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「ごめんください」
来たッ!!
客が久しぶりだったせいか座布団も用意していないことに気づき、坂沼は、神経反射的にヨミカを叱った。
「来たぞ。何してる」
「はい?」
「はい?じゃない『はい!』だ」
座布団を意味なく“ブンブン”振り回すヨミカに、坂沼は掠れた声で怒鳴った。
「客間をなんとかしろ!」
ヨミカはちぇと音を立て、座布団を敷きに脱兎の如く走っていった。わかってる…鑑定中にじっと座っていることが苦痛なんだろう。しかし、せっかくのチャンスを無碍にすることなどできない。キャリアのためじゃない。口コミでもなんでもいい。兎に角、もう一度、生身の鑑定士の存在を世間に認めさせるのだ。
「いらっしゃい」
嵐が去ったあとのような室内で苦肉の笑みを浮かべ坂沼はお客を半ば強引に迎え入れた。
【鑑定】品物に宿る才を見抜き、相応の価値を付加する。限られた人間にのみ行うことを許された至極崇高な仕事。テレビで見るような、いささか滑稽とも見える儀式的。余計な思案や解説は、あまりしない。
ただ、評価額を提示してお帰りいただくだけだ……
ーーー『大抵は』な。