昨日の少女。
玲の前に立っていた。
「何か用?」
「……話したいことがある」
「何?」
少女は周囲を見る。
「ここでは言えない」
「……」
「あなたと天城さんのこと」
「星羅?」
「うん」
玲の表情が変わる。
「何を知ってる?」
「……七年前のこと」
「!」
少女は。
一枚の封筒を差し出す。
「これ」
「……?」
「あなたが落としたもの」
「俺が?」
「正確には」
少女は言う。
「七年前の夏に、あなたが持っていたもの」
玲は封筒を受け取る。
中には。
一枚の紙。
古い。
子供の字。
『星羅ちゃんへ』
玲の呼吸が止まる。
「……」
さらに。
『また会えたら、一緒に遊ぼう』
玲は。
その文字を見つめる。
「……俺が書いた?」
「そう」
「でも……」
「あなたはその手紙を」
少女が続ける。
「星羅さんのお母さんに渡した」
「……!」
「そして」
少女は言う。
「その後、あなたのお母さんから一つ聞かされた」
「……何を?」
「星羅さんが」
「……」
「引っ越すかもしれないって」
玲の目が見開かれる。
「……」
その記憶は。
完全には思い出せない。
でも。
何かが。
胸の奥に引っかかる。
「じゃあ」
玲が呟く。
「俺は……」
星羅と。
もう二度と会えないと思っていた?
「……」
少女は。
静かに言った。
「でも、七年後」
「……」
「二人は再会した」
「……」
「だから私は」
少女は少し笑う。
「運命って、本当にあるのかもしれないって思ってる」
玲は。
封筒を握りしめる。
「……ありがとう」
少女が去っていく。
その直後。
玲のスマホが鳴る。
星羅から。
『玲くん、今どこ?』
玲は少し考えて。
『学校』
『じゃあ待ってて』
『すぐ行く!』
数分後。
「玲くーん!」
星羅が駆けてくる。
「……」
「どうしたの?」
「いや」
玲は。
封筒を隠す。
「何でもない」
「……?」
星羅は玲を見る。
そして。
少しだけ目を細める。
「……何か隠してる?」
「……」
「玲くん?」
「まだ話せない」
「……そっか」
星羅は笑う。
「じゃあ待つ」
「……ありがとう」
「でも」
星羅は玲の手を握る。
「いつか全部教えてね」
「ああ」
「約束」
「約束」
二人は歩き出す。
その背中を。
校舎の窓から。
一人の男子生徒が見ていた。
「……」
手には。
七年前の写真。
「ようやく思い出したか」
そして。
小さく笑う。
「でも――」
写真の裏側。
そこには。
もう一つの名前。
『星羅』
その下に。
別の名前が書かれていた。
『黒瀬玲』
「二人が出会ったのは」
男子生徒は呟く。
「七年前が最初じゃない」
「……もっと前だ」
その言葉とともに。
写真が。
ゆっくりと暗闇へ消えていった。