姫川side
姫川)話す前に、何か注文したらどうだ?
あかね)そう、ですね…
黒川は、慣れない手つきでタッチパネルを操作し始めた。たまに寝ているアクアをチラチラ見ている。
彼氏の心配くらいするよな…あれ、確か別れたんだっけか。有馬が落ち込みながら言ってた記憶がある。そう言えば、なんで落ち込んでたんだ?恋敵じゃなかったのか…分からないな。
注文し終わったのか、タッチパネルを元の位置に戻した黒川は、少し意心地悪そうにしていた。
あかね)…アクアくん、起きませんね
姫川)もしかしたら、今日はダメな日かもな
アクアは確実に前よりは笑顔が増えてるし、感情も前に出す事が出来ている。しかし、まだ根本的には救えていない部分が多すぎる。完治できる可能性は低いが、それで諦める奴は星野の周りにはいない。
あかね)……
姫川)……
やばい、気まづい。
あかね)アクアくん、最近はどうですか…?
姫川)正直、仕事であまり見れてないけど…鳴嶋からは元気な方だって連絡をくれてる
あかね)メルト君が……
姫川)アイツなりに色々やってんだ。星野に結構懐いてたから、助けたいんだろう
あかね)…知ってます。東京ブレイドの公演後から、2人で出掛ける事も増えましたからね
姫川)あぁ、鳴嶋のアカウントから写真が投稿されてたんだっけ
星野も満更でもなさそうな顔してたし、なんなら星野から鳴嶋を誘う事もあったらしいしな。嬉しそうに話してきたのを覚えてる。
あかね)そうですよー。彼女だった私を放って置いて、他の人と遊ぶなんて……むぅ
姫川)いじけるなよ
あかね)今日はやけ食いです!すみませ……
姫川)黒川、その持っているタッチパネルは何か分かるか?
あかね)…はい
コイツ、マジか。
姫川)黒川…流石にそれはないぞ……
あかね)うぐっ…すみません……
店員)失礼します。こちら、白玉多めのあんみつときなこ餅アイスと……
店員さんの持つデザートをみて、ぞっとした。流石に注文しすぎだろ。甘い匂いと俺の財布で目眩がした。あれ、店員さんの手プルプルしてない?こんな静かな店で大量に注文する事がないから慣れてないのか…ご愁傷さま。
店員)失礼しました
腕が疲れたのか、プルプルと腕を抑えながら去って行ったのを横目に、黒川の前にある和菓子達をみる。
姫川)黒川って、甘党だっけ
あかね)いえ。私じゃなくて、アクアくんが……
姫川)星野が?
和菓子好きだとはルビーちゃんから聞いてたが、甘党の域に達していたとは思わなかった。本人からもそんなオーラは感じなかったし、無自覚なのか?
あかね)ちょっとした抵抗で、甘い匂いにつられて起きてくれないかなって思ったんです
姫川)安直だな
あかね)こうでもしないと、壊れちゃいそうで……怖いんです
アイスを1口食べ終えた後、黒川はそう呟いた。話せるくらいには落ち着いたらしい。
あかね)姫川さん達がアクアくんを外に出してる事、本当は助かっているんです
あかね)でも、やっぱり怖い。またあの人に何かされないか…最悪、殺されたりしないか。怖くて、夜に寝れなくなったりするんです……
あかね)嫌だ…アクアくんが居なくなるなんて嫌だよ……!
姫川)…俺だってそうだ。俺にとって、星野は可愛い後輩で、弟みたいな存在だ。あんな目に遭わせた奴を許せない
あかね)…『弟みたいな』じゃなくて、本当に弟なんですよね
黒川の核心のついた言葉に、俺は少し驚いたが、動揺はしなかった。心のどこかで、分かっていたからだ。
姫川)やっぱり、気づいてたんだな
あかね)アクアくんと兎も角、姫川さんは隠す気なかったんですよね?
姫川)バレてたか
あかね)メルトくんだって、たまに困惑してこっち見てくるんです。『どうしよう…助けて黒川さん!』みたいな感じの目線送られるんですよ
姫川)それは…ごめん
あかね)ふふ、良いんですよ。微笑ましいですし。和みますので
姫川)…そっかぁ
よく分からないけど、深く考えるのはやめよう。
あかね)あれ、姫川さんスマホ鳴ってますよ
姫川)…マジじゃん。少し席を外すから、星野を頼む
あかね)分かりました
あかね)どうでした?
姫川)金田一からだった。なんか新しい仕事が入ったらしい
あかね)えっ、どうしよう。アクアくん……
姫川)あと大量のスイーツな
あかね)うっ……
姫川)俺はもう行かないといけないけど、星野の事はお前に任せた
あかね)えっ……
姫川)…星野に危害を加えなければ良い
あかね)不服そうですね
姫川)『星野は渡さん』って啖呵切ってたのに、このザマだからな
あかね)あ、あはは……
姫川)じゃあ、これやるから星野にたくさん食わせとけよ
あかね)?はい
続く
コメント
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最高です!続き待ってます!