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アオノミライ ~ネコロマンサーと掃除機が、絶滅どうぶつの魂を今日も集める!~ 【能力の無駄づかい編】
第11話 - 第1話-1 ギガントピテクス1 『大物歌手か! ①』
3,446文字
2026年05月03日
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2026年05月03日
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花粉はもとより、食べ過ぎ・飲み過ぎの“スギ”に過剰反応してしまいそうな、うららかな春のある日の夜。
花粉を凌駕する迷惑なヤツがやって来た。
騒音の元、ド短足の変態。
そう、マキネだ。
「リクトくん。いるっすか~?」
勝手に作った合鍵を使い、リクトの部屋に侵入したマキネ。
窓を望めば辺りは闇に包まれ、光は殆どない。
誰もが寝静まっているころだ。
「依頼が来たんすよ。早く知らせたくて。リクトくん、起きてくださいっす」
マキネは、寝ているリクトのまぶたをこじあける。
懐中電灯を点滅させるなど、嫌がらせの限りを尽くす。
とどめにリクトの額をビタンと叩いた。
「眩しいんだよ。お前はクラスの人気者か?」
リクトは、ボソっと意味不明な文句をもらした。
目を閉じた状態でリクトが手を伸ばす。
マキネのこめかみを正確に捕えた。
「ふがぁ、いてえっす。ウチが悪かったってば。何だよこの怪力は。オメエの握力は一体いくつあんだよ!」
リクトの「四百キロはある」という返答に、マキネはたまらず膝をつく。
「明日にしろ」
マキネの懇願虚しく、リクトにあっさりと一蹴する。
「午前十二時を過ぎてっから、今日が明けてるっす!」
マキネの言葉を受けたリクトの頭からプチっと何かが切れる音がした。
マキネのありとあらゆる関節を外し、また元に戻すという嫌がらせを施す。
間髪いれずバックドロップを繰り出し、マキネを床に沈めた。
静寂を取り戻した室内。
リクトは深い眠りにつく――。
翌朝。
大物を呼ぶため、リクトとマキネは河川敷へと来ていた。
「なんだかなぁ。体の節々が痛いんすよね~」
昨晩、リクトに全ての関節を外されたマキネが、肩をグリンと回しながら歩いている。
マキネのマユゲがV字になっている。
修学旅行で顔に落書きされた中学生のようだ。
「今日はウチをロープで縛らないんすか? 簀巻きにもしてくれないんすか? ちょっと期待してたんすけど」
頬を赤らめながら、どこか残念そうにマキネが問う。
「依頼遂行中、依頼者に何かあったら困るからな」
「そうなんすか。それはそうと、リクトくんは何でスーツ着てるんすか?」
「正式な依頼だからな。相手への礼儀だ」
「やっぱり殺し屋にしか見えないっすね。まあ、いいや」
腹話術の人形みたいな形相のマキネが書類をリクトに手渡した。
「これ依頼書。目をかっぽじって良く読んでくださいっす」
依頼書は、マキネが依頼主から聞き取った内容をチラシの裏に書き写したものである。
依頼が入ると、こうしてマキネが書面を持ってくることになっている。
リクトは、マキネが書いた落書き同然の依頼書に目を通す。
「なんだ? この猿っぽい絵は」
「依頼主の『ギガントピテクス』さんすよ。依頼内容は後で話すらしいっす」
史上最大の霊長類であるギガントピテクスは、パンダとの生存競争に敗れ絶滅してしまったという背景を持つ。
そんな、ちょっと残念なギガントピテクスの願いを叶えるというのが今回の任務だ。
「ネコロマンシーなんてバカでも出来るんで心配ねぇっす。万が一の時はウチがなんとかするんで」
普段は鬱陶しいだけのマキネだが、この時ばかりは、リクトの目には頼もしく映っていた。
「リクトくん。やっぱ、ウチをロープでギュウギュウに縛っておくれよ~」
「ド短足の変態は黙れ!」
「おっと、言葉責めってやつですかい?」
マキネを無視して、リクトはテカテカした紫のネクタイを締めなおす。
「依頼番号001。来い、ギガントピテクス」
どこからともなく球状のモヤが現れる。
上空を旋回した後、ぬいぐるみの口にモヤっとしたものが吸い込まれた。
「そんじゃ、ぬいぐるみにお湯を注いでくだせぇ」
動物の霊を憑依させたぬいぐるみに湯をかけて少し待つ。これがネコロマンシーである。
なぜ湯をかける必要があるのか、リクトはマキネに疑問をぶつけたことがある。
マキネの回答は「フリーズドライ製法っす」だった。
一度冷凍し、乾燥させる『フリーズドライ』製法で霊を管理しているということらしい。
熱々の湯をかけると霊が実体化するとのことだ。
説明が雑すぎる。
という言葉と、拷問に近いリクトの攻撃に根を挙げたマキネが白状したのだ。
「マキネ。この後はどうすればいい?」
「三分経ったらぬいぐるみの鼻を引っ張ってください。それがスイッチなんで。そしたら勝手にモッコリと膨らむんで」
「二分で切り上げたらどうなる?」
「まあ、予想っすけど。アルデンテ気味のギガントピテクスが出てくるんじゃないすかね」
「硬めってことか?」
「たぶんっすよ。体が硬いのか、堅物な性格なのか不明ですけど」
「四分ならどうなる?」
「物腰柔らかなギガントピテクスが出てくると思うんすよね」
リクトは二分で切り上げ、硬めのギガントピテクスを呼ぼうとするも、マキネに瞬殺されるのだった。
「確認しておく。元の姿に戻すには“思い切り後頭部を叩く”でいいんだな?」
「はい。練習と同じ要領っす。叩いた拍子にプリっとおしりから霊が飛び出るんで。というか、軽く叩けばいいんで」
霊を追い出す(除霊する)には、憑依者の後頭部を張り倒す。霊は憑依者の臀部から飛び出るという微妙な感じである。
また、“プリッ”という効果音を奏でるため始末に負えない。
無臭なのが唯一の救いだろうか。
「こうか?」
「いやだから、ウチの後頭部じゃなくて……。ウチには何も憑依してないってばさ」
「叩きやすい位置にオマエの頭があるからな」
リクトとマキネの身長差は約五十センチだ。
高すぎず低すぎず。
丁度よい位置に緑色の頭部がある。
さほど強く叩かれていないせいか、マキネは特に気にしていない様子だ。
諦めているのかもしれないが。
「あ、くだらないことしてたら三分経ちましたよ」
ぬいぐるみがムクムクと大きくなり、よりハッキリとした人型に変化する。
さらに膨らみ、やがて茶褐色の体毛に覆われたギガントピテクスが顕現した。
「初めま――」
間を置かず、持参したハリセンをギガントピテクスの黒い顔にグリグリと押し当てるリクト。
「何してんすか!」
ボクシングの審判のように軽い身のこなしでマキネが割って入った。
「嫌いなヤツの顔にソックリだったんでな」
「えっと……」
ギガントピテクスは野球のグローブより遥かに大きい手で頭をボリボリ掻きながら、リクトのはるか頭上から見下ろした。
「依頼を受けてくれるのはアナタですか?」
リクトの手荒な歓迎にもかかわらず、ギガントピテクスは穏やかな表情だ。
「まず報酬を払え」
「おい、リクト! てめぇ、何してくれてんすか! ギガントさんは、お客さんなんすよ? もっと丁寧に対応してくださいってば。それと、前にボランティアだって言ったっしょ! ネコロマンサー三原則を忘れたんかい!」
リクトは、ギガントピテクスのスネを小刻みに殴打しながら、「わかったよ」と返答する。
「ほんじゃ、ギガントさんに名前をつけてくださいな」
マキネはギガントピテクスの体毛を引っ張りながら、リクトに注文をつける。
依頼遂行には霊を長い時間とどめておく必要がある。
また、再降霊の可能性を考慮したため、マキネはギガントピテクスに名を与えることにしたようだ。
リクトは、ギガントピテクスの”真っ黒い顔”を再度確認する。
「9Bでどうだ?」
「あんだよそれ! エンピツじゃねぇんだから!」
笑いをこらえながらマキネが突っ込む。
何かを思い出したリクトは、目を瞬かせるギガントピテクスの顔を見上げた。
「グエンでどうだ?」
「なんでグエンさん? クエン酸みたいで面白いっすけど」
マキネは、引っこ抜いた体毛をフウっと飛ばすと、不思議そうな顔でリクトに視線を移す。
「いつだったか。ベトナムから来た人に道を尋ねられて、ある場所まで案内してな。確かグエンとかいう名だった」
ギガントピテクスは中国南部・ベトナム・インドに生息していた。
リクトは適当に名づけたが、大ハズレということでもない。
「あのう。ワタシ、中国出身なのですが。あと、ハリセンの硬いところで足の小指をグリグリするの止めてください。裸足なので地味に痛いんで……。それとワタシは――」
「なんだ? グエンさん」
ギガントピテクスの名が決定した瞬間だった。
リクトからのプレッシャーという名の視線がグエンに突き刺さる。
穏やかな性格なのだろう。
何か重要なことを言いたそうだったギガントピテクスは、引き下がるしかなかったようだ。
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