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農地 (デレク) への入植に関する条件は王都のスラム組と同じにしようと思う。
孤児院の方は既に教会の裏に建っている。
建物は二棟あり、子供150人ぐらいまではゆっくり生活ができるだろう。
専用の井戸も掘ってあり、お風呂には温泉も引いているのでとても快適なはず。
孤児院の手伝いにはナツを通じて熊人族に声をかけようかと思っている。
そうそう、教会のお手伝いも必要だから6~7人は確保したいところだな。
営業屋台は串焼き用をとりあえず2台、畑の方も孤児院内に1区画を準備している。
冒険者の登録は10歳以上からできるそうなので希望者を集めてみるか。
指導はナツ親子にやってもらうとしよう。メルとガルはまだ冒険者にはなれないけど、この町のことならよく知っているからな。
そうなると冒険者ギルドの出張所を町中に置いてもらわないとな。
今の冒険者ギルドはダンジョン前にしかないから、依頼を出す時なんかは不便だったりするのだ。
よしよし、だいぶ考えが纏まってきたぞ。
俺はシロを連れてナツのログハウスに戻った。
孤児院の開設についてはナツにも話を聞いてもらい、
教会での雑用や、子供たちの世話係として熊人族を雇い入れたい旨を相談した。
「で、何人必要なんだい?」
「う~ん、最低で5人かな。できれば8人は欲しいところだけど」
「うん、大丈夫だよ あんた。この時期なら10人だってすぐに集まるよ。だって農家は春まで暇なんだからさぁ」
明日にでも声を掛けてくれるらしい。
次は子供たちに着せる服だな。
スラムの子供たちは夏に見た格好のままだろうか?
今あの格好で過ごしているのなら凍えているに違いない。
しかし予め服を準備するとなると、数やサイズが問題になってくるよなぁ。
これも何か良い案がないかナツに相談してみる。
「それこそ あんた、家の子が湯上りに着ているバスローブとかじゃダメなのかい? あれなら帯で多少は調整が利くじゃないのさぁ。でも、もう少し生地に厚みがあったほうがいいかね。そして帯も幅広のしっかりしたやつをつけて、色だって紺や茶なんかにできないのかい?」
言われるままをデレク (ダンジョン) に伝え、サンプルを作ってみた。
「こんな感じだけど、どう?」
「…………」
ナツはポカンと口をあけている。
今提案したものが、即出てきたからね……。
「まあ、あんただからねぇ~」
そんな諦め顔してため息をつくって、どーなの?
……まぁいっか。
気を取りなおして、出来あがったものを二人で吟味していく。
ここは補強した方が良いだとか、裾はもう少し長くてもいいとか。
同じ素材でひざ丈の甚平ズボンや、女の子用にキュロットスカートみたいなやつを作るとか。
いろいろ話していく中で、こちらも大分纏まってきた。
「でもあんた、ここらはまだまだ寒くなるんだよ……。あっそうだ、シロちゃんが大好きな ”柔らかタオル” があったじゃないか! メアリーとキロが首に巻いてたやつ。あれって暖かそうだねぇ」
(ああ、アレか。たしかにシロは大好きだよな)
「じゃあ、色は今と同じで赤でいいよな」
「なんで赤なのよ?」
ナツが突っ込んできたので、
「様式美というやつだよ」(安兵衛湯は……ここにはない)
この後も、やれ靴は? やれベッドは? いろいろと話し合った。
ベッドは基本2段ベッドにして、小さい子たちは大部屋に布団を並べて雑魚寝かな?
気が付かないところで……、洗濯場は? 物干しは? 小さい子供用の柵は?
などなど、考えれば考えただけ出てくる。
………………
…………
……
必要だと考えられるものは全て用意した。(たぶん)
――これで準備OK!
そう思っていたところにナツが口をひらく。
「ねぇあんた。向こう (モンソロ) に行っても、すぐに『はい、そうですか』とはならないと思うよぉ。それに各方面に話を通しとかないと、あとで大変だよ」
「…………」
確かにそうだな。
モンソロの町はダンジョンも近くに見つかっているし、これからって時なのだ。
そんな時期に騒動をおこしては非常に拙い。
各所に根回しした上で、何日も前から告知する必要があるだろうな。
この冬空の元、早く迎え入れてあげたいところだが……。
――急いては事を仕損じる――
そこで、お迎えの日を10日後に設定。
ぬかりなく慎重に準備を進めていくことにした。
告知や子供たちに知らせるのは、迎え入れる日の3日前からと決まった。
「それから転移させるにしても、そんな大人数でやったら大騒ぎになるよ。私が皆に協力してもらって馬車を借りてくるから、それに乗せて町の外へ……。って、町の外でも転移できるんだよね?」
「うん、あまり離れなければ行けると思う」
ナツに話をすると、気持ち良くバシバシ決まっていく。
ナツさん男前だねぇ。まったく頼もしい限りだ。
この町に住む熊人族はすでに彼女が束ねているようなものだし。
あとは根回し根回し。
町の世話役や衛兵隊、冒険者ギルドや教会にも顔を出しておくべきか。
子供たちを迎える日には、シスターマヤにも一緒に来てもらうようにして。
あと、以前スラムの炊き出しを手伝ったアーツやシュピールのお婆さんにも話を通しておこう。
(子供たちが、いきなり居なくなって心配するといけないからね)
よし! 決まったな。
さっそく明日から動いてみることにしよう。
「「ただいまー!」」
んっ、メアリーとキロが戻ってきた。
二人してニコニコしているとこを見ると楽しかったようである。
「メアリーもキロもお帰りー」
「外は寒かったでしょう。温かいミルクティーを入れてあげるわね」
「やたーっ! ナツママありがとう。キロちゃんミルクティーってすごく美味しいんだよぉ」
「え、そんなに美味しいのですか? メアリーさま」
ミルクティーを知らないキロも、興味津々で笑顔になっている。
「今日はどこを回ってきたんだ?」
「うん、ゲンパパ 聞いて! それがねぇ…………」
身ぶり手ぶりを交えながら一生懸命に話す二人。
それからはみんなでお茶をしながら帰る時間まで楽しく過ごした。
「今、戻りましたー」
「「ただいまー!」」
フウガと子グマ姉弟も帰ってきたな。
この3人は剣の稽古をするためにダンジョン・サラまで行っていたのだ。
姉のメルは本来 ”短槍つかい” だが今日はバスターソードを持たせていた。(短い子供用です)
メルもガルも将来は冒険者を目指すそうなので、それなら剣も使えた方が潰しが効くだろうなーてね。
そして次の日。
朝食を済ませると、俺はシロ・メアリー・フウガ・キロを連れてデレクの町へ転移した。
モンソロのスラムにいる子供たちを受け入れるため、さっそく今日から動くことにしたのだ。
フウガと子供たちは昨日と同じように過ごしてもらうことにした。
メアリーとキロは町の散策。
目が見えなかったキロには、物を覚えると同時に人のとふれあいにも慣れてほしい。
メルとガルはフウガによる剣の指導とダンジョンの探索だな。
お小遣いとして、それぞれに銀貨1枚ずつ渡していく。
それをしっかりと見られており、子グマ姉弟の分はナツに没収されていた。
メルとガルの二人が俺に救いの目を向けてくるのだが……。
――すまん! そこまでは面倒見きれん。
おやつとして配った、干し肉と飴でこらえてくれ。
夕刻前には帰るからとみんな伝え、俺とシロはモンソロの町へ転移した。
人の少ない南門をくぐり、まずはマクベさんの家を訪ねる。
世間話をしながらドーナツやクレープなどを差し入れていく。
次に向かったのは冒険者ギルド。
んん――――っ! 相変わらずだがむさいことよ。
――早く出ていきたい。
我慢しながらアーツを探すのだが、今日は見当たらないか……。
そうそう都合よく居るはずもないよな。
あきらめた俺は、冒険者ギルドを出ると町中を歩き出した。
途中で串焼き屋に寄り、買い食いしながらやってきたのは古い洋館。
(シュピール婆さんは元気だろうか?)
炊き出しのお手伝いをしてから、そんなに時は経っていないけど懐かしく感じてしまうなぁ。
ギギギギギ――――ッ、
軋む門を開け玄関の扉をノックする。
すぐにペーターさんが出てきてくれたので、
「ご挨拶に伺いました」と伝えるとすぐに中へ通してもらえた。
お婆さんは元気そうだった。
訪問のあいさつが終わると、ペーターさんが自慢の紅茶を入れてくれる。
「お口に合えばいいのですが、どうぞ」
俺はドーナツや蒸しパンなどを皿に盛り、テーブルの上に出していく。
「まぁまぁ、こんなに美味しいものが食べられるなんて、長生きはしてみるものねぇ」
おいしい紅茶にほっこりしながら話は弾んでいった。
町を出た経緯や王都での暮らしぶりなどを話していく。
そして今回の孤児院の件についても話していった。
………………
楽しい世間話と報告を終え、俺はソファーから立ちあがった。
「私には何もできないけれど、子供たちのことはお願いね。そして、またいつでもお茶を飲みにきてちょうだいね」
「はい、近くに来たときには必ず」
シロはペーターさんにもらった干し肉が嬉しかったのか、感謝のチンチンを披露していた。
可愛いのだけれど……。
フェンリルとしての威厳とかは大丈夫なのか?
まあ、シロ自身あまり気にしてないようだし。
案外自分のことを、まだ犬だと思っているのかもしれないな。
シュピール邸を出たあと再び冒険者ギルドへ寄ってみるが……、アーツの姿は見えない。
夕刻前にもう一度来てみるか……。
そろそろお昼時かな。さて今日はどこで食べようか?
そうだ! 久しぶりにガンツの顔でも見に行ってみるか。
俺はシロを連れ路地裏に入ると、マギ村にあるガンツ工房の裏に転移した。
――あれっ、閉まってるぞ?
こんなことは初めてだな。いったいどうしたんだろう?
……そうだ八百屋、八百屋のタミねーさんに聞いてみるか。
「こんにちは~。お久しぶりで~す!」
「はーい、いらっしゃ~い。 って、あんたかい!」
うんうん、いつもの調子だ。
「さっきガンツのところへ寄ったんですけど居ないんですよ。何処に行ってるのか分かりますか?」
「ああガンツかい。もう、ここには居ないんだよ。何もかも処分しちまってねぇ、今頃は王都に居るんじゃないかねぇ」
「王都ですか、何でまた?」
「あまり詳しい事は知らないけど、山がどうとか、ダンジョンがどうとか言ってたねぇ」
「…………」
ダンジョンとは、おそらくデレクのことだろう。
そうか、こっちに来るつもりか。
王都ということは入植希望を出したのか、もしくは自分で転移門を借りて飛ぶのだろう。
ひとこと掛けてくれれば連れていってあげたのになぁ。
まぁガンツらしいけど……。
「…………」
「それで、今は何が美味しいんですか?」
「まいど~♪」
俺の言葉にタミねーさんは嬉しそうに答え、野菜や果物をタンと買わされた。
「じゃあ、その内にまた寄らしてもらいます」
「うん、待ってるよ。アイウィルビーバック!」
サムズアップして見送ってくれるタミねーさん。
(いやいや、タミねーさん何処に戻るつもりなの?)
モンソロの町に戻った俺たちは遅い昼食をとり、市場などをプラプラとまわったあと再び冒険者ギルドに顔を出した。
…………あっ、居た!
背が高く目立つのですぐにわかった。
ホッと肩を下ろしながら隣へいき声をかけた。
「アーツ久しぶり。元気にやってるか!」
「おお、ゲンじゃないか。どうしたんだ、こっちに戻ってきたのか?」
その後は時間もなかったので、明日に会う約束だけしてギルドを後にした。