「瑠衣ちゃん、それ借りていい?」
瑠衣ちゃんが使っている墨汁を指さして聞いた。
「あごめんこれもう無いんだよね、なーぎー使ってたやつは?」
「これももう無くなって、、」
「おーまじか!新しいのあったかなー」
瑠衣ちゃんは練習している滝原くんの方に行った。
「滝原、墨汁新しいのあったっけ」
「あー、えっもう無くなった?」
「2本とももう無いんだよね」
「まじかーその2本で最後やわ、おんちゃんに言っとくん忘れてたわあ」
滝原くんと日高くんが使っている入れ物にだけ少し墨汁が残っている。
「ほんなら今日はこれ使い、あとでおんちゃんに言っとくわ」
滝原くんは入れ物を私と瑠衣ちゃんの方に寄せてくれた。
立ち上がったついでに水道で手を洗って元の場所に戻ろうとすると、床に敷いていた新聞紙につまずき、軽くこけてしまった。
「おおっ大丈夫?」
滝原くんが私の腕を少し掴んで支えてくれた。
「ご、ごめん、あ、ごめんっ、、」
墨汁が入った入れ物を倒してしまっていた。
「あ裾すそすそすそ」
ズボンにつかないように急いで足を上げた。
「なーぎー大丈夫??」
瑠衣ちゃんが駆け寄ってきてくれ、日高くんと皆川くんは溢れた墨汁を半紙で吸って処理してくれた。
「凪怪我してない?」
「う、うん」
「よかったよかった、ズボンにも付いてないみたいやし」
「ごめん、、溢しちゃって、、」
「ええよええよ、溢すのなんかしょっちゅうあることやで」
「そうそう、特に聡也とかよく倒すよね」
手を洗ってきた皆川くんが言った。
「そんなんちゃんと回数数えへんとわからんやんかーなあ」
滝原くんが日高くんの方を向いて言った。
「いや、聡也が一番多いと思うけど」
「滝原だねー圧倒的に」
「、、、俺か、、」
滝原くんがそう言うとみんなは笑った。
「じゃあ今日は書きの練習終わろかー」
私とみんなは片付けを始めた。
「あ、こんにちはー」
片付けをして1年生のダンスの様子を見ていると恩田先生が来た。
「こんにちは、あれ、2年生もう練習終わったの?」
あ、言わないと。私が溢しちゃったせいで練習できなくなったって、言わないと。
「あ、あの、」
「墨汁がなくなってもたんですよ〜」
口を開いた途端、滝原くんが言った。
「まだ残りあったんじゃない?あ、もしかしてまた溢したのかねえ」
「また俺が蹴ってもたんです、、すいません先生、、」
「わざとじゃないし仕方ないね、新しく買っておくよ」
「ありがとうございます先生!」
私なのに。
こんなにいい人、本当に初めてだ。
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