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彼女は言った。
「私、生まれ変わったら彗星になるの。」
僕は子供染みた考えだと思った。
「彗星になんてなれやしないよ。」
「皆は、なれないっていうの。なんでかな。」
「それは当然だよ。」
「だって先生が、君たちは何にでもなれる
って言ってたじゃない。」
「それは将来何になれるか、の話でしょ?」
彼女が気難しそうな顔をする。
「じゃあ、”ると”は何になりたいの?」
「僕?僕は…。決まってない。」
「決まってない?つまらないわね。」
「僕は十分楽しいよ。」
「そう?」
「うん。」
「知ってるでしょ?私達が生まれた年に
ジャコビニ彗星が見えたこと。
ジャコビニ彗星は13年経つともう一度
見えるって。」
「そうだったのか。」
「もーっ!何度も教えたじゃない。」
「ごめん。」
「まぁいいわ。しかも私達が生まれた日にね。
すごいと思わない?」
「僕らと同じ人は何人もいるさ。」
「んーでもでも!私達が、ってのが凄いのよ!
それって凄くないかしら。」
「そう言われればそうかもしれない。」
「でしょ!だから私達は彗星になれるの!」
「話が直結すぎて訳わかんないよ。てか
私達ってことは僕も?なんで。」
「”ると”はなりたいものが無いんでしょ?
だったら一緒に彗星になろうよ!」
「僕はならないよ。人間として生きるだけ。」
「もう。のり悪いんだからぁ…。」
懐かしい思い出だ。僕らは同じ年の同じ日に
産まれた近所の幼馴染で昔からの付き合いだ。
お互いの事は分かっているつもりだった。
でも小学生低学年の頃、「彗星になりたい」
なんて言う彼女が馬鹿らしいと思っていた。
僕らは高学年に進級した。
しばらくして親が離婚した。
ボロクソなアパートで父と暮らすことになって
彼女とは家が少し遠くなった、と言っても
歩いて数分。
今日も玄関のドアがノックされる。
「瑠音!おはよう!学校行こ!!」
いつも通り声がでかい。ドアを開ける。
「おはよう。もう少し声を小さくしてくれないか?」
「だって瑠音が起きてなかったら困るじゃない。」
「毎朝目覚ましかけてるよ。」
「そうなの?じゃあ小さくする!」
「何度も言ってるじゃないか…。」
「…そんじゃ、れっつごー!」
それから、彼女が忘れ物をしたり猫を追いかけ
て走って行ったりグリコをしようと言ってきた
り「だるまさんが転んだ!」と急に後ろを振り
返ったりしてギリギリで学校に着く。
こちらとしてはなかなかに大変だが代わりに楽しい。
そんな日々も悪くは無いと思っていた。
ただこの日は授業参観に向けての準備だった。
「将来の夢」を発表するらしい。
「皆さん将来の夢はありますか?」
先生が問う。バッと手を挙げたのは彼女。
「はい。どうぞ。将来の夢はなんですか?」
「私の夢は、彗星になる事です。」
「す、彗星…?」
先生は笑顔だが困っている。
「はい。私は彗星が好きです。
ジャコビニ彗星になることが出来たら
13年に一度、たくさんの人の心を癒したい、
そう思うんです。」
「とても素晴らしい夢です。ロマンチックに
溢れている素敵な夢だと思います。ふふふっ」
彼女が椅子に座る。
「他に夢を発表してくれる子はいますか?」
「はい!私は看護師になりたいです!お母さん
が看護師で、私も人の役に立ちたいです!」
「看護師なんですね。素敵です。是非勉強に
励んで下さいね。」
「俺は先生になりたい!!先生みたいに
立派な先生になる!」
「私はパティシエ!」
「俺は大工!」
「ボクは警察官!」
「皆さん素敵な夢がいっぱいですね。」
どれも立派な夢だ。そのなかで彗星になると
言う彼女は恥じる様子ひとつもない。
その意思の固さに少し心が動く。
彼女が本当に彗星になれる気がして。
「そんな皆さんの素敵な夢を紙に書いて、
教室に掲示して授業参観の時にお家の方に
見てもらいます。」
僕は未だに夢なんかない。何を書いたらいいん
だろう。
「ねぇ。瑠音はなんて書くの?」
気がつくと後ろに彼女がいる。
「まだ決まってない。」
「相変わらずね。」
「そっちだって相変わらずだよ。
本気で彗星になれると思ってるの?」
「うん。思ってなかったら言わないわ。」
「そっか。応援するよ。」
「ほんと?嬉しい!」
「本気なんでしょ?じゃあ笑い者にはできないよ。」
「そうよね?!先生最後私のこと笑ったのよ!
私は本気なのに。先生としてどうかと思うわ」
「仕方ないよ。簡単に受け入れられる事じゃないもん。」
「そうかなぁ…。」
「それは自覚して欲しい…。」
「んで、瑠音どうするの?その紙。」
僕は初めて提出物を白紙で出した。
偽るのも嫌だし夢なんて簡単に見つかりっこ
ないからさ。適当に、って言ったって思いつかない。
父は仕事で忙しくてこれないだろうし。
6年になった。6年と言えば修学旅行。
僕らの学校は秋に東京に行く。
金銭的に厳しいのできっと僕はいけない。
父に聞かなくたってわかる。
寝ている父の横で昨日配られた修学旅行の
集金のお便りを家でぼーっと眺める。
「瑠音ー!おはよう!!!」
「ごめん待って!」
「えっ?うん!」
学校の準備を全然していなかった。
数分してドアを開ける。
「瑠音…珍しいじゃん。まぁ行きましょ。」
しばらくして彼女が尋ねる。
「なんで今日遅かったの?」
「準備してなくって。」
「なんかあった?」
「別に。修学旅行の集金の紙見てただけ。」
「そうね!修学旅行楽しみね!」
「うん。……あっ!!!」
「ど、どうしたの?」
修学旅行の紙、テーブルに置きっぱなしだ。
父には見せないようにしてたのに。
急いだせいで抜けてしまった。
父が見たらなんて言うだろう。
「なんでもない。」
学校が終わって家に帰る。
いつも夜遅くに父は帰ってくるから
その間まで宿題を済ませて冷凍のご飯を
レンジにかけて1人で食べる。
他にも諸々済ませてから寝ようとすると
父が帰ってくる。
「ただいま。」
「おかえり。父さん。」
「瑠音。少し話があるんだ。いいか?」
「うん。」
「朝…瑠音がテーブルに紙を置いていっただろう?」
「ごめんなさい。」
「なんで瑠音が謝るんだ。謝らなくちゃ
いけないのは父さんの方だよ。」
「ううん。僕が置きっぱにしたから父さんに
迷惑かけちゃったんだ。」
「…瑠音。お前最初から、、。」
「うん。わかってた。」
「ごめんな。瑠音。こんな思いさせて。」
父は泣いて震えながら僕を強く抱いた。
そして父が僕を抱いたまま倒れて数秒後豪快な
いびきが聞こえた。
翌日。なんとか父の腕をすり抜け家を出た。
「じゃあ修学旅行には行けないのね。残念。」
「そういうこと。仕方ないさ。」
「瑠音と一緒に行きたかったなぁ〜。」
「僕だってそうさ。」
「……お土産、買ってくるからね。」
「まだ先だよ。」
「ごめんね。瑠音。」
昨日の夜も聞いた言葉。
「なんで?」
「昨日”修学旅行楽しみね”なんて言って。」
「あぁ、その事か。気にしてないよ。」
「ほんとに?よかった。」
「………」
「ねぇ瑠音?私さぁ…」
彼女が立ち止まる。
「なに?」
「ううん。やっぱなんでもない。」
「そう?」
「いひひっ」
無理に笑っている。僕の話より深刻な話を
持ちかけようとしていた気がする。
1人で抱えずに話せるものは話して欲しいけど
彼女にも勇気とタイミングがあるんだろう。
無理に聞く意味はない。
「タッチ。鬼。」
「なっ!瑠音〜!!」
修学旅行当日朝。
『行ってくるー!』
『行ってらっしゃい』
『楽しんで』
『はーい!!』
短いメールで朝は終わった。
それでいいと思ってる。
母に買ってもらった携帯を閉じる。
今日から彼女のいない3日間が始まるんだから。
忘れた方がきっと楽に生きれる。
3日がたった。
「瑠音〜!!おはよう!!」
相変わらずな大きい声がドア越しに聞こえる。
「今行く。」
ドアを開けるとお土産を僕の目の前に
突き出した彼女がいた。
「これ!お土産!!」
「おはよう。いいの?貰っちゃって。」
「よくなかったら言わないわ。」
「そっか。ありがとう。」
「私がいなくて寂しくなかった?」
「…………別に。」
「なにその間!寂しかったんだ?」
「寂しくなかったよ。全然。」
「も〜。嘘が下手なんだから。」
「嘘じゃないし。そっちはどうだったの。」
「…楽しかったわ。」
「それだけ?」
「うん。いっぱいいろんなことがあった。」
「そっか。」
「そうだ、瑠音。学校入っても驚いちゃダメ
だからね。」
「なにに驚くの?」
「言えない。でも、何もしなくていいから。」
「…よくわかんない。」
「分からなくていい。瑠音。いつもありがと」
笑顔で下駄箱の扉を開けながらこっちを見る。
大量のゴミが彼女の下駄箱から落ちる。
「ちょっ…それ。なに。」
「こういうこと。わかるでしょ。」
落ちたゴミをゴミ箱に入れ、
「もし嫌になっちゃっても、構わないから。」
と彼女は言う。
「なんで?ならないよ。絶対。」
早足で歩く彼女を追いかける。
「なったら、の話よ。なったら。」
「なんで?ならないって。ほんとに。」
いつも物事はできるだけ冷静に見るようにしていた。
でも、今は疑問しか頭に浮かばない。
どうして彼女が。一体いつから。誰が。
なんでもっと早く言ってくれなかった。
「………」
彼女は無言になった。
よっぽどなんだな、って分からされてピリピリした空気を感じる。
廊下からも騒がしいクラスの声が聞こえる。
彼女が教室のドアを開けた。
しん、と静まり返る教室。
数秒後には騒がしさを取り戻す。
迷わず入る彼女の後に続いて僕も入る。
ふと彼女の机に目をやると一握りの土が
ばら撒かれていた。
彼女は床にカバンを置いて、塵取りを清掃ロッカーから取り出す。
普段彼女は感情的ですぐにはっきりものを言うタイプだ。
それなのに今は、違う。
怒りもせず、無言で土を片す。
彼女が彼女じゃないみたいに見えた。
僕は何もしなくていい、と言われた。
それじゃいけない。
でも今僕にできることってなんだろう。
分からない。
僕はなんて頼りないんだろう。
こんなだから彼女は僕に相談しなかったんだ。
僕に相談したってどうしようもない、って。
そんなこと考えてるうちに彼女が塵取りを
しまい終わった。ダメなやつだ。僕は。
朝、ドアを叩く音が聞こえた。
いつもの明るくて大きな声はどこにもない。
支度をしてドアを開けると彼女がいた。
「瑠音、おはよう。」
「…おはよう。行こうか。」
彼女はずっと無言だった。
忘れ物をしなくなったし
猫を見かけても追いかけなくなったし
グリコをしようと言ってこないし
「だるまさんが転んだ!」と急に後ろを
振り向くこともなくただ前を向いて歩いてる。
「昨日の朝‥ごめん。」
「気にしないで。何もしないでって言ったの
私だし。」
「でも…」
「いいの。そのままでいて。」
「………」
「どうせ今日も同じことよ。慣れて。」
「そんなこと…!」
もう僕から言葉は出なかった。
彼女がいいと言ってるんだ。
こんな僕が口出しできることじゃない。
昇降口に行くと、彼女が言った。
「5分経ったら来て。」
「え、うん。」
最初は意味がわからなかったが、
5分で片すから、という意味だと気づいた。
やっぱり僕に心配かけたくないんだろう。
だから今日は彼女が何をされたか知らない。
自分の無力さを突きつけられて悔しい。
5分経ち、教室に行くと彼女は何事もなかった
ような顔をして本を読んでいた。
手にしていたのは彗星の本。
少しだけ、安心した。
彼女はまだ夢を捨てていなかった。
いつまでも揺らぐことのない彼女の強い意志に
僕も見習わなくちゃと思う。
次の日。彼女が学校を休んだ。
朝早いメールに
「熱出ちゃった。おやすみするね。」
と書いてあった。
ずっと彼女は皆勤賞だった。毎日太陽みたいに
明るい笑顔の彼女は、学校に行くことが
憂鬱だった僕の密かな心の支えだった。
彼女の底抜けな明るさに何度救われたことか。
「わかった。お大事に。」
とだけ返して静かなドアを開けた。
学校につき、下駄箱の扉を開けて気がついた。
彼女の下駄箱の扉が半開きになっていた。
そこからはみ出すゴミの山。
[怒り]なんて言葉じゃない。
なんだろう。憤怒?怒気?激怒?
違う。分からない。でも今まで出会うこと
のなかった感情が溢れてくる。
階段を一気に駆け上がって教室のドアを
乱暴に開ける。
彼女の机を見た。
綺麗な花瓶が置いてあった。
ほんのり青みがかった綺麗な曲線の入った
美しい花瓶が。もちろん花瓶は主役じゃない。
花瓶が引き立てているのは花。
どこにでも生えていて綺麗でよく見かける花。
それをかき混ぜるかのように花瓶に入った
汚らしい濁った泥水が花瓶を汚し花を染める。
「あぁ、瑠音くんw」
クラスメイトが呆然と立った僕に声をかける。
その煽るような笑いの混じった話し方に怒りを
覚えた。
僕は彼女の机の上に置かれた花瓶を掴み
教室の床に叩きつけた。
「ちょっ、瑠音…くんw?どーしました?」
花瓶が割れ、破片が飛び散り、
泥水が跳ねて足元が汚れる。
花はぐったりしていた。
「…っ!!ふざけるな!!」
教室が静まる。
さっきの奴が声を上げる。
「今日あいつどーしたんだよwwいねぇの?」
「お前何をしたのか、わかっていないのか?」
「何って…なんだよ。」
「彼女は今日休みだ。皆勤賞の彼女が。」
「つまんねえの」
「どういうことかわかるだろ」
「わかんねぇよ」
「じゃあこの花は何?」
「何って、お供えしてやってんだよ」
気づけば僕は掌をグーにして彼を殴っていた。
自分の手の甲に血がついていた。
僕は何をした…?
訳がわからなくなって机を蹴り飛ばした。
大きな音が鳴り響く。
女子たちが悲鳴をあげて僕から遠ざかる。
男子たちは普段陰気で滅多にものを言わない
僕の変わり果てた姿に呆然としていた。
もう何もわからなくなって教室を飛び出した。
「瑠音さん!!待って瑠音さん!」
教室に駆けつけた先生が僕の名前を呼ぶのが
わかった。僕は無我夢中で走った。
きっと夏に記録をとった50m走よりも速い。
上履きのまま昇降口を飛び出す。
家には帰れない。先生が追ってくる。
知らない場所へ行かなくちゃ。
人気のない暗い路地裏を走り、
人が住まなくなり廃れて苔がいっぱいに生え
湿った地面を曲がり角の先に少し開けた場所
があった。
そこに、彼女が居た。
「………瑠音?」
「えっ……な、なんで。」
「そっちこそ…どうして。」
「僕は…。」
「座って。ここ。」
「うん。」
僕は起こったことを全て話した。
彼女は驚く様子ひとつもなかった。
まるでわかっていたと言いたげな顔をする。
「じゃあその血は…」
「殴った時の。」
「そう。」
「…ここはね、星が綺麗に見えるんだ。」
「ここにはよく来るの?」
「うん。家から自転車で行けばすぐよ。」
僕が引っ越してからも僕と彼女の家は近い。
ということは僕の家からも近いということ。
家の近くにいれば先生が…。
「大丈夫。ここは見つからないから。」
僕の気持ちがわかっているのだろうか。
はやる気持ちを抑え深呼吸する。
「てか…。熱って嘘ついたでしょ。」
「ごめんって。ほんとに。」
「別にいいけどさ。」
「もう嫌になっちゃってさー。全部。
みんな星になっちゃえばいいのにね。」
「僕も…なりたい。」
「えっ、」
「彗星に…。」
あれから先生が家に来て、僕が学校に登校
するように説得した。
何日も何日もきた。僕は行かないと言った。
彼女の家にも行ったらしいが、
彼女も僕と同じ答えだったという。
彼女とは毎日会った。
星のよく見えるあの場所で。
結局僕らは卒業まであの学校に行くことは
なかった。人を殴り暴れて逃げた僕でも、
父は僕の意思を尊重してくれて、無理強いは
してこなかったし責め立てる言葉ひとつも
なかった。父は優しい。父は夜遅くまで
働いて朝早く出ている。僕は父の頑張りに
今度こそ絶対に応えないといけない。
オーバーサイズの制服は新しい匂いがする。
頑張ろうと心に強く決める。
中学の入学式。僕は誰も知らないふりをした。
隣の席の知らない人が話しかけてくれた。
でも最初の挨拶なんて礼儀見たいなものだ。
特に仲良くなるわけでもなかった。
彼女とは別のクラスになった。
「違うクラスだね。頑張ろう。」
とだけ昇降口で声をかけ、それから別れた。
今彼女はどう過ごしてるんだろう。
僕らの小学で起きた事は一瞬にして広まった。
それはそうだな、とは思う。あんなことして
中学で何食わぬ顔で卒業できるはずがない。
周りは僕を恐れ誰も話しかけなくなった。
でも僕は彼女がいじめられない限り、
感情が爆発することもないだろう。
僕が何を言われても平穏に生きる。
でも彼女が何か言われれば、また前のように
なってしまうかもしれない。
できるだけ抑えようとは思いつつ、
周りの視線にメンタルが削られていく。
早速嫌になってしまったが父の為に頑張らない
といけない。
溢れ出しそうなのをグッと堪えてから
無言で椅子に座る。
特にあれから変わりはなくて彼女も僕と同じで
周りとは離れているようだが何とかやってきて
いるらしい。
入学の時の桜が散り、緑で埋め尽くされて、
緑に赤や黄色がちらほら出てきた10月。
父が体調を崩した。なんでかはわかってる。
働きすぎ。僕が心配かけてる。それしかない。
父は優しい性格だから僕を心配してくれる。
母と離婚してメンタルもやられてるだろうに
僕に当たる事は一切なかった。
不安やストレスを吐く場所もなかったと思う。
それに加えてお金がなく結果、無理に働く。
体調なんてとっくに崩してもおかしくない。
溜め込んで溜め込んで、限界なんだ。たぶん。
父に聞くと、高熱に加え頭痛が酷いらしい。
喋ることすら出来ないみたいで、
手を少し動かしてジェスチャーをした。
僕はかける言葉が思いつかずに無言になった。
学校は休もう。こんな体調崩しては
何が起こるかわからない。
「もしもし…?」
「瑠音?どうしたの?」
「父さんが体調崩しちゃって。」
「ほんと?大丈夫なの?」
「今日は学校休むよ。行ってて。」
「うん。わかった。瑠音も無理しないで。」
「うん。ありがと。」
彼女とは変わらず一緒に登校している。
迷惑はかけたくない。
父の体調は1日ではよくならなかった。
病院に行きたがらなかったけど、
僕が念を押して連れて行った。
医者によれば、治さなければ悪化するらしい。
ストレス性らしく、溜めればもっと酷くなると
言っていた。父の精神状態からすれば、
もう入院レベルなんだとか。
父は入院を拒んだ。僕1人には出来ないと。
でも僕は入院するよう言った。
もちろんお金もないし僕1人になる。
でもその時はその時だ。なんとかなる。
制度をフル活用してそれでもお金は
ギリギリだったがなんとかなった。
父が治ればそれでいい。
数日して学校には復帰した。
でもびっくりした。
朝、彼女の顔を見ると怪我だらけだったから。
痣もいっぱいだったし絆創膏やらガーゼやらが
痛々しく張られていた。
僕を見るなり目いっぱいに涙を溜めて
僕に抱きついた。
「瑠音…私、もうダメ。」
彼女は震えながら言う。
「よく頑張った。もういいよ。」
彼女は声をあげて泣いた。
僕がいない数日間に彼女は蹴られ殴られても
父が体調崩してる僕に迷惑かけないように
連絡しなかった。
本当によく頑張ったと思う。
落ち着くまでしばらく家にいさせたが、
「やっぱ家帰る…」
と彼女が言うのでそうさせた。
「瑠音、ありがとね。大好きだよ。」
そう言ったまた僕に抱きついた。
「え…うん。」
戸惑って喋れずにいると彼女がドアを閉めた。
休日になった。父の病院に行くところだった。
電話がなった。
病院の人だった。電話の内容はこう。
“父がいなくなった”
急いで家を飛び出して全速力で走った。
いなくなるなんて想定もしなかった。
信じられない。どうして、。
病院の近くまで来て、すぐ近くで車が
急ブレーキをする音が聞こえた。
その後に響く”ドンッ”という鈍い音。
サッと血の気が引いた。
後ろを振り返ると人が倒れていた。
父。
父が車の前で横たわっていた。
信じられなかった。でも顔を見ると父だった。
病院にすぐ連絡した。
確認すると息はしていなかった。
でも生きてると、生きてると言い聞かせる。
周りがざわつく中看護師だと言う人が来る。
しばらくして看護師の手が止まり目を伏せる。
「…父さん?」
そう呟くと看護師の人が背中を撫でる。
訳がわからなくて泣き崩れた。
救急車がようやく来た。
なんだかんだ丸一日潰れて家に帰った。
どうしたらいいのかわからなくて
彼女の声が聴きたくなった。
電話をかけた。出なかった。
しばらくしてかけたが、出ない。
いつもこの時間はまだ起きてると言っていた。
出てもいいはずなのに。
夜中の2時ぴったりに
「いつもの場所」
とメールが来た。
これは多分時間指定された予約送信だ。
でも今行けば彼女がいるかもしれない。
外に飛び出し少し古い自転車に乗る。
空をふと見た。星が広がっていた。
そうだ。前に彼女が言っていた。
“来週の土曜日は十三年ぶりの
ジャコビニ彗星がやっと見れるんだよ”
こんなに綺麗に澄んだ夜で見れない訳ない。
彼女はそれを待ってるんだ。
もう先に行ってたんだ。確実に会える。
今はきっと観察に夢中なんだろうな。
心が救われたような気がした。
僕らが生まれてから十三年。
よく生き延びたなと思う。
今からまた十三年後にも彼女と見れたら
いいなと思いながら自転車を漕ぐ。
自転車のランプだけが闇を照らす。
人気のない暗い路地裏を通り、人が住まなく
なり廃れて苔がいっぱいに生え湿った地面を
曲がり、その角の先に少し開けた場所に着く。
思った通り、彼女がいた。
紐を首にきつく巻きつけ倒れている彼女が。
僕は自転車を薙ぎ倒した。
彼女のそばに駆け寄る。
彼女は青い顔をして苦しそうな顔だった。
息もしていなかったし脈もなかった。
靴を見ると、右の靴の靴紐が無くなっていた。
僕は愕然としてその場にへたり込んだ。
もう涙なんて出尽くしている。
空を見あげると、彗星が見えた。
その光は彼女の姿をしていた。
彗星になれたんだ。彼女は。
“彼方へと連れ去ってくれ
思い出の海に沈むならいっそ
遠い遠い空へ一緒に
十三年かけてやっと
辿り着いた答え
1番大事なその一言”
「貴方に恋した。」
彼女が振り返って微笑んだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーEND
どうも主です。こんにちは。
お話を書いた時の話を少しさせてください。
このお話を書くのに約2ヶ月かかりました。
初めてこんな長い小説を書きました笑
サイトで計算するとですね、
空白を除くと8733文字でした。
紙にしてしまえば大したことないんですけどね
こんなに頑張って書いても
ペラペラの冊子にしかなりません笑
悲しいです笑
このお話は曲にインスピレーションを
受けて、書き始めたんです。
もうタイトルがそれなんですけど笑
わかる人はわかると思います。
すとぷりのるぅとさんの「十三年彗星」
です。アルバム「君と僕の秘密基地」
にて収録されている曲であります。
半オリジナルストーリーですね。
主人公の名前は瑠音。
「ると」と読みます(今更)
冒頭の方で「彼女」がひらがな表記で
瑠音の名前を呼んでいます。
まぁ多分わかるよね。
「るぅと」から「瑠音」です。
いい名前が思いつかなかったので笑
そして「彼女」と呼ばれた女の子には
名前の設定がありません。
理由はただ一つ。「決められなかった」
それだけです。深い意味はないです笑それと、
所々に十三年彗星の歌詞を入れ混ぜました。
お気づきでしょうか?
最後の部分は丸々使いました。
是非みなさんに曲聞いてほしいです。
とってもいいお歌です。
考察したい人には申し訳ないのでネタバレ、
といいますか、詳しい話は次の話で公開したい
と思います。
考察できるほどのこともありませんが笑
いや、やはり面倒なのでここで話しましょう笑
嫌な人は戻ってもう一回読んでください笑
曲の設定を残した部分紹介します。
【夜更け、自転車、路地裏の影を抜け曲がり角の先、少女の姿をした光、眩い微笑み、貴方に会うための十三年、彼方へと連れ去ってくれ思い出の海に沈むならいっそ遠い遠い空へ一緒に、十三年かけてやっと辿り着いた答え1番大事なその一言「あなたに恋した」とさえ言えず】
この要素?が小説の中に組み込まれています。
時系列等は原曲と違うところもありますし、
十三年彗星の解釈は私なりのものであって、
原曲知ってる人は小説の内容に納得いかない人
いるのかなーなんて思いますが、
私の小説の内容についてちょっと話しますね。
瑠音は親が離婚してお金に苦しい生活だった。
父が必死に働いて、小学生→中1の瑠音は
バイトできず苦しい思いをしてた。
唯一の友達で幼馴染の彼女に心を支えられ
生きていた。
原曲では、13歳の時に彗星(彼女)に出会ったんじゃないかな、って思ってて。
その後消えた彗星に対して、僕も連れてって、
言うんですね。曲は。
小説では出逢った瞬間「僕も連れて行って」
では一瞬すぎて物語にならんし
運命の人だったとしても一目惚れ的に出会って
命をかけられるかって言ったら無理かなって。
だったら生まれた時から一緒で十三年後に
2人で死ねれば良いなって。
幼馴染の設定はそんなふうにしてできました。
言ってませんでしたが、彼女は死にました。
父を突然亡くし自暴自棄になりかけてた瑠音。
唯一の心の支えのところへ行ったわけです。
一方彼女の方は中学校で小学時代のいじめの
延長線それがエスカレートしていき、
暴力に耐えられなくなった彼女は、
ジャコビニ彗星を見ながら、自身を絞殺した。
瑠音は大切な人を一度に2人も失い、
生きる理由を無くします。
そりゃ、彼女と一緒に彗星になりたくなるわけです。
瑠音も死にました。
どうやって死んだかは明かされていません。
完全なるバッドエンドです。
でも無くしてから気づくものだってあるんです。
「貴方に恋した」ということ。
彗星になれた2人はどこかでまた会いました。
曲では『「貴方に恋した」とさえいえず』
と終わります。彼女に伝えられないままなんです。
でも小説の瑠音は、最後彼女に伝えるんです。
これでバッドエンドではなく…なる?はず。
ですよね??(圧)
きっと2人はずっと一緒にいられるはずです。
お話の感想、聞かせてください。
とても励みになりますので。
最近病みがちなので低浮にはなるんですけど
コメは全部読みますしできる限り返信もします。
リクエストでもいいのでというか
なんでもいいからとりあえずコメントといいね
してください^_^
あ、皆さん、メリークリスマス!!!
良いお年をお迎えください!!
はっぴ〜〜〜にゅ〜〜〜いやぁぁぁぁぁぁぁ
あ、タグについてなんですけど、
公式様にインスピレーション受けたので
無関係ではないですが、
公式様の活動(?)とはあまり関係ないので
「すとぷり」とか「るぅと」とかのタグは
控えさせてください。
見つけた人はラッキーということで。
それじゃあ、また今度会いましょう。
ここまで読んでくれてありがとう!!
ここにきてくれた人みんな感謝!
あ、紅白!!すとぷりでるから!!!
ぜってぇみるぞ!!!
ばいばーい!