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「私
僕
オレ
には好きな人がいる
うち
僕
私 」
私、本所塀(もとべい)姫好(きい)の好きな人。それは
「よ!お待たせ」
眩しいほどの笑顔で手を挙げるピンク髪の彼、丘瀬(おかせ)耀優(よう)。
「ううん。全然待ってないよ」
「ごめんなぁ〜。じゃ、とりあえずワックでも行こっか」
「うん」
2人で歩き出す。
「いやぁ〜さ?天(あまね)いんじゃん?」
「うん。耀優くんと同じコーミヤ(黄葉ノ宮高校の略称)に行った」
「そうそう。姫好とも中3のとき同じクラスだった」
姫好が頷く。
「天がさ、1個上に兄ちゃんいるらしくて、兄ちゃんに捕まって、オレ盾にされてさ」
「大変だね」
「大変大変。先輩ってだけで怖いのに」
私と耀優くんは違う高校に通っている。私は猫井戸高校、耀優くんは黄葉ノ宮高校。
私は特に行きたい高校とかもなかったので、特に何の特徴もない猫井戸高校へ進学した。
耀優くんは校則の緩い黄葉ノ宮高校へと進学した。なので耀優くんはピンク髪だし、耳にピアスも光っている。
「そうだよね。でもよく1年生で髪ピンクにしたね」
「あぁ。元々好きな色ピンクだったし、茶髪とか金髪って無難じゃん?
だから唯一無二の?オレという存在意義を示すために?」
耀優は得意げな、あからさまに自分に酔った顔をする。
「ふふふ」
姫好がクスクスと笑う。姫好の笑い声を聞いて、胸が動き
姫好のほうをチラッっと見ると右拳をあてて笑っている笑顔が目に入った。
その様子を見て、明確にドキッっとする耀優。
「中学のときからクラスの中心だったもんね」
「そうなんかなぁ〜?ま、でもあの中学、オレがいなくなって寂しくなるだろうなぁ〜」
「静かになるね」
「まるでオレがうるさかったみたいな言い方じゃん?」
ツンとした顔で言う耀優。
「あ、ごめんね。違くて…」
視線を足元に下げる姫好。耀優は1歩前に出て、クルッっと振り返ながら姫好の前に立つ。
ポンッっと姫好の頭に手を乗せ
「んなことで怒んねぇって」
と言う耀優の声に、ゆっくりと顔を上げる姫好。
真正面に眩しいほどの笑顔の耀優の顔があり、自分でも顔が熱くなるのがわかるほど照れた。
2人はファストフード店、ワク・デイジー、関東圏での通称ワックに入り
それぞれタッチパネルで注文して、商品を受け取り席についた。
「そういえば姫好はなんで猫(猫井戸高校の通称)に行ったの?」
「うぅ〜ん。特に理由はないかな」
「そうなんだ?じゃあコーミヤ来ればよかったのに。そーすればもっと一緒にいられんのに」
「ね。今になってだけどコーミヤ行けばよかったって思うよ」
違う高校に通っているのになぜオレと姫好が付き合うことになったのか。
それは中学時代に遡る。オレと姫好は同じ中学に通っていた。
中学1年と中学3年で同じクラスだった。オレ自身はそんなこと気にしたことはないが
世間的にいうと、自分でいうのもなんだが、オレはカーストでいったら上のほうにいた。らしい。
いつも騒ぐメンバーがいて、そいつらと連んで、遊びに行って
授業中には怒られたりしたことも…あったかな?
仲良いメンバーに、さっき姫好との話にも出た天(あまね)、須木弁(スギべ)天(あまね)というやつがいる。
今も仲良く、オレと同じコーミヤ(黄葉ノ宮高校の略称)に通っている。
そして姫好はカーストでいったら…下ではないが上でもない、おそらく中間くらいにいたタイプだった。
オレ自身はそういう分類はしないが
仮にクラス内をA +、A、A-、B+、B、B-、C+、C、C-にわけるとするなら
オレはA +、A、A-を彷徨っていて、姫好はB+くらいの位置だったと思う。
なので関わったことがないわけではなかったが、ガッツリ関わったこともなかった。
私みたいな陰キャラがなぜ耀優くんみたいなカーストの天辺の人と付き合うことになったのか。
それは中学校を卒業するとき。仲良い子たちに卒業アルバムに一言コメントを書いてもらい
お世話になった先生にも書いてもらって、クラスのみんなにも書いてもらうことにした。
カーストの天辺の耀優くんは他クラスの男子女子から、ひっきりなしに卒業アルバムを渡されていて
まるで人気作家のサイン会みたいになっていた。
私は申し訳なくなって、でもクラスメイトだし一言ほしいと迷っていたら
「本所塀(もとべ)さんもオレのアルバムに一言書いてもらっていい?」
と耀優くんから話しかけてくれた。
「あ、うん。私のでよかったら」
と言うと耀優くんは微笑み
「本所塀さんの一言だから欲しいんじゃん」
と言い放った。今思えばそのときにもう心は動いていたのかもしれない。でもそのときは
あぁ。これが陽キャか
なんて思ってたかな?そしたら
「書いてもらうだけじゃなんだし、本所塀さんのアルバムにもなんか書いていい?ま、よかったらだけど」
と耀優くんから言ってくれた。
「でも」
と言いながら積まれたアルバムに目をやると耀優くんは口元に手をあてて
「あんま知らない他クラスのやつのはテキトーに書いてるから大丈夫。気にしないで」
と冗談混じりに言ってくれた。
多少は罪悪感はあったけど、当初の罪悪感は耀優くんのおかげで薄くなっていた。
そしてその日の夜にクラスLIMEで後日クラスで集まろうということになった。
もちろん強制ではなかったけど、私は行くことにした。そこにはカースト上位の陽キャラのメンバーがいて
もちろん耀優くんもいたし、耀優くんと仲が良い須木弁(スギべ)くんもいた。
幸いなことに私と仲が良い砂舞掛(さむかけ)静葉(しずは)もいた。
中学生ということもあって使えるお金も限られているため
繁華街に行ってもプリパニ(プリント カンパニー)を撮ったり、服屋さんを回ったりなどをした。
その途中での出来事。公園から移動しようとみんなで歩き始めたとき、片方のスニーカーの紐が解けていた。
そのことに気づいたときには遅かった。その紐を踏んで転けてしまった。
「大丈夫?」
横並びで歩いていた静葉が心配してくれて
「大丈夫?」
少し前を歩いていた耀優も駆け寄って心配してくれた。
「大丈夫大丈夫」
そう言って近くのベンチに私は座った。
「すぐ追いつくから先行ってて」
とみんなに言って静葉だけは「一緒に残る」と言ってくれたが
静葉にも楽しんでほしかった私は「先行ってLIMEして」と言って送り出した。
みんなが待っている状況なら焦って紐を結んだが
静葉にも「先行ってLIMEして」と言ったし、ゆっくりと紐を結ぶことにした。
紐を結んでいたらベンチの左隣に誰かが座ったので、別にそこまで幅を取っていなかったし
ベンチの真ん中にドン!と座っていたわけではないが、一応少し右に避けた。
左靴紐が結び終わり、右に取り掛かる。長めのスカートだったので、転んだとき膝は汚れていなかった。
右の靴紐も結び終わり、汚れたスカートをポンポンと払う。そこで初めて
「痛っ」
と痛みに気づいた。長いスカートのお陰で汚れはしなかったが怪我はしてしまったようだった。
座ったままスカートを上げ、膝を確認した。小さかったけど両膝から血が出ていた。
「やっぱり怪我してた」
と言う声で左を見た。するとそこには耀優くんがいた。今思えば懐かしい黒髪の耀優くんだった。
耀優くんは心の紅茶のレモンティーを一口飲んで
コンビニのレジ袋からアルコール消毒のウェットティッシュを取り出して私に差し出した。
「これで拭いて」
そして同じコンビニのレジ袋から絆創膏の箱を取り出して
「これ貼って」
と言ってくれた。
「あ、ありがとう。でも、いいの?みんなといなくて」
耀優くんの優しさにドキッっとして、でもその気持ちを申し訳なさが覆うような感覚になっていた。
耀優くんはレモンティーを飲んで
「あぁ〜…。まあ。みんなといるのは楽しいし、たぶん性に合ってるんだろうけど
たまには静かにゆっくりしたいときもあるのよ。こんなオレでもね」
と笑った。それは本心かもしれないし、気を遣ってくれただけかもしれない。
でも耀優くんのその言葉で罪悪感は晴れ、残ったのは耀優くんに対してのときめきだけだった。
その後ベンチでしばらく2人で話した。
そして2人で移動して、みんなと合流してプリパニなんかを撮って遊んだ。
この気持ちはどうにも静葉にも言い出せずに、後にLIMEで告白した。
姫好に告られたときはびっくりした。正直しっかり話したのは、たぶんだけど
卒業式の後の集まりで姫好が転けて怪我して、何の気なしにコンビニに寄って飲み物を買ったとき
ついでにあんだけズッ転けたんだから怪我してるかもと思って
ま、怪我してなかったとしても持ってて損はないと思い
絆創膏とウェットティッシュを買って届けたときが初めてくらいだと思う。
案の定姫好は怪我していて絆創膏とウェットティッシュが役に立った。
姫好といると落ち着いた。わいわい系のメンバーといるとたしかに楽しいのだが、気が抜けない。
常に、こう、張っているというか、テンションをある程度高くキープしないといけないが
姫好には悪い言い方になるかもしれないが、姫好といると気が抜けた。
姫好は自然体で、大人しいけど話してて楽しかった。
その卒業式の後の集まりの後、しばらくして急にLIMEで告白された。オレはスマホの前で固まった。
え?間違ってない?オレ?ほんとにオレ?
ただそんなことを直接聞くのも、
せっかく勇気を出して言ってくれたんだし申し訳ないと思い、しっかり自分の気持ちを伝えた。
耀優くんから返ってきた言葉は
耀優「気持ちは嬉しいよ。ありがとう。少し考えさせてくれないかな?」
だった。「気持ちは嬉しいよ。ありがとう」だけ見た私は
あ、フラれた。そりゃそうだよね
と思ったけど「少し考えさせてくれないかな?」という後半部分で
望み薄だけどまだフラれたわけじゃないと嬉しくなり
腹筋なんてないのに上半身が自然に凄い勢いで起き上がった。
オレはベッドに寝転がり、スマホを胸に置いて天井を見つめた。返事は一旦保留という形にしてもらった。
姫好「うん。ごめんね急に」
耀優「ううん。全然全然」
姫好「うん」
ピンクの毛の猫が布団に包まるスタンプを送った。
姫好からスタンプが返ってきたが既読はつけなかった。
正直姫好のこと知らないし、でも知らないというだけで断るのもどうかと思った。
「そういえば1年の頃も同じクラスだったっけ」
と思い出したが、1年生の頃の姫好との思い出は思い出せなかった。
それから姫好のことを考えて過ごす時間が多くなった。
こんなことを言ったら「え。ちょろ」と思われるかもしれないが
告白されてから姫好のことを考える時間が多くなり
それによりオレも姫好のことが気になり始めてしまったのだ。
なので後日姫好に「出掛けない?」とLIMEで誘って夕方の公園で
「あの…。告白の返事だけど」
「…う、ん」
「オレでよければ、よろしくお願いします」
と頭を下げて返事をした。
「ほんと?」
頭を上げると絵に描いたように手で口元を隠して喜んでいる姫好がいた。
正直「出掛けない?」と誘われたときはどっちかわからなかった。
最後の思い出をくれるのかな?とも思ったし、もしかしたらオーケーなのかも?とも思った。だから目の前で
「オレでよければ、よろしくお願いします」
と頭を下げる耀優くんの光景が夢なんじゃないかとも思った。
「ほんと?」
「ほんと」
と微笑む耀優くんのことをどうしようもなく好きだと感じた。
そんなこんなでオレたちは付き合うことになったのだ。
「じゃ、そろそろ帰るか」
学校帰りということもあって、すぐに夕暮れになってしまう。
「だね」
オレたちはトレイに乗ったゴミをゴミ箱に捨ててワク・デイジーを出た。
耀優くんはいつも家の前まで送ってくれる。優しい。
静葉にもよく「他校での恋愛ってどうなの?」と聞かれるし、そう思う人も多いと思う。
正直言ってすごく不安。今隣で笑っている耀優くんは、きっと高校でも同じように笑って
中学と同じようにクラスの中心的な存在なのだろう。否が応でも注目の的になるし
そうなると耀優くんに興味が出る女の子もいてもなにも不思議じゃない。
耀優くんは中性的、とまでもいかないけど、カッコいいと可愛いを持ち合わせた顔をしている。
少なくとも私より可愛い。それに優しいしノリも良い。モテないわけない。
だから、耀優くんのことを信じているとはいえ不安はある。
姫好は物静かだけどめちゃくちゃ可愛いし、話すと砕けてテンション高いときだってある。
一度仲良くなったら男が放っておくわけない。不安でしょうがない。
同じ高校に通っていればそんな不安はないのかもしれない。
でも私はその不安を上回る多くの幸せを感じることができる。
同じ高校、同じ空間に耀優くんがいない分、耀優くんは今なんの授業受けてるんだろう?とか
授業中またはっちゃけて先生に怒られてないかな?とか
耀優くんのことをたくさん考えることで気持ちが冷めないし
同じ高校に耀優くんがいない分、耀優くんに会いたくてしょうがないし
耀優くんに会える特別感を感じられる。
違う高校に通ってるけど
姫好
が
耀優くん
オレ
と同じ気持ちだったらいいなって思う。
私
どうしようもなく好き