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飲んでいたティーカップをソーサーに置いて、
「天気がいいので、少し庭に出てみないか」
彼が窓の外へ目を向ける。
「いいですね、行きましょうか」
二人揃ってお庭へ出る。
「本当に広くて、きれいですよね」
青々とした芝生が敷き詰められた庭園をぐるりと見回す。
「庭師がよく手入れをして、世話をしてくれているお陰だ。よければ案内をしようか?」
「はい、お願いします!」
自然に手を繋いで歩く。見つめると、彼の横顔にきらきらと眩しい陽の光が差していた。
「いつ見ても、素敵……」
ため息とともに呟きがこぼれる。
「ああ、庭にも花が咲き揃う頃だからな」
思い違いをしている彼に、声には出さずに「ううん」と口の中で唱える。
素敵なのは、あなたで……。いつ見ても、素敵で……まるで陽射しに煌めく花みたいに、魅力的で……、
見る度に、あなたのことを、好きになってしまう……。
「これは、なんていう花なんですか?」
花壇を指差して尋ねる。
「それは、カモミールだな」
「カモミールは、私も香料でよく使います。こんなに白くて可憐な花が咲くんですね」
そよ風に揺れる、白く小さな花弁に目を落とした。
「ああ、香料にも紅茶にもよく使われていて。源じいもたまに摘んで、カモミールティーを淹れてくれる」
「飲んでみたいです、源治さんの淹れたハーブティー」
「では今度話しておこうか」
「はい」と笑顔で頷く。お庭を彼と散策しているだけなのに、そのひとときは温かな幸せに満ちていて……。
「あ、これはラベンダーですよね。この花は私も知ってます」
自分も知っている紫色の花を見つけて話す。
「うん、こうして鼻を近づけると、とてもいい香りがする」
彼が花壇の手前に片膝をついて、ラベンダーの花にそっと手を添え顔を寄せる。
その一連の仕草が、とても優雅で美しくて……。
さっきもお日さまに照らされた横顔を素敵に感じたばかりなのに、再びトクンと胸がときめく。
「香料を扱っているからだろうが、この花のようにいい香りは、君からもするな」
膝をついた恰好のまま、彼が傍らに立つ私を仰ぎ見て云うと、
その端正な面差しと相まって、何気ないセリフにさえも心惹かれるのを抑えられなかった。