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モノクロナツキ
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#オリジナル
モノクロナツキ
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モノクロナツキ
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「いらっしゃいませ、お待ちしておりました」定休日である月曜日の、お昼頃の秀太さんのサロン。
メッセージで送られてきた地図を頼りに重い扉を開けると、出迎えてくれた洸くんは、いつもの黒を基調とした尖った私服とは違って、柔らかくて優しい色合いの服を着ていた。
「……っ、よろしくお願いします」
思わず、頭の先から靴の先までじっくりと目に焼き付けてしまう自分に我に返り、急いで頭を下げた。
どうしよう、可愛すぎる。これは、寝る時のジェラピケの洸くんに寄った系統の服装だ。もちろん、普段の黒い服装も大好きだけれど、彼の元々のどこか幼さを残す綺麗な顔立ちには、こういう淡い色合いの方が抜群に似合っている。
「こちらにどうぞ」
近くのソファにバッグと上着を置いていると、椅子へと誘導される。
そっと鏡越しに彼を確認すると、少しだけ気恥ずかしそうな、けれどどこか嬉しそうな横顔を見せていた。
誰もいない、静まり返った広々とした店内。
そこに、僕と洸くんの2人きり。
それだけのシチュエーションで、心臓はすでにドンドンと激しく連打しているかのような爆音を奏でていた。
首元にクロスを巻く手つき、ハサミやコームを準備する一連のプロの動作に、思わず見惚れてしまう。
ジィッと鏡越しにその様子を見つめていると、「ん?」と洸くんが気づき、さっきまでのプロの顔つきから、ふわりとした優しい笑顔に戻った。
「……服、よく似合ってます」
「ふふっ、ありがとう。こないだ秀太にぃと新店舗の打ち合わせの後に、見つけたお店で買ってもらってん。可愛いやろ?」
少し萌え袖になった袖口を見せつけるように、僕の前で腕を伸ばして笑顔を向けてくる。僕が少し照れながら頷くと、洸くんはもう一度「ありがとう」と満足そうに微笑んでくれた。
それにしても、秀太さんナイスです……! 本当にさすが、一番近くにいて洸くんの魅力を理解してらっしゃる!!
キュンキュンと鳴り止まない胸を、クロスの下から「落ち着け」と必死に手で押さえ込んだ。
「……新くんの髪、結構しっかりしてるな。金髪ベースやから、暗めに戻すなら、ただの黒じゃなくてアッシュを混ぜて透明感出した方が絶対にカッコよくなるかも」
「あ、はい……っ。洸くんにお任せします。……カッコよくしてください」
緊張しながらそう伝えると、洸くんは「まぁ、新くんはなんもせんでもカッコいいけどな」と、僕のガチガチな緊張をほぐそうとしてか、笑顔でサラリと冗談を言ってくれた。
だが、今の僕にはそれが致死量の褒め言葉だった。洸くんに気づかれないよう、一瞬だけ白目をむいて脳内で一回気絶した。
そんな脳内大パニックに気づくわけもなく、洸くんの冷たい指先が僕の髪に触れ、丁寧にブロッキングしていく。頭皮に触れるその感触があまりにも優しくて心地よくて、でも相変わらず緊張で全身を硬まらせるしかなかった。
◇
カラー剤を塗り終え、髪に色が定着するまでの待ち時間。
コップに淹れてくれたお茶を飲みながら、洸くんがセット面の椅子に腰掛けた僕の前に立ち、ふと興味深そうに視線を投げかけてきた。
「……新くんて、普段どんな仕事してるん? BARって聞いたんやけど、こないだカフェの仕込みもやってるって言うてたし。俺、そういう世界行ったことないから興味ある」
「……基本的には夜の営業と、お店の経営全般を任せてもらっています。カクテルを作ったり、お客様のお話を伺ったり……。仕事終わりのバーのおつまみとカフェの仕込みは、僕のわがままでやらせてもらってるんですけどね」
「へぇ……」と、洸くんは僕の顔をじっと見つめる。
「なんか、すごいな? 俺なんて、やっと秀太にぃの店で本格的にスタイリストデビューできるのに」
「そんな、僕は元々、専門学校を辞めてフラフラしてた時に、奥さんの方のカフェの味に出会って『働きたい』と思ったんですけど……バーの人手が足りなくて、偶然旦那さんの方に流れた感じですから。だから、ずっと明確な夢を追って頑張ってきた洸くんとは全く違うものというか……本当に尊敬してます」
僕が謙遜しながら真っ直ぐに伝えると、洸くんは「……そうやなぁ、自分の頑張ってきたものを人と比べてどうとか言うたらあかんな」と思い出したように笑顔になってくれた。
「……でも、偶然はじめたことでも」
洸くんが少しでも自分に興味を持ってくれた事に嬉しくなり僕はバーテンダーとしての自分のスタンスを少しだけ話したくなった。
「お酒の飲めない20歳までは、レシピを完璧に仕上げるという、学校のお勉強のようなものだったんです。でも、ひとつひとつの味が確かめられるようになってからは、そのお酒の深さや意味、そしてそれを注文されるお客様の愛好を知ると……なんだか、その人の口には出さない人間性がわかるような気がして、すごく楽しくなりました。仕事を終えて扉を開けて一歩中に入ってきたお客様が、昼間の疲れや嫌なことを全部忘れて、少しでも特別な時間を過ごせるように……って考えながら、いつもカウンターに立つようにもなりましたし。……だから、今こうして洸くんが僕の髪を真剣に扱ってくれている姿を見て、すごく刺激を受けるというか……やっぱり、プロってすごいなぁって、改めて思ってます」
鏡越しに真っ直ぐそう伝えると、洸くんは一瞬だけ丸く目を見開いた。
「……、ありがとうね。美容師ってお客さんにとっては結局、結果だけ、みたいな所もあるから。そこに行き着くまでのプロセスを褒められるのはほんまに嬉しい。それに、新くんの仕事、偶然はじめたことでも、それを維持して更に高みを目指していくのってほんまにすごい事やから。新くんもすごいよ、プロやわ。ほんまにかっこいい」
真っ直ぐにサラリとそう返された洸くんの言葉に、胸がグッとなる。
あかんわ、好きすぎて眩暈がする。これ、最後の施術が終わるまでに本当に救急車を呼ぶ羽目になるんじゃないだろうか。
◇
「……じゃあ、そろそろ時間やからシャンプー台移動しよっか。流していくから」
案内されたシャンプー台に仰向けになり、目の上に薄いフェイスガーゼを載せられる。
視界が完全に遮断されたことで、周囲の音と、彼の気配だけが何倍にも増幅されて脳内に響いてきた。
心地よい温水が頭皮を包み込み、洸くんの手が髪を洗い始める。時折、至近距離に感じる彼の気配が気持ちを高揚させ、けれど同時に、触れられる心地よい体温に導かれていく。
「……痛くない?」
「はい……気持ちいいです。……寝てしまいそう……」
「……ふふっ、やっと敬語とれた」
「あ……」
しまったと思うと同時に、洸くんとの心の距離がほんの一歩、踏み出せたみたいで、無性に嬉しくなった。
優しい洸くんの笑い声と、丁寧に僕に触れる温もり。この世の幸せをすべてかき集めたような夢のひとときに、胸の奥がじんわりと温かくなっていった。
「……よし、綺麗に流せた。次はパーマいくから、戻るよ」
頭をタオルで包まれ、上体を起こした瞬間、ガーゼが外れて洸くんの顔が至近距離に現れる。
「ふふっ、ガーゼ外し忘れちゃった」
照れたように笑う、その綺麗な瞳と目が合った瞬間、僕の心臓は、今日一番の大きな音を立てて跳ね上がった。
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