テラーノベル
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「はい、乾杯〜!」
3つのグラスが軽やかにぶつかり合う。
元貴の部屋のテーブルには、空きかけの缶ビールとチューハイ、コンビニで買ったつまみが雑に並んでいた。
深夜1時。
収録帰りに集まって、いつの間にか飲み会が始まっていた。
ソファにだらしなく寝転ぶ藤澤が、ぽそっと言う。
「ねぇ……誰が一番キス、上手いんだろね、俺ら。」
「は?」
元貴が思わず吹き出す。
「唐突すぎるでしょ、涼ちゃん。酔ってる?」
「酔ってるけど?てか気にならない?俺らもう10年以上一緒にいるのに、さすがにキスの腕前とか知らないでしょ?」
「いや、知らなくていいわ。笑」
若井が笑いながらも、どこか楽しそうに頬杖をつく。
「でも……面白そうじゃない?」
「え、なに、なに、なに、元貴もノる感じ?」
「だってさ、こんだけ飲んで、眠くもならずにいるんだから、遊びたくなるじゃん?」
にやっと笑う元貴の目が、いつもより少し潤んで見えた。酔いも手伝って、空気はすでにふわふわだ。
「じゃあ……“さくらんぼの茎”チャレンジ、やってみる?」
「え?」
藤澤がぽかんとした顔をする。
「アレだよ。“舌でさくらんぼの茎を結べる人はキスが上手い”ってやつ。」
「都市伝説だろ、それ。」
「まあまあ、面白半分で。ね?」
元貴が冷蔵庫から取り出したのは、パック詰めされたダークチェリー。
手際よくお皿に出して、3人の前に茎つきのさくらんぼを1つずつ配る。
「ということでー! ミセスの舌技チェック、いってみよーう!!」
「いやこれ絶対あとで後悔するパターンだって……」
「やらない選択肢はない。全員酔ってるし!」
元貴がやたらノリノリだった。
こういう時、彼の中に潜む“無邪気な悪ノリ体質”が最大火力で爆発する。
完全に酔っているから、制御不能。
「じゃあ……俺からでいい?」
若井が手を挙げ、さくらんぼの茎を1本手に取る。
口に含んで——数秒。
「……できた」
「は!? 早っ!」
元貴が目を見開く。
若井は笑いながら、舌で見せるように茎を押し出した。
ちゃんと結ばれている。しかもけっこう綺麗。
「いやお前、変態だもんな」
「おい!笑笑」
爆笑が部屋に響く。
藤澤は「待って待って、俺もやってみるわ!」とフラフラ立ち上がり、茎を慎重に口に含む。
「っん〜〜〜……ん、んんっ……っく……」
眉間にしわを寄せ、頑張ること数十秒。
そして——
「できたー!!」
自信満々に口から出した茎は——
「……全然結ばれてねぇじゃん」
元貴が素でツッコむ。
「えっ、えっ!? 嘘、これ輪っかになってない?」
「いや、ぐにゃっとしてるだけ」
「やっべ〜、俺、キス向いてないかも……」
若井と元貴が笑い転げる中、藤澤が「次、元貴な!」と無理やりバトンを渡す。
「え〜、俺絶対こういうの苦手だって……」
文句を言いながらも、元貴はさくらんぼの茎を口に含んだ。
静かな時間が流れる。
さっきまで笑っていた藤澤と若井が、無意識にその様子を凝視していた。
「……ん」
数十秒後、元貴はふっと息を吐いて、そっと舌先で茎を押し出した。
そこには、綺麗に、しかも芸術的に結ばれたさくらんぼの茎があった。
「うそだろ……」
若井が思わず口に出す。
藤澤もぽかんとしていた。
「え、ちゃんと結べてた? なんか結べた感覚全然なくて……」
本人だけが一番驚いているような口調だった。
その顔を見て、2人の中で一斉に何かが点灯した。
音楽性も天才だけど。
——絶対こいつ、キスもめっちゃ上手いだろ。
そして、誰が言ったか分からないけれど、空気の中にぽつりと落ちた一言。
「……じゃあさ、実際に、誰が一番キスうまいか、やってみない?」
酒のせい?
ノリのせい?
それとも、ずっと内側にあった火種がちょうどよく燃え上がっただけ?
真夜中の部屋に、ぞくりとした空気が満ちていく。
そして——
“キスが一番上手いのは誰か”という、おバカなはずの遊びが、
とても本気の夜に変わろうとしていた。
コメント
8件
fjord帰りにこれは、、最高😭
今日遠出してきた!疲れたけどこれみて元気でた⸜(* ॑꒳ ॑* )⸝
めちゃ この先 気になる(笑)