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つーづきっ
しばらく、どっちも動けなかった。
言葉にしたら壊れそうで。
でも黙ったままでも、胸の奥がじんわりあったかくて。
藤澤「…恋人、かぁ。」
ぽつりとこぼれた声に、自分で照れる。
大森「なに、実感してきた?」
くすっと笑う元貴の声が、いつもより近い。
藤澤「うん…なんか。」
藤澤「今さら、じわじわ来てる。」
そう言うと、元貴は少し驚いた顔をしてから、困ったみたいに笑った。
大森「それ、俺も。」
目が合って、また黙る。
でもさっきまでの沈黙とは違って、この沈黙は、全然怖くなかった。
気づけば、窓の外はすっかり暗くなっていて。
藤澤「…今日帰りたくない…かも。」
ちらっと元貴の様子を伺うと優しい視線とぶつかる。
大森「泊まってく?」
その言い方があまりにも自然で、胸がきゅっと鳴った。
藤澤「…うん。」
それだけで、十分だった。
お風呂の音を背中で聞きながら、ソファに座る。
さっきまで座ってた場所。
さっき、気持ちを確かめ合った場所。
藤澤「…恋人、だって。」
小さく呟くと、勝手に口元が緩む。
なにこれ。
思ってたより、ずっと嬉しい。
特別なことは何もしてないのに。
ただ一緒にいて、同じ空間にいるだけなのに。
胸の奥が、ずっとふわふわしてる。
「涼ちゃん。」
名前を呼ばれて振り返ると、タオルを肩にかけた元貴が立っていた。
大森「眠くなった?」
藤澤「…ちょっと。」
嘘じゃないけど、全部でもない。
大森「じゃあ、寝よっか。」
そう言って、電気を落とす。
並んで布団に入って、天井を見つめる。
近い。でも、触れない。
その距離が、やけに大事に思えて。
藤澤「…ね。」
大森「ん?」
藤澤「今日さ」
藤澤「ちゃんと…付き合ったんだよね、僕たち。」
確認みたいな言い方になってしまって、少し恥ずかしい。
でも元貴は、はっきり答えた。
大森「うん。」
大森「俺の恋人。」
その一言で、胸がいっぱいになる。
藤澤「…ふふ。」
思わず、笑ってしまった。
大森「なに。」
藤澤「いや…」
藤澤「幸せだなって。」
暗闇の中で、元貴が小さく息を吐く。
大森「…それ、俺も思ってた。」
静かな夜。
何もしなくても、何も言わなくても。
この時間が、ちゃんと続いていく気がして。
目を閉じながら、もう一度だけ思う。
…僕らほんとに付き合ったんだ。
そう思ったら、自然と眠りが落ちてきた。
……
次の日
スタッフ「これで打ち合わせ終わりまーす」
「ありがとうございましたー」
打ち合わせが終わった途端、若井が僕らの元に飛びついてきた。
若井「ねぇ、あの後どうなったの!?」
大森「あー、」
藤澤「えっと…」
僕たちは目を見合せて、一呼吸おいてから若井の方へ向き直る。
大森「付き合うことになりました。」
そう言いながら僕の手を取る元貴。
若井「おぉー!おめでとう!!」
若井は心から祝福してくれているのが伝わり過ぎるほど喜んでくれた。
それがどうにも嬉しくて、恥ずかしくて。
下を向いてしまう。顔あつい…///
すると、ふわ、と何かが頬に当てられ、顔を上げさせられる。
若井の指だった。
若井「なに照れてんの〜?」
藤澤「っ、わ、わかい…」
若井「顔、真っ赤。」
藤澤「…うるさい。」
大森「ほっとけって。」
そう言いながらも、元貴はどこか照れたみたいに視線を逸らす。
若井はその様子をじっと見てから、急に何かに気づいた顔をした。
若井「あ。」
若井「その服、昨日と一緒じゃん。」
藤澤「え、」
一瞬、言葉に詰まる。
若井「しかも二人とも、妙に眠そうだし。」
若井「…さては。」
若井はわざと間を置いてから、にやっと笑った。
若井「もしかして昨日泊まった?」
藤澤「なっ…!」
一気に熱が顔に集まるのがわかる。
否定しようと口を開いた、その瞬間。
大森「泊まったけど?」
さらっと。
本当に、何でもないみたいに。
若井「は!?」
若井「いや待って待って、そんな顔でそれ言う!?」
藤澤「も、元貴……!」
大森「事実だし。」
そう言って、少しだけ口元が緩む。
…絶対わざとだ。
若井「うわ〜…そっかぁ…」
一拍置いてから、にやっと笑う。
若井「なにそれ、付き合って初日でお泊まり?」
若井「青春すぎん?」
からかう声なのに、嫌な感じは一切なくて。
むしろ、ちゃんと嬉しそうで。
藤澤「なにもしてないから…///」
思わず小さくそう言うと、若井は一瞬きょとんとしてから吹き出した。
若井「そこ言うんだ。」
藤澤「えっ、や、あ…」
大森「おい、俺の大事な涼ちゃんいじめんなよ。」
若井「はいはい、ごちそうさまでーす。」
でも、すぐに少しだけ真面目な顔になる。
若井「でもさ。」
若井「涼ちゃん、ちゃんと大丈夫そうでよかった。」
その一言に、胸の奥がきゅっとなる。
藤澤「…うん。」
大森「俺がいるから。」
迷いのない声。
若井「はいはいはい〜!」
若井「もう完全に恋人だね、これは。」
そう言いながら、若井はどこか安心したみたいに笑った。
若井「じゃ、俺は邪魔だからもう行きまーす」
軽い口調のまま背を向けて、数歩進んでから、ふと思い出したみたいに振り返る。
若井「…あ。」
若井「ちゃんと幸せにしなよ。」
一瞬、空気が変わる。
大森「言われなくても。」
即答だった。
若井は満足そうに口角を上げて、今度こそ去っていく。
かちゃん、と扉が閉まる音。
静かになった空間で、元貴の手が、ぎゅっと指を絡めてくる。
当たり前みたいに繋がれたその手が、まだ少しだけくすぐったい。
藤澤「…恋人、なんだなぁ。」
ぽつりと漏れた声に、元貴が小さく笑った。
大森「今さら?」
藤澤「今さらだから、だよ。」
昨日から今日にかけて、世界は何も変わってないはずなのに。
隣にいる人が“恋人”になった。
それだけで全部が少し違って見えた。
若井「……俺も好きだったんだけどな、」
コメント
6件

うわぁぁぁあ最後そうくると思ってなくて切なさが😭😭
うわぁー、最高っす、😌🫶🏻 わきゃい、さん、、 最後でしんみり、神です