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#青春恋愛
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夏希(なつき)
166
奇蹟あい
1,760
翌朝。
星羅は。
ほとんど眠れなかった。
机の上に置かれた。
一枚の古い写真。
そこに写っているのは。
幼い自分。
そして。
顔のほとんど見えない少年。
「……玲くん」
何度見ても。
そうとしか思えない。
服装。
髪。
そして。
自分の手を握っている、その手。
全部。
記憶の中に残っていた。
「……七年前」
星羅は目を閉じる。
ぼんやりと。
昔の記憶が蘇る。
――夏。
大きな人混み。
母親の手を離してしまった。
「……お母さん?」
幼い星羅は。
一人で歩いていた。
知らない人ばかり。
怖い。
泣きそうになる。
そのとき。
『大丈夫?』
「……え?」
一人の少年が。
目の前に立っていた。
『迷子?』
星羅は。
小さく頷いた。
『お母さん、どこ?』
「……分かんない」
『そっか』
少年は少し考える。
『じゃあ、一緒に探そう』
「……うん」
少年は。
星羅の手を握った。
温かかった。
その手を握って。
二人で歩いた。
しばらくして。
『あっちじゃない?』
少年が指差す。
そこに。
「星羅!」
母親がいた。
「お母さん!」
星羅は駆け寄る。
振り返る。
少年は。
少し離れたところで笑っていた。
『よかった』
「……」
星羅は。
少年のところへ戻る。
「ありがとう」
『うん』
「名前は?」
『……玲』
「玲くん?」
『そう』
「私は星羅!」
『……星羅』
少年は。
その名前を繰り返した。
『じゃあね、星羅』
「うん!」
『また会えるといいね』
「……うん!」
少年は去っていった。
――そして。
それが。
二人の最初の出会いだった。
「……」
現在。
星羅の目から。
涙が落ちる。
「覚えてる……」
全部ではない。
でも。
あの手の温かさ。
声。
そして。
名前。
ずっと。
心のどこかに残っていた。
教室。
「玲くん」
「ん?」
星羅は。
写真を持ってきていた。
「これ……」
「……?」
玲が写真を見る。
しばらく。
何も言わない。
「……」
玲の顔が。
少しずつ変わる。
「これ」
「……」
「どこで?」
「私の家にあった」
「……」
玲は写真を見つめる。
「この子……」
「うん」
「星羅?」
「……たぶん」
玲は。
目を閉じる。
「……思い出した」
「……!」
「七年前」
「うん」
「夏祭りの帰り」
「……!」
「迷子の女の子がいた」
星羅の胸が高鳴る。
「その子」
「……」
「星羅だったのか」
「……うん」
二人は。
しばらく見つめ合う。
「……すごいね」
星羅が笑う。
「何が?」
「私たち」
「……」
「本当にずっと前から会ってた」
「ああ」
「しかも」
星羅は少し笑う。
「最初に私を救ってくれたのも、玲くんだった」
玲は。
少し困ったように笑う。
「俺は覚えてなかったけどな」
「でも私は覚えてた」
「……」
「ちゃんと」
星羅は。
玲の手を握る。
「この手」
「……」
「ずっと覚えてた」
玲も。
その手を握り返す。
「……なんか不思議だな」
「うん」
「七年前に会って」
「うん」
「一年前にも会って」
「うん」
「そして今」
玲は星羅を見る。
「恋人」
「……!」
星羅の顔が一気に赤くなる。
「……言い方」
「事実だろ」
「そうだけど……」
星羅は玲の腕に抱きつく。
「……嬉しい」
「そうか」
「うん」
そのまま。
玲の肩に頭を乗せる。
「ねえ」
「ん?」
「これって運命かな?」
「……」
玲は少し考える。
「そうかもしれない」
「……!」
星羅の顔が緩む。
「じゃあ」
「?」
「これからもずっと一緒だね」
「ああ」
「約束」
「約束」
――放課後。
校舎裏。
玲は一人。
昨日のメッセージを思い出していた。
『七年前の夏の日を』
「……」
そこへ。
「黒瀬くん」
「……?」
昨日の少女。
玲の前に立っていた。
「何か用?」
「……話したいことがある」
「何?」
少女は周囲を見る。
「ここでは言えない」
「……」
「あなたと天城さんのこと」
「星羅?」
「うん」
玲の表情が変わる。
「何を知ってる?」
「……七年前のこと」
「!」
少女は。
一枚の封筒を差し出す。
「これ」
「……?」
「あなたが落としたもの」
「俺が?」
「正確には」
少女は言う。
「七年前の夏に、あなたが持っていたもの」
玲は封筒を受け取る。
中には。
一枚の紙。
古い。
子供の字。
『星羅ちゃんへ』
玲の呼吸が止まる。
「……」
さらに。
『また会えたら、一緒に遊ぼう』
玲は。
その文字を見つめる。
「……俺が書いた?」
「そう」
「でも……」
「あなたはその手紙を」
少女が続ける。
「星羅さんのお母さんに渡した」
「……!」
「そして」
少女は言う。
「その後、あなたのお母さんから一つ聞かされた」
「……何を?」
「星羅さんが」
「……」
「引っ越すかもしれないって」
玲の目が見開かれる。
「……」
その記憶は。
完全には思い出せない。
でも。
何かが。
胸の奥に引っかかる。
「じゃあ」
玲が呟く。
「俺は……」
星羅と。
もう二度と会えないと思っていた?
「……」
少女は。
静かに言った。
「でも、七年後」
「……」
「二人は再会した」
「……」
「だから私は」
少女は少し笑う。
「運命って、本当にあるのかもしれないって思ってる」
玲は。
封筒を握りしめる。
「……ありがとう」
少女が去っていく。
その直後。
玲のスマホが鳴る。
星羅から。
『玲くん、今どこ?』
玲は少し考えて。
『学校』
『じゃあ待ってて』
『すぐ行く!』
数分後。
「玲くーん!」
星羅が駆けてくる。
「……」
「どうしたの?」
「いや」
玲は。
封筒を隠す。
「何でもない」
「……?」
星羅は玲を見る。
そして。
少しだけ目を細める。
「……何か隠してる?」
「……」
「玲くん?」
「まだ話せない」
「……そっか」
星羅は笑う。
「じゃあ待つ」
「……ありがとう」
「でも」
星羅は玲の手を握る。
「いつか全部教えてね」
「ああ」
「約束」
「約束」
二人は歩き出す。
その背中を。
校舎の窓から。
一人の男子生徒が見ていた。
「……」
手には。
七年前の写真。
「ようやく思い出したか」
そして。
小さく笑う。
「でも――」
写真の裏側。
そこには。
もう一つの名前。
『星羅』
その下に。
別の名前が書かれていた。
『黒瀬玲』
「二人が出会ったのは」
男子生徒は呟く。
「七年前が最初じゃない」
「……もっと前だ」
その言葉とともに。
写真が。
ゆっくりと暗闇へ消えていった。
コメント
1件
わあ……第38話、読み終えました。七年前の出会いが明らかになって、胸が熱くなりました。玲くんが迷子の星羅ちゃんの手を握ったあの温かさが、ずっと心の奥に残ってたんだなあって思うと、それだけで泣けます。そして甘い約束の直後に、もう一人の影と謎の手紙……運命の裏側にまだ何かがある感じがして、続きが気になって仕方ないです。素敵なエピソードをありがとうございます。