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お土産は……

3 - 第3話『玉梓』

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2023年06月17日

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アクアsid

まさか男2人で和菓子カフェに来るなんてな。しかも路地裏にある。姫川さんも、一応俺も芸能人だ。予約する程の有名店に行きずらいのも分かるが、ここもどうかと思う。店内も綺麗だし、悪い店じゃないって知れて安心してるけど。

アクア)姫川さんが和菓子好きなんて、意外でした

勝手に、甘味があまり得意じゃないのかと勝手に思ってた。今までだって、焼肉とか寿司とかだったのに、今日は珍しく和菓子だ。俺は前世から和菓子を好んで食べていた傾向があるが、姫川さんとそうなのだろうか。

姫川)いや、特別に好きって訳じゃない

アクア)え?じゃあ、なんで……

姫川)お前が好きなんだろ。和菓子

アクア)…ルビーから聞いたんですか?

姫川)うん。店を決めたのは俺だけど、妹さんから勧められたのもあったぞ

アクア)……

姫川さん、いつの間にかルビーと仲良くなったのか。俺がいない間に、連絡でも取り合っていたのだろうか。有り得そうだな。あの事件のおかげ、なんて言いたくはないが、その事がきっかけで今まで知り合っていなかった奴とも連絡先を交換し合っていたらしいからな。監督も、LIN〇が賑やかになったとほざいていたし、何も不思議な事じゃない。それ以上に、全員で俺を探してくれたのはかなり嬉しかった。絶対に口では言わないけど。

姫川)今日は俺の奢りだから、沢山食えよ

アクア)『今日は』じゃなくて『今日も』ですよね。いつも奢られっぱなしなのも気まづいって言ってるのに、ちっとも聞いてくれないじゃないですか

姫川)細かい事は気にするなよ

アクア)気にしますって

姫川さんと出かける時、いつも奢ってくれる。いくら今世で年上とは言え、前世を含めたらかなりの年下に毎回奢らされるのは罪悪感がある。身体に精神が引っ張られてるとしても、若干抵抗はある。まぁ、それも続けば諦めもつくけど……諦めもついたけど。

アクア)店内、静かですね。店員も出てこないし

姫川)それが売りだからな。注文も全部タブレットでして、店内もそれを持ってくるだけ。会話は全くと言って良いほどない

アクア)へぇ…好みが別れるシステムですね

メニュー表を眺めながら、どれにしようか悩んでいると、姫川さんがじっと俺を見ていることに気がついた。

姫川)…アクア

びくりとする俺をみて、一瞬悲しそうな顔をする姫川さんに、こっちまで悲しくなる。

姫川)アクア、今は店内に誰もいない

姫川さんはそう言い、そっと優しく抱きしめる。ミヤコさんや監督、あかねとはまた違う温もりを感じ、泣きそうになる。

アクア)…兄さん

姫川)ははっ、ぎごちないな

ふはっと笑われて、ムッとする。

アクア)慣れないんだよ。いきなり兄が出来るなんて……

姫川)異母兄弟だって言ったのは、アクアなのにな

アクア)それは、そうだけど……

名前呼びだって、まだ慣れないのに。

姫川)嬉しかったんだよ

アクア)え?

姫川)異母兄弟だとしても、俺に弟妹がいたってことがな

アクア)兄さん……

姫川)だから、可愛い弟には甘えて欲しい。そう思うのは、兄として当然の権利だ。アクアだって、ルビーちゃんに対して、今の俺と同じ感情を持ってるだろ?

アクア)勿論。生まれた瞬間から、ルビーは俺の大切な妹で、守らなければいけない存在だ

それはアイが死んだ時から…死ぬ前から変わらない想い。今はまだ気まづいけど、またいつか笑い合える日が来ると良いな。

姫川)完璧なシスコンだな

アクア)兄さんだって、立派なブラコンじゃん

まだルビーは姫川さんが俺たちの異母兄弟だって知らない。俺の復讐がルビーにバレないように、姫川さんに頼んだから。だから、姫川さんもルビーに伝えていない。

今だけでも、良いのかな。

アクア)…甘えていい?

姫川)もちろん

俺は姫川さんの肩に寄りかかった。俺はまだ甘え方が分からない。前世からずっと、家族というものが分からなかった。転生して、アイやルビーと暮らしていくうちに分かった気もするが、根本的には分からない事が多い。そう単純なものじゃないと知っているから、一概にこうとは言えないと思う。

アクア)…連れてきてくれてあれだけど、疲れたから寝たい

姫川)ん。頭を撫でてやろう

優しく微笑んで、頭を撫でてくれる。その心地良さに身を任せ、少しずつ眠くなっていくのを感じる。

アクア)…ありがとう、兄さん



姫川side

すっかり眠りに入ったアクアを横に寝かせ、そっと頬を撫でる。アクアはよく寝るようになった。本人は過眠症の傾向があると他人事のように言って、黒川と有馬に怒られていたのは記憶に新しい。俺も少しキレてたし、鳴嶋も悲しそうな顔をしていた。

姫川)嬉しかったんだ。だから、この幸せを壊そうとしてる奴は…俺が止めないと

タブレットから甘さ控えめのスイーツを1つを注文した後、店員呼び出しボタンを押した。

アクアの彼女だった黒川から話を聞いて、色々と分かった事がある。

俺たち実父がカミキヒカルだったこと。そいつがアクアを拉致監禁をし、トラウマを植え付けたこと。それ以前にPTSD(心的外傷後ストレス障害)を患っていたこと。

姫川)背負い過ぎてんだって……

あまりにも壮絶過ぎて、目も当てられない。金田一も、GOAさんだってお前の事を気にかけてんだ。

姫川)頼むから、周りに頼ることを覚えてくれ

少し遠くから、店員が歩いて来ているのを視界に捉える。手に持っているのは、多分俺が注文した草餅だろう。

店員)失礼します。こちら、『甘さ控えめ草餅』です。他のご要件は何でしょう?

姫川)この前友人から手紙があるとお聞きしました

店員)はい、玉梓ですね

『玉梓』広くは知られていないが、この店特有のシステムで、手紙を送り合うことを指している。それを変な形で利用しているカミキに少し苛立ちを覚えるが、顔に出さないようにする。

店員)暗証番号をお願いします

姫川)0728です

店員)かしこまりました。少々お待ちください

店員がお辞儀をして立ち去るのを横目に、テーブルに置かれた草餅に目をやる。見た目も綺麗だし、普通に美味そう。

姫川)いただきます

俺は甘いものが苦手だ。甘さに包まれた時の喉の奥に広がる違和感が幼少期から嫌だった。でも、この草餅ならいけ……

姫川)うぇ、あっま……

いけなかって。「甘さ控えめ」とか嘘だろ…てか草餅ってこんな甘いんだな。俺には食えないわ。まぁ、アクアが起きてから食べさせれば良いか。コイツ、少食だからもっと食わせないと。

店員)失礼します。玉梓を渡す前に確認しますが、上原大輝さんで合ってますか?

姫川)っ……!

アイツ、やってくれたな。

店員)お客様?

心が黒くなっていくのを感じる。肯定したくない。アクアを助けられるかもしれない情報が目の前にあるのに、行動に移せない自分が嫌になる。



?)合ってます

姫川)!

どうしようかとぐるぐる考えていたら、どこか聞き覚えのある声がした。

店員)いらっしゃいませ。相席ですか?

?)はい

店員)かしこまりました。確認が完了いたしましたので、失礼いたします

スラスラと会話が進んでいくのを、どこか他人事のように思う。テーブルに置かれた手紙に目をやるが、今はどうにも手に取る気が起きない。

姫川)…黒川、なんでここに

警戒しながらそう聞くも、黒川は笑顔を崩さない。随分と恍けるのが上手くなったもんだな。

あかね)ただの偶然ですよ?ここの和菓子、美味しいですよね

姫川)……

無駄な話しをする気はないと意思表示をすると、黒川は話すのをやめ、俺たちの反対側の席に座る。心做しか不機嫌そうだ。

あかね)…早くアクアくんを返して下さい

やっぱりそうだと思った。黒川は意味もなく出かける奴ではないのは同じ劇団の人として知っている。元々そうだったが、星野がこうなってしまってからはさらに拍車がかかった。

姫川)また星野を攫いに来たのか

あかね)取り返しに来たんです

星野が帰って来てから、俺たちは2つの意見で対立した。

1つが『星野を外に連れていきたい』意見。俺や有馬、鳴嶋などがこれに含まれる。星野に植え付けられているトラウマを和らげ、今後の道を途絶えさせないようにしたいと思っている奴らが固まっている。そして、もう1つが『ずっと家に居させたい』意見。これは黒川や俺の異母兄弟でもあるルビーちゃんなとがこれに含まれる。また犯人に遭遇しないように外に出ないようにしないと思っている奴らがそっちに固まっている。

星野が帰って来たってのに、とんだ冷静になっちまったな。

姫川)…変わったな

あかね)……

そう簡単にハッピーエンドにはさせてくれないか。台本のストーリーでもないしな。

姫川)星野はまだ眠ってる。いくら軽くなったとはいえ、お前に運ぶのは無理だぞ

俺がそう告げると、黒川は少し悔しそうに口を噛んだ。女の子がそうしたらダメだろ。

姫川)奢るから、少し話そう

あかね)…わかり、ました

続く

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