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あれからどのくらいの時間が経ったのだろうか。
気付いた時には部屋に正人の姿は無くて、私は一人寝室のベッドに横たわっていた。
身体を起こし、床に散らばった服や下着を手に取り、涙を零しながら服や髪の毛を整えていると、誰かが訪ねてきたようでインターホンが鳴り響いた。
薄暗い中、デジタル時計が目に入った私が時刻を確認すると、夜の八時を過ぎていた。
凜は竜之介くんが迎えに行ってくれたのだろうか、彼にも沢山心配を掛けてしまっているだろうか。
そんな事を考えながらベッドから降りようとした、その時、来客の応対の為に玄関へやって来たらしい正人がドアを開けながら『何の用だよ?』と明らかに不機嫌そうな声で相手に問い掛けると、
「ここに居るんだろ? 彼女を渡せよ」
これまでに聞いた事が無い程に低く、声だけでもかなり怒っている事が分かる竜之介くんの声が聞こえて来て、私は急いで部屋から出ようとドアノブに手を掛けて回してみるも、中からは開かないように細工がしてあるようでドアを開ける事が出来ない。
「竜之介くん!!」
この寝室は玄関から一番近い位置にあるから、私は自身の存在を知らせようとドアを叩いて必死に彼の名前を呼ぶと、
「亜子さん!? そこに居るの!?」
どうやら聞こえたようで、名前を呼びながら確認してくれた。
けれど、
「おっと、それ以上入るなよ。勝手に入ったら不法侵入で訴えるぞ?」
正人は助けに入ろうとしている竜之介くんに勝手に入らないよう念を押していて、入れば訴えると脅しにかかっていた。
「竜之介くん! 私の事はいいから……凜をお願い……」
この部屋にいる以上、恐らく彼が私を助けられる術は無いに等しい。ならばせめて、凜だけでも竜之介くんの傍に置いてもらえればと願い出たのだけど、
「大丈夫、もう少しの辛抱だ。必ず助けるから」
何か打開策があるのか、竜之介くんは焦りすら見せていないような感じで私にそう声を掛けてくれた。
「おいおい、どうするって言うんだよ? 入れば即通報するぜ?」
「通報されて困るのはどっちだよ?」
「は?」
「お前と亜子さんは元夫婦ってだけで、今は赤の他人だ。そんなお前が彼女を監禁してるとなれば、お前の方が立場が危ういに決まってんだろ?」
「はは! 馬鹿かお前は? 俺と亜子はもう一度やり直すんだよ。ほら、こうして婚姻届もある。これは監禁なんかじゃねぇんだよ。合意の上の行為なんだっての」
正人の言葉に、腸が煮えくり返るくらいの怒りが込み上げる。
無理矢理犯される中、凜を脅しの材料にしながら婚姻届に名前と判子を押すように強要された挙句いつの間にかこうして監禁されているのに、あたかも合意の上だと言い張るのだから。
だけど、その話を聞いても竜之介くんは焦りすら見せず、
「勝手に言ってろよ。それより、お前は不思議じゃ無いのか? 俺がこうしてこのマンションを訪ねて来た事が」
何故、自分がこの場所に来たのか不思議では無いのかと正人に問う。
確かに、どうして竜之介くんはこのマンションに私や正人が居ると分かったのだろう。
「そういやそうだな、お前、まさか人を雇って俺を監視してたんじゃねぇだろうな?」
「まあ、そんな事はしようと思えば簡単だけど、そうじゃない。俺はある人からお前の住所を聞いたんだ」
「はあ? 誰だよ、そのクソ野郎は」
「――お前の会社の社長だよ」
「は? 何言ってんだ、お前。お前みたいな奴に社長が俺の住所を教える訳ねぇだろうが」
「いや、教えるさ。他でも無い、俺が聞いたんだからな」
二人の会話に聞き耳を立てていた私は、次に発せられた竜之介くんの言葉に驚きを隠せなかった。