テラーノベル
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🦈「失礼します……。」
こさめは緊張した面持ちで、生徒会室へ足を踏み入れた。
部屋の中は思っていたよりも落ち着いた雰囲気だった。
大きな本棚に、壁一面の書類棚。
窓際には観葉植物が置かれ、夕日が差し込んで部屋全体を橙色に染めている。
👑「座って。」
みことは応接用のソファを指差した。
🦈「ありがとう……。」
こさめはそっと腰を下ろす。
座ったものの、手は膝の上でぎゅっと握られたままだ。
緊張しているのが自分でも分かる。
その様子を見たみことは、小さく笑った。
👑「そんなに固くならなくて大丈夫。」
🦈「……でも。」
👑「俺、怖くないよ?」
🦈「それは……分かる。」
こさめは少し困ったように笑った。
🦈「でも、先輩と二人きりって初めてだから……。」
👑「そっか。」
みことはくすっと笑う。
👑「じゃあ、まずは自己紹介からやり直そうか。」
🦈「え?」
👑「昨日はちゃんとできなかったでしょ。」
そう言うと、みことはソファへ座り直した。
👑「改めて。三年生、生徒会長のみこと。」
優しく笑って右手を差し出す。
👑「よろしくね。」
こさめは少し驚いたあと、おずおずとその手を握った。
🦈「二年A組の……こさめです。」
🦈「よろしくお願いします。」
👑「敬語じゃなくてもいいよ。」
🦈「え?」
👑「俺、敬語で話されるの苦手なんだ。」
🦈「で、でも先輩だし……。」
👑「その方が嬉しい。」
みことは穏やかに微笑む。
👑「少しずつでいいから。」
🦈「……分かった。」
こさめは少し照れくさそうに笑った。
その笑顔を見て、みことも安心したように目を細める。
部屋に穏やかな空気が流れ始める。
その時だった。
コンコン。
🍵「みこちゃん。」
扉の向こうから、すちの声が聞こえた。
🍵「入っていい?」
🍵「いいよ。」
扉が開き、すちがお盆を持って入ってきた。
🍵「お話するなら、お茶あった方がいいかなって。」
湯気の立つ紅茶と、小さなお菓子がテーブルへ並べられる。
🦈「あ……。」
こさめは少し驚いた。
🦈「ありがとうございます……。」
🍵「どういたしまして。」
すちはにこっと笑う。
🍵「初めまして。」
🍵「副会長のすちです。」
🍵「みこちゃんから、こさめちゃんのお話は聞いてるよ。」
🦈「えっ?」
こさめは驚いてみことを見る。
🦈「えっと……。」
みことは少しだけ視線を逸らした。
🍵「名前くらいだけ。」
🦈「そうなんだ……。」
すちは微笑みながら続ける。
🍵「じゃあ俺は仕事に戻るね。」
🍵「ゆっくり話して。」
👑「ありがとう、すっちー。」
すちは軽く手を振ると、生徒会室を後にした。
扉が閉まり、また静けさが戻る。
🦈「優しい人だね。」
こさめがぽつりと呟く。
👑「うん。」
みことは嬉しそうに頷いた。
👑「すっちーは昔から優しい。」
👑「まにきもね。」
🦈「まにき先輩?」
👑「いるまね」
🦈「え?」
👑「俺はそう呼んでる。」
みことは少し笑う。
少しずつ会話が増えていく。
最初の張りつめた空気は、もうほとんどなくなっていた。
みことはカップを置き、静かにこさめを見つめる。
👑「……さて。」
👑「昨日の話をしよう。」
その一言で、こさめの表情も引き締まる。
🦈「うん。」
👑「まず、一番聞きたいことから答えるね。」
みことは真っ直ぐこさめを見る。
👑「どうして俺が、こさめちゃんを落札したのか。」
こさめはごくりと唾を飲み込んだ。
🦈「……うん。」
👑「でも、その前に一つだけ聞いてもいい?」
🦈「何?」
👑「こさめちゃん。」
👑「学校、楽しい?」
突然の質問だった。
🦈「え?」
🦈「えっと……。」
考える。
楽しいか、と聞かれれば。
🦈「……なつくんと、らんくんといる時は楽しい。」
🦈「でも、それ以外は……普通かな。」
👑「普通?」
🦈「うん。」
こさめは少し俯いた。
🦈「恋愛オークションの日は苦手。」
🦈「毎回、自分だけ呼ばれないから。」
🦈「最初は期待してた。」
🦈「今年こそ誰か入札してくれるかなって。」
🦈「でも、一年生の終わりくらいには諦めちゃった。」
🦈「どうせ誰も選ばないって。」
静かな声だった。
笑って話そうとしている。
でも、その笑顔は少しだけ寂しかった。
みことは何も言わずに聞いていた。
🦈「昨日もね。」
こさめは続ける。
🦈「最初は『やっぱりか』って思ってた。」
🦈「そしたら急に名前が出て。」
🦈「しかも……。」
少し笑ってしまう。
🦈「二億って。」
🦈「びっくりしすぎて、夢かと思った。」
みことも小さく笑った。
👑「驚かせちゃったね。」
🦈「うん。」
🦈「すごく。」
👑「ごめん。」
🦈「でも。」
こさめは首を横に振る。
🦈「嫌じゃなかった。」
👑「え……?」
🦈「びっくりしたけど。」
👑「初めて誰かが、こさめを選んでくれたから。」
その言葉を聞いた瞬間。
みことの表情が少しだけ曇った。
👑「……違う。」
🦈「え?」
👑「初めてじゃない。」
🦈「え……?」
こさめは首をかしげる。
みことは少しだけ目を閉じ、深呼吸した。
👑「俺は。」
👑「ずっと前から、こさめちゃんを選んでた。」
🦈「……え?」
👑「学校に入学した日から。」
その言葉に、こさめは固まる。
🦈「入学……?」
👑「一年生の時、覚えてない?」
🦈「……。」
こさめは必死に思い返す。
廊下。
中庭。
体育祭。
文化祭。
生徒会長だったみことの姿。
🦈「……ごめん。」
🦈「覚えてない。」
正直に答える。
みことは悲しそうな顔をするどころか、小さく笑った。
👑「うん。」
👑「知ってた。」
🦈「え?」
👑「こさめちゃんは気付いてなかったから。」
👑「でも俺は、何度も見てた。」
👑「転んだ子供を助けてたこと。」
👑「迷子になった新入生を職員室まで案内してたこと。」
👑「落とし物を拾って届けてたこと。」
👑「名前も知らない子が泣いてたら、一緒にしゃがんで話を聞いてたこと。」
こさめの目が少しずつ大きくなる。
🦈「全部……。」
🦈「見てたの?」
👑「うん。」
👑「たまたまじゃない。」
👑「何回も。」
みことは微笑んだ。
👑「誰も見てないところで優しくできる人って、すごいと思った。」
👑「だから気になった。」
👑「もっと知りたいって思った。」
こさめは何も言えなかった。
そんなこと。
誰にも言われたことがない。
誰かが見ていてくれたなんて、考えたこともなかった。
みことは静かに続ける。
👑「でもね。」
👑「オークションが始まってから、俺は後悔した。」
🦈「……後悔?」
👑「毎回。」
👑「毎回、こさめちゃんの名前が呼ばれない。」
👑「期待して。」
👑「少し笑って。」
👑「最後には何もなかったみたいに拍手して帰る。」
👑「その背中を見てた。」
こさめの肩が小さく震える。
🦈「……見てたんだ。」
👑「うん。」
👑「見てるだけしかできなかった。」
👑「俺は生徒会長だし。」
👑「制度を壊すことはできない。」
👑「でも。」
みことはゆっくり拳を握る。
👑「最後だけは。」
👑「卒業する前だけは。」
👑「絶対に、こさめちゃんを一人にしたくなかった。」
生徒会室は静まり返る。
夕日だけが二人を照らしていた。
👑「だから俺は。」
👑「全部賭けた。」
👑「誰にも競り負けないように。」
👑「絶対に。」
👑「こさめちゃんを選ぶために。」
こさめの瞳には、涙が少しずつ浮かび始めていた。
それは悲しい涙ではない。
誰にも気づかれていないと思っていた自分を、ずっと見てくれていた人がいた。
その事実が、胸いっぱいに広がっていく。
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