テラーノベル
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ソラが語る「現代」の話は、王子と大魔導師グランにとって、まさに異世界の物語だった。魔法が存在しない世界、空を飛ぶ鉄の鳥、遠く離れた者と話せる箱、そして光る板の中で動く映像。彼らにとって、それは信じがたい、しかし魅力的な響きを持っていた。ソラ自身も、自分が当たり前だと思っていたことが、彼らにとってどれほど驚くべきことなのかを改めて感じていた。
特に、ソラが読んでいたファンタジー小説の話は、グランの好奇心を強く刺激した。物語が光を放ち、ソラをこの世界へといざなったという事実に、彼は深い興味を抱いた。
「なるほど…その『小説』とやらは、この世界の魔法の源と、何らかの繋がりがあるやもしれませんな」
グランは顎を撫でながらつぶやいた。王子の翡翠の瞳もまた、ソラの言葉に真剣に耳を傾けていた。
「ソラ、君の話は非常に興味深い。だが、君がここに来た理由、そして『異界の旅人』としての役割は、まだ明確ではない」
王子が静かに言った。
「我々の古文書には、異界の旅人が現れる時、この国に大きな危機が訪れると記されている。そして、その旅人がその危機を乗り越える鍵となる、とも…」
ソラは息をのんだ。危機、そして鍵。そんな大それた役割が、自分に与えられているというのだろうか。
「まさか…私に、そんなことができるはずがありません」
ソラは弱々しく言った。ただの平凡な女子中学生である自分が、魔法の世界の危機を救うなど、想像もできなかった。
グランは優しい眼差しでソラを見た。
「ソラ殿、あなたはすでに、我々の常識を超えた存在です。あなたの持つ知識や視点が、この国を救う鍵となる可能性は十分にあります」
その言葉に、ソラの心に小さな希望の光が灯った。不安は尽きないが、目の前の二人が自分を信じてくれている。ならば、自分にできることがあるのかもしれない。
「明日から、大魔導師グランが君の世話役となる。城の生活に慣れるまで、彼が君の案内役も務めるだろう。そして、君にはこの国について学び、いずれ我々の危機について力を貸してもらいたい」
王子はそう告げた。ソラは、まだぼんやりとした頭で頷いた。
その夜、ソラは客室として用意された豪華な部屋のベッドに横たわった。柔らかな羽根の布団は、彼女の体を優しく包み込む。窓の外には、見たこともない星座が輝いていた。
本当に、自分は魔法の世界に来てしまったのだ。
そして、この世界の未来が、自分にかかっている。
途方もない現実に、ソラは改めて震えた。
しかし同時に、胸の奥底で、かすかな冒険への期待が芽生えているのを感じた。
この不思議な旅は、まだ始まったばかりだ。
ソラは、静かに目を閉じた。
_𝐞𝐧𝐝_
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