テラーノベル
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手を引かれるまま康二の家まで連れてこられ、今日はもうここで過ごすしかなくなった。
やはり不思議なことは多々起きた。
時計の針がものすごいスピードで回転したり、ラグの上に積まれていた雑誌が宙を舞ったり、冷蔵庫の扉が勝手に開いたり、などなど…。
「はぁ…」とため息をこぼして頭を抱えるばかりだったが、ラウールと康二は全く気にしていないのか、何かあるたびに快活そうに笑っていた。
時計を一度壁から外して「明日また付けとくわ」と言いながら康二は電池を抜き、「背高くてよかったー」と言いながらラウールは天井近くまで昇った雑誌を、椅子に乗って楽々と回収していた。
ふわふわと飛ぶその冊子と楽しげに遊んでいた“子”は、ラウールからそれを取り上げられると、不満そうにプクッとむくれた。
──オい!らうールっ!返セ!
それを見た時、また一つ変えられることがあるかもしれないと思った。
「ラウ、ちょっと手離してくれる?」
「ん?この雑誌?」
「うん、その子がそれで遊びたいって」
「その子…ぁ!はーい!」
テーブルの上に置かれた雑誌をじっと見つめ、目一杯に想像してみる。
それが二つに開かれ、羽のようにページを瞬かせるイメージを思い浮かべてみる。
十分に空想できたところで、試しに指をパチンと鳴らしてみると、再び雑誌は浮かび上がった。
頭の中で思い描いた通り、それはちょうど真ん中あたりで開かれ、鳥のように天井近くまで飛んで、高度を上げていった。
──キゃキャきャ!みヤだテ!楽じイ”!
──ふふっ、ならよかった。
パタパタと飛ぶ紙の鳥を追いかけて、その悪魔もまた尖った羽を翻し、甲高い笑い声を上げてくれた。
──わふっ!ぁぅっ!
──うん、久しぶり。今日も元気だね。
康二の部屋に着いてからというもの、ずっと俺の周りを回っていた“子”は、今は膝の上で甘えた声を出しては“構って構って!”とアピールをしてくれている。
この力は、誰かを喜ばせるために使うこともできるのかもしれない。
今までは真剣に向き合うどころが、目を背けてしまっていたので、この能力をどこまで広げられるのか、どんなことまで出来るのか、まだ未知数だ。
少しずつコントロールできるようになっていったらいいなと思いながら、康二が淹れてくれた紅茶を啜った。
案外穏やかな気持ちで眠ることができて、無事に翌朝を迎えた。
昨日のような不安な気持ちもなく、体調も落ち着いている。
毎年、峠を越えた次の日は調子が良いが、今年は心なしか気分も晴れているような気がした。
今日は久々に、メンバー全員でのYoutube撮影がある。
やろうと決まってはいたが、なかなか全員のスケジュールが合わずに引き伸ばされ続けていた企画を、ついに撮れる日が来たのだ。
これが一番好きで、実は予定が決まってからずっと楽しみにしていたので自然と笑みが溢れる。
がしかし、それだけが、こんなに口角が上がり続けている理由で無いことは、ちゃんと分かっていた。
「舘さん、体調平気?」
「ちょっとでもキツかったら遠慮せんと言ってや?」
「うん、大丈夫だよ」
「ならよかったー!」
「ちょっと外すね」
「おん。無理せんといてな」
「はいはい、分かってます、ふふっ」
撮影が始まる前までに、しておきたいことがあった。
まずは朝からトレーニングに勤しむ照と、その腕に全体重を預けて人間ダンベルと化したふっかのそばへ向かった。
「照、ふっか、おはよう」
「舘さんおはよう」
「おはよ〜」
「二人とも、ありがとう」
「んぉ?どした?」
「…んひひっ、良い顔になったね」
「ふふ、おかげさまで。あ、そうだ。ふっか」
「ん〜?」
「テレビ壊れたから買って」
「俺が!?!?」
次に、広間のど真ん中で寝転がっている翔太と、そのお腹の上に首を転がらせる佐久間の元へ、こっそりと近付いて行った。
「翔太、佐久間、おはよう」
「はよ」
「涼太おはよーっ!」
「昨日はありがとね」
「…ふーん、壊れずに済んだらしいな」
「うん」
「よかったよかった!涼太ーっ!ハグしよ!」
「ぅぉ…ぁははっ、佐久間っ、苦しいよ」
「はぁ…懐かしい…あの日と一緒…あったかい…どこにいても、やっぱ涼太は涼太だね」
「ふふ。たくさん、頑張ったね」
「…んにゃ…?」
最後に阿部の手伝いをしようとしているのだろうが、何をしたらいいか分からずただその周りをグルグルと回っているだけになってしまっている目黒と、念入りに台本を読み込んでいる阿部のそばの椅子へ腰掛けた。
「目黒、阿部、おはよう」
「舘さんおはよう」
「舘さまっ!おはよう!」
「昨日ね、あの子達が助けてくれたの。だから二人にもお礼言いたくて」
「えっ!そうだったの!?」
「俺たち何もしてないのに、、逆にありがとう?」
「ふふ。そうそう、今度は目黒と話したいって」
「え、ほんと?」
「また予定合わせてお邪魔させてもらうね」
「うん、ありがとう、俺もまた話したい」
全員にお礼を伝えることができた後で、少し離れた場所からみんなの顔を眺めた。
それぞれが楽しそうで、幸せそうな表情に満ちている。
直接何かが出来たわけではなかったけれど、自分がやってきたことは、無駄ではなかったのかもしれない。
それに気付けたことが、ただただ幸せだった。
また一歩、前に進めたような気がした。
「始めるよー」
合図がかかる。
みんなでタイトルカットとサムネイルを撮り、席に着く。
台本を片手に阿部が口を開いた。
やるって決まった時は確か、翔太が不貞腐れてて、佐久間は今にも泣き出しそうに目を潤ませてて、目黒の周りには真っ黒なオーラが見えてたっけ。
──あの頃、こんなに明るい気持ちになれる日が来るなんて、思ってもなかったなぁ。
「はい!出席取ります!」
斜め後ろの席が賑やかな気がして振り向いてみると、“彼ら”がウキウキと体を弾ませながら椅子に座ったり、宙を飛んだり、机のそばで大人しくお座りをしたりしていた。
──あれ、みんなも授業受けるの?
「うん!楽しそうだし!」
「ええ、マスターの晴れ舞台ですから」
「この企画の後はマスターいつもブレてたから、ホントにもう大丈夫になったかなってちょっと心配なんだよね」
「らクガキ、しタイ!」
「ふすっ!」
──ふふっ、楽しみだね。
本当に、ありがとう。
出会えた“みんな”に。
ここに存在できたことに。
こんな、憎たらしい、最高の“贈り物”に。
「次、宮舘ー」
「ぅぉ”い”!」
「ぁははっ、今回もヤンキーキャラなんだね」
あれから三ヶ月が経った。
三度満月の夜を超えてきたが、特に問題も事件も起こることなく、平和な毎日を過ごすことができている。
むしろ、平和すぎるくらいだった。
今は新曲のMV撮影に臨んでいて、いつかと同じようにソロカットの順番を待っている。
体を動かして気持ちを紛らわせようか、なんてことを思い付く。
なんとも言えないモヤモヤに、最近はずっと体を蝕まれていて、じっと座っているのがむず痒くて仕方がないのだ。
ふす…と鼻からため息を出し、頬杖を突きながらぼーっとしていると突然声がかかった。
「だーてーさん、どしたー?」
「ご気分が晴れませんか?思い詰めたお顔をなさっていますが」
「なんか悩み事?」
お馴染みの“彼ら”だった。
みんなにならこの灰色の気持ちを打ち明けられそうな気がして、三人の方を向いて頬杖を突き直した。
──ねぇ、みんなのとこはさ、どういう感じで進んでいったの…?
「「「?」」」
すっかり仲良くなったのか、三人は同じ方向、同じ角度で首を右に傾けた。
どう質問したら良いだろうかと頭を悩ませていると、別の方向からも声が掛かった。
「舘、今日の夜」
「あ、うん、ありがとう」
「舘さん!何食べたい?僕と康二くんで作るよ!」
「パスタがいい、かな」
「分かった!任せて!」
「ふふ、ありがとう」
要件が済むと二人はセットの中に入って行った。
「…はぁ…」
「優しい彼氏たちじゃん」
「優しいは、優しいんだけどねぇ…」
「なにかあったの?」
「その…優しすぎる、っていうか…」
「…推し量るに、物足りない、というところでしょうか?」
「ぁ、ぃや、物足りない…っていうか…、その、すごく幸せだよ?俺には勿体無いくらい」
「うんうん」
「変なこと起きても、二人とも受け入れてくれるし」
「えぇ」
「今みたいにいつでも気にかけてくれて、大事にしてくれるし」
「うん」
「ただ…その…いつまでも先に進まなくて…」
「今はどこで止まってんの?」
「えっと…ぁの…、…て…」
「て…?手繋ぐとこまで行ったってこと?」
「まだ…手、も…繋いだことなくて…」
「ありゃ」
「なんと」
「え、ほんとに?」
これが最近の悩みだった。
二人と一緒に過ごすようになって、はや三ヶ月が経ち、四ヶ月目に足を突っ込んでいる今現在、進展どころか、完全な膠着状態の日々を送っていた。
恋人がいた経験もなければ自信もなく、自然と待ちの体制、受け身になってしまっていることも悪いとは思うのだが、行動を起こそうにもどうしたらいいのかまるで分からなかった。
みんななら、それぞれの宿主たちの事情も、どのように仲が深まっていったかも全て知っているのでは?と思い、聞いてみることにしたのだ。
なかなか狡いやり方だとは思うが、直接メンバーに聞く勇気が無かった。
「ふっかのとこは、三ヶ月経ったくらいってどんな感じだった…?」
「んー、どうだったかなぁ…付き合ったその日から半同棲みたいなことしてたし、自然とそこまでいくのは早かったよ?多分二ヶ月経たないくらい?目が合ったら、みたいな?」
「そこまで、って…どこまで…?」
「ん?えっちするまで?」
「ぇッ…!?」
「デリカシーってもんが無いんですかあなたはッ!」
「でもセックスは大事じゃない?愛情を確かめられる大切な行為でしょ?」
「レン、ちょっと黙って」
「俺もリョウヘイとするし、マスターたちも夜会える時はいつもしてるよ?俺のおかげであの二人もっと仲良くなったから、最近は回数も増えたし。アベちゃんがね、なんでか積極的になったんだよね。だからマスター、もうずっと幸せそう」
「ぁぁ…もう……ミヤダテさん、今の部分だけ聞かなかったことにしてください…」
「う、うん…」
「でもやっぱさぁ、最初っからえっちするのはハードル高いっつーか、順番ひっくり返っちゃうよねぇ、どっから手付ける?」
「まずは無難にスキンシップからじゃないでしょうか」
「ダテさん、ハグおすすめだよ。幸せな気持ちになる」
「ハグか…それならできそう…よく康二くっついて来るし…」
「手繋いだことないなら、まずはそっからにしようよ!大事なハジメテだし!」
「あなたが言うと、どうしてか意味深ですね」
「んぉ?ありがと」
「褒めてません」
「今日の夜、三人で過ごすの。どこまでだったら不自然に見えないように進めそうだと思う…?」
「そりゃぁもう、ちゅーまでは行こうよ」
「えっ…できるかな…」
「キスも幸せな気持ちになれるよ、おすすめ」
「レンはさっきから、どこの観点からおすすめしてるの…」
「リョウヘイとするときの俺の気持ちから」
「そうですか。じゃあ今日はもう何もしません」
「え”ッ!?無理!やだ!俺消えちゃう!」
「メグロさんがいらっしゃる限り消えませんよ」
「そう言う問題じゃないよ!リョウヘイ…やだ…やだぁ……ちゅーしたい…」
「それだけじゃ終わらないから嫌って言ってるの」
「えへへ、俺のこと分かってくれるリョウヘイだぁい好き。そのまま朝が来るまで、ずーっとえっちしてたいもん。昼も夜も、ずーっと…んふ…あは…」
「…な、仲がいいんだね…」
「このバカは放っておいて、今日の目標を立てましょう」
「そだね〜。じゃあ、手繋いで、ハグして、最後にちゅーする!の順番でどう?!ここまでやってみよ!絶対二人とも喜んでくれるよ!」
「喜んでくれるかな……?」
「うん!絶対大丈夫!」
「わ、分かった…!手を繋ぐのが大事なハジメテで、ハグしたら幸せになる、朝までキスする…。よし、やったことないけど頑張ってみる…!」
「掻い摘んで欲しくないところばかりが抽出されている気しかしませんが、ひとまず応援しています」
「頑張ってね!報告待ってるよー!」
「ねぇ俺超嬉しい!やっと舘さんと恋バナできた!」とはしゃぐ生き霊のふっかの輪郭をぼんやりと眺めながら、今日の夜に向けてのイメージトレーニングを始めようとした時、撮影の順番が回ってきた。
頭の中を仕事モードに切り替えてカメラに集中した瞬間、先程の会話は殆ど記憶から抜け落ちてしまったような気がした。
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:
結局イメージトレーニングなんて一つもできないまま、夜になった。
空にはまん丸く輝く金色の月がかかっている。
彼らのクラブは、三ヶ月前から「俺と絶対に過ごす」という活動内容に形を変えたそうだ。
六月でなくても、満月の夜は体調も自分の周りも不安定になる。
何も起こらない時もあれば、熱が出て目眩がして、座っているのも辛いほどに崩れる時もある。
最近は安定しているのできっと今日も大丈夫だろうと思うが、それでも二人は一緒に過ごすと言って聞かない。
そばにいたいと思ってくれているのかな、と思うと、満更でもなかった。
この通り、もうすっかり二人に絆され切っている。
ちゃんと、深く深く好きだと思っているので、いい加減先に進みたい。
だからこそ、今日は頑張らなければと気合を入れた。
二人が作ってくれた卵の乗ったカルボナーラを食べて、ソファーでまったりするタイミングになった。
「よし、やるなら今しかないっ…!」
そう意気込んで、二人の前に立った。
「舘さん?どうしたの?」
「舘?まったりせんの?」
「ラウ、康二…っ」
「「?」」
「じっとしてて…!」
「「!?」」
ここで逃げられてしまったら立ち直れないと瞬間的に臆病風に吹かれて、動かないでほしいと意思を伝えた瞬間、二人の体はビシッと固まってしまった。
──ぁっ…やば…っ…。
「ごめん…金縛りさせちゃった…」
唯一声は出せるのか、「ええよ」と返してくれた康二の言葉に、泣きそうになる。
「すごい、マジで動かない。あ、それより舘さん、どうしたの?なんでも言って?」と言ってくれたラウールの目が優しくて、嬉しいのに、苦しくなる。
──すき…っ、どうしよう…、すきっ……
もう作戦なんて全部ぐちゃぐちゃで、あんなに三人が親身になってくれたのに、順番も目標も何もかも頭から吹っ飛んでしまった。
ズキズキと心臓が痛くて、指先がずっと甘く痺れている。
寒くもないのに、震えが止まらなくて、悲しくもないのに、目に涙の膜が張る。
溶けてしまいそう。
「舘、どないしたん?」
「ぁ、ぅ…ぁ…っ…」
何かしなきゃ、何か言わなきゃ。
「舘さんうるうるしてる、なにか悲しいことあったの?泣かないで?」
「ぇと…ぅ、と…、ぁぅ…」
違うの。
優しくしてほしいんじゃなくて。
いつもみたいに励ましてほしいんじゃなくて…。
もう十分強くなれたから、十分愛せるようになったから、だからもう、三人で肩を並べて歩いていきたいの。
辛うじて浮かんできた言葉を繋ぎ合わせてから、もう一度二人の目をじっと見つめ、恐る恐る小さく口を開いた。
「いつになったら…っ、キス、してくれるの…っ…?」
二つの口がパカッと開く。
──あれ、なんか、色々間違えた気がする。
今更取り消せるわけもなくてオロオロしていると、康二が俺を呼んだ。
「だーて」
「っ、は、はいっ…」
「金縛り、解けそうか?」
「や、やってみる……、ん…っ!」
「ぁ!取れた!すごいすごい!コントロールできるようになってるよ!」
「ほんまや、動かせるわ。すごいやんか」
二人と会っていない間にも、自分で霊力をコントロールするトレーニングを密かにしていた成果が身を結んだようだ。
康二は腕をブンブンと振り、ラウールも大きな手をにぎにぎと動かしている。
安心からホッと一息ついたのも束の間、ラウールがその長い腕を広げた。
「舘さん、おいで?」
「えっ…」
「ふふ、ここ、おいで?」
ソファーに膝を立て、ラウールの上に乗るような体制でおずおずとその胸の中に入っていくと、すぐに暖かい腕にすっぽりと包まれた。
そして後ろから、康二も抱き締めてくれた。
「ねぇ舘さん、僕たちね、実はこっそり立ててた三箇条があるの」
「三箇条…?」
「うん、舘さんに初めて告白したあと、もう一箇条作ったから、今は四箇条になってるんだけどね」
「う、うん…」
「その四箇条目、教えてあげる」
「な、なに…?」
「“舘さんが舘さんのこと好きになれた時、もう一回お返事もらいに行こう”って」
「へっ…?」
「やらなあかんことぎょうさんあったやろ?窓直すとか、掃除するとか、テレビ買い換えるとか」
「ぁ、うん…」
「まぁそれは冗談やけどな?俺たちよりも先に、舘には自分んこと好きになって欲しかったんや」
「だからそれまでは、目一杯舘さんのそばにいて、なんでも力になろう!って決めてたの」
「やから、手出さんかった。いや、これやと舘が悪いみたいになってしまうな。ちゃうねん、ホンマは出せんかった」
「出せなかったって…?」
「たはは…ホントはさ、怖かったんだ。好きだから、嫌がられたくなくて、嫌われたくなくて、ちゃんと確信持てるまで、触れなかったんだ。大事にしたかったから」
「結果的に、寂しくさせてたんやな。すまん」
「ごめんね…僕たち、中途半端なことしちゃってたね…。不安にさせてごめんね…」
「ぁ…ぃや…っ…ちがっ…!」
熱い。全身が熱い。
恥ずかしくて、嬉しくて、幸せで、もういっそ、泣いてしまいたい。
こんなに優しくされて、いいのかな。
こんなに愛されて、いいのかな。
──やっぱり、俺なんかには勿体無いんじゃ…。
そう思った瞬間、シーリングライトがチカチカと明滅し始めた。
「舘っ、怒ってるよな!?ホンマにすまん!堪忍や!」
「ち、がう…ぁ、ふっ…ぅ…違うのっ…ひッ…」
「あぁぁ、どないしよ、とりあえず深呼吸しよ!」
「康二くんっ!背中トントンするからちょっとどいてっ!」
「おう…っ!」
「ほんとにっ…!っ、大丈夫だから…っ、ちょっとお水飲んでくるねっ…」
これ以上触れ合っている方が、どうにかなりそうだった。
それに、本当に泣きそうで、こんなことで泣いてるなんて知られたくなくて、どこかに潜りたかったのだ。
──このままじゃ、さっきより溢れちゃう…っ…。
距離を取ろうとラウールの腕に手を付かせてもらうと、悪戯っ子の笑う声がした。
──キャきャッ!溢レちゃエ!
──えっ!?ちょッ、ちょっと待っ…!!
──ポんた”、いクぜッ!
──わふっ!
──セーの”ッ!
悪魔の掛け声の後、小さな手のひらが二つと、暖かくもふもふとした体が背中に勢いよくぶつかってきた。
「ぅぁっ!?」
「舘さ…っ!!!」
意外にもとても強い力で押され、たちまちバランスを崩した後どこかに着地した。
「おぉッ!?!!」
康二の驚くような絶叫を聞き、みんなに怪我はないかと薄目を開けてみた直後、もう一瞬たりとも瞬きなんて出来なくなった。
「ッ!?」
目の前にはラウールの綺麗な瞳があって、それは時折パチパチと瞬いたかと思うとすぐに細められて、口の端から漏れ聞こえた「ふふ」という甘い鼻声が耳を撫でた。
少し経ってから距離ができると、唇が自由に動かせるようになった。
──逃げずに、ちゃんと伝えなきゃ。
下唇をキュッと噛んでから、言葉の一つ一つを丁寧に紡いでいった。
「もう、ちゃんと好きだよ、自分のこと。二人のことは、もっともっと好きだよ…っ…」
今この胸の中にある気持ちを全て伝え終わると、その長いまつ毛がもう一度近付いた。
「んむ…?…んっ、ん”!?ん”ーん”ん”ん”!!!」
キスされている。
そう気付いた時にはもう既に、ラウールの舌にあちこちを擽られていた。
「ぁ、ふっ…ん”ぅ”、ん”ぐ…ん”ん”ん”ッ」
息ができなくて苦しくて、口の中が擽ったくて、変な声が出る。
「ん、は…、りょうたく、ちゃんと息して…ん…」
「ぅ、ぁっ…んぅ”…っぐす…ッ、ぁぅ…ふぁっ…」
優しい口付けの合間で、頭を撫でてくれる。
それだけで嬉しくて、心地良くて、何もかも全部、隠せなくなっていく。
──すき、っだいすき…、助けてっ…すき…っ…
何かに耐えるように目をギュッと瞑れば、涙が一筋こぼれてこめかみを伝った。
今きっと、自分の気持ちはこれまでにないくらいに高まっている。
確かめるまでもなかった。
心が、身体が、今にも叫び出しそうなくらいに震えているのだから。
そして、それを証明するかのように、キッチンの方から突然女性の電子的な声が聞こえてきた。
『お湯張りをしますっ!』
康二がお風呂を沸かしていないことなんて、ちゃんとわかっている。
だから余計におかしくて、思わず唇を離して笑ってしまった。
「ぷは…っ、んふっ、ぁははっ、あはははッ」
「っぷ、きゃははっ!ほんとにすごいや、気持ちに連動してるみたい!」
「ほんまやね!ぁははははッ!」
「んふふっ、…? 連動って…?」
「初めてだし、確かにお風呂入ってからの方が良いよね!」
「ぁっ!栓外れたまんまや!」
「?」
康二は一度立ち上がり、風呂場の方へ駆けて行ったかと思うと、またすぐに戻ってきた。
「湯溜まるまでは、あともうちょいイチャイチャできるな」
「やばー!やっとお返事もらえたね!一緒にお許しまでもらえちゃうとか、今日マジで最高じゃん!」
「ホンマ罪なやっちゃで、最後の最後まで焦らしてくんねやから」
「さっきからなんの話…?お許しってなに…?焦らすってなに…?」
「? お風呂入ってからえっちしようってことでしょ?」
「はっ!?」
「お湯張り終わるまで「待て」言うてるんやろ?」
「…っ!?ちッ!ちがッ!そんなつもりじゃ…!勝手に…!」
「さっきの金縛り、自分でコントロールしてなかった?」
「舘は寡黙やからな、こっちで自分の感情表現できるようになったんかもな」
「だから違うってば…!もう何も言わないで…っ…」
「じゃあ、ちゅーしてよう?そしたら僕たち何も喋れなくなるから」
「次俺したいーっ!ラウ!順番や!」
「はぁ…もう好きにして…ん”ぅ”っ!?
…ちょっと、こうじ…ッひゃぅ!?
らうッ、どこ触って…ん、ぁッ…」
:
:
ずっと、ずっと、知らなかった。
「んぅ”っ…っふぁ”ッ…ぁぅ…ん、ふ…」
「だて…すき…すきや…っ…ほんまに…ッ、ちゅ…はむ…」
「んん”っ…!?ぁっ…こうじ…っ、んぁ」
こんな風に、切なそうに眉を寄せながら、愛をくれる人なんて初めてで。
「っひァッ!?らうっ…まって、だめっ…」
「んふ…耳弱い?かぁいぃ…ん、ちぅ…ぐちゅ…」
「んやぁ”ァッ!?やだっ、変になっちゃ…ぁ”ひッ”?!」
こんな風に、幸せそうにうっとりしながら、全部に触れてくれる人なんて初めてで。
今、身体に襲いかかって来ている強すぎる快感も感覚も、何もかも関係ない。
二人の言葉で、その強い気持ちで、俺だけに向けてくれる愛情で、溶かされていく。
気持ちよくて、嬉しくて、涙が止まらない。
両目から溢れたそれを、二人に舐め取られる。
「なっ!?何して…!」
「きゃは、あまい」
「そっ、そんなわけ…っ」
「なんでか甘く感じんのや、舘のやから」
「っ!?…ばっ、ばかみたい…っ…」
「そうだね、僕たちきっと「舘さんバカ」だよね」
「ほやね」
「もうやだぁ…っ…」
愛せなかったのは、二人のことじゃなかった。
でも、今は違う。
まだまだ自信がなくて、二人の気持ちに着いていくのがやっとだけれど、きっと大丈夫、そう思える。
だって、もう十分に感じられているから。
この胸で、この心で、この身体で。
君が好きだよって、愛されていいんだよって。
寂しげに夜に浮かぶ月まで、一直線に飛び込んできてくれた二つの星があった。
それはいつだって、優しくそっと、勇気を与えてくれる。
二つの頬を両手でふわりと撫で、その輪郭を引き寄せて囁いてみる。
恥ずかしいから、あの子たちには聞こえないくらいの声で。
こっそりと、二人だけに聞こえるように──。
「月が、綺麗ですね」
二人は顔を上げると、また嬉しそうに笑ってくれた。
「僕も、ずっと綺麗って思ってたよ」
「これからもずっと、綺麗や」
くれた言葉に思わず頬が緩む。
「ふふっ」と意識せず声が漏れる。
その一方で、ラウールは何故か俺の頬を両手で包み込んでいて、康二は背中側に回り込み始めていた。
「次は僕がちゅーする番ね?」
「えっ?」
「背中ガラ空きとか、もう、なんでもし放題やん」
「ちょっ…まっ、て…ひぁッ!?んむッ、
っふぁ…、ッ!?こうじ…っ、そこだめッ、ッぁ”!?
…っぁ、ひぅっ…!?っふゃぁッ…ぁっ……」
良い雰囲気はあっという間にぶち壊れて、思考も身体もぐずぐずに溶かされきった頃、やっと、お風呂が沸いた。
愛せないのは星じゃなくて。
おわり
これにて、【能力者宮舘】シリーズは完結です。
ここまでお付き合いいただきました500名(up日現在570名)の皆様、本当に、本当にありがとうございました。
またどこかの世界でお会いしましょう。
三文小説
コメント
7件
愛してゴーストから始まった物語が、愛せないのは星じゃなくてまでの1本の糸で綺麗に繋がる物語を見れてとても幸せです 私は読む順番を間違えて最初は深淵の星に堕ちるから読んだのですが、三文小説様の作品を読んでいくうちに糸と糸がどんどん繋がって、本当に感動しました 心より感謝申し上げます
うぅぅ…泣舘良かったねぇ…😭😭みんな幸せになれてよかった✨ とっても素敵なお話をありがとうございました!!これからもいっぱい読み返します!!
とーっても幸せなハッピーエンドで嬉しかったーー🤍🧡❤️ たまにまたこのカップルのイチャイチャのぞきたいです✨✨