テラーノベル
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あいつが泣いているのを見た瞬間、胸の奥がざわついた。
「……出久?」
「……かっちゃん」
「何で泣いてんだよ」
「分かんない」
「分かんねぇって……」
「本当に分からないんだ。何かあったわけじゃないのに、気づいたらこうなってた」
「……そうかよ」
「……大丈夫だよ」
「大丈夫なわけねぇだろ」
「……ごめん」
「謝んな」
「でも、心配かけたくなくて」
「もう心配してんだよ」
「……そっか」
出久は、また笑おうとした。
その顔を見ていると、妙に腹が立った。
「笑うな」
「え?」
「今、笑いたくねぇだろ」
「……うん」
「なら笑わなくていい」
「でも、笑ってた方がいいと思って」
「……誰が決めた」
「僕……」
「じゃあ、やめろ」
「そんな簡単にできないよ」
「……そうかよ」
「ずっとそうしてきたから」
「何でだよ」
「……笑ってれば、みんな安心するから」
「お前が苦しくてもか?」
「……うん」
それ以上、何も言えなかった。
俺だって、どうすればいいのか分からなかった。
「かっちゃん」
「あ?」
「……僕、どうしたらいいかな」
「知らねぇよ」
「……そっか」
「俺にも分かんねぇ。だから、無理に何とかしようとすんな」
「でも……」
「泣きたいなら泣け」
「……」
「笑いたいなら笑え」
「……嘘でも?」
「ああ」
「どうして?」
「笑いたいのに我慢する必要ねぇだろ」
「……そっか」
「ただ、俺の前でまで無理して笑うな」
「……うん」
「それだけ覚えとけ」
出久はしばらく黙っていた。
「……まだ、いてくれる?」
「いる」
「帰らない?」
「帰ってほしいのか?」
「……嫌だ」
「なら、いる」
「……ありがとう」
「礼はいい」
それからしばらく、出久は自分から何かを話そうとはしなかった。
俺も無理に聞かなかった。
「……今日も眠れなかった」
「そうか」
「でも昨日よりは、少しだけマシだよ」
「なら、それでいいだろ」
「……うん」
「飯は?」
「食べたよ」
「本当にか?」
「本当だって」
「ならいい」
「かっちゃんって、そこばっかり聞くよね」
「食わねぇと余計しんどくなるだろ」
「……心配性」
「誰のせいだよ」
「ふふ……」
その笑い方は、まだ少し無理をしていた。
だから、何も言わなかった。
「……今日は、ちょっと疲れたな」
「なら休め」
「でも、かっちゃんと話したい」
「話せばいいだろ」
「……何話そう」
「知らねぇよ」
「ふふ。かっちゃんらしい」
「何だよ」
「なんでもない」
少しずつ、出久の口から出てくる言葉が増えていった。
苦しい日は苦しいままだったし、何もしたくない日もあった。
「……今日は駄目かも」
「そうか」
「何もしたくない」
「なら、しなくていい」
「……かっちゃん」
「あ?」
「こういう時、何も聞かないんだね」
「話したくなったら言え」
「うん」
「無理に話す必要もねぇ」
「……ありがとう」
「だから礼はいいって」
「でも、言いたいんだよ」
「……好きにしろ」
「うん」
そんなやり取りを重ねるうちに、出久は少しずつ「大丈夫」と言わなくなった。
「かっちゃん、今日ね」
「あ?」
「パン焦がした」
「何でだよ」
「考え事してたら忘れちゃって」
「馬鹿か」
「ひどい!」
「で、食ったのか?」
「食べたよ」
「よく食ったな」
「もったいないから」
「そういうとこだよ、お前」
「ふふっ」
久しぶりに聞いた、力の抜けた笑い声だった。
「……」
「何?かっちゃん」
「あ?」
「……何でもねぇ」
「変なの」
「うるせぇ」
それから、くだらねぇ話が少しずつ増えていった。
朝寝坊したとか、買ったばかりのペンをなくしたとか、今日の飯がうまかったとか。
そんな話をしている時だけは、出久も余計なことを考えずに済むみたいだった。
「ねぇ、かっちゃん」
「あ?」
「最近、少し楽しいかも」
「そうかよ」
「うん。まだ駄目な時もあるけど」
「そりゃそうだろ」
「……それでもいい?」
「いいに決まってんだろ」
「そっか」
出久は嬉しそうに笑った。
その顔を見ても、もう無理しているとは思わなかった。
「ねぇ、かっちゃん」
「今度は何だ」
「いつもの冗談で笑わせて?」
「……急だな」
「今日は、そういう気分なんだ」
「しょうがねぇな」
「うん」
「じゃあ、この前お前が――」
「待って! それはやめて!」
「自分から頼んだんだろ」
「それとこれとは別!」
「何が別なんだよ」
「だって恥ずかしいから!」
「知るか」
「もう、かっちゃん!」
「うるせぇ」
「ふふっ……」
「……何だよ」
「やっぱり、かっちゃんといると楽しい」
「……そうかよ」
「うん!」
その言葉が、妙に嬉しかった。
「ねぇ、かっちゃん」
「あ?」
「これからも、そばにいてくれる?」
「当たり前だろ」
「……そっか」
「今さら何だよ」
「確認したかっただけ」
「何回でも聞け」
「じゃあ、また聞くね」
「好きにしろ」
「うん!」
「……ほら、笑え」
「もう笑ってるよ」
「……そうかよ」
「うん」
「……出久」
「ん?」
「明日も来いよ」
「もちろん。明日も来るよ」
「……約束だからな」
「分かってるって」
「なら、忘れんなよ」
「忘れないよ」
#初心者です🔰
青嵐
16
出久推し
172
#四季愛され
コメント
7件
みぃです🤍 第2話、すごく良かった……。 「笑えば安心する」って、出久くんがずっと背負ってきたものが伝わってきて切なかった。かっちゃんが「俺の前でまで無理して笑うな」って言ったところ、めちゃくちゃ刺さったよ。無理に明るくしなくていいんだよって、言える人がいるってだけで救われるよね。 最後の「もう笑ってるよ」も、ちゃんと出久くんの意思で言えた言葉に聞こえた。2人の距離がゆっくり縮まっていく感じ、すごく好きだな……🥀 続き、気になるよ。