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翌日。大学の中庭には、柔らかな日差しが差し込んでいた。青空は、昨夜の涙をまるで洗い流してくれたかのように澄んでいた。
並んで歩いてくる二人の姿を見て、
ひまなつが一番に声を上げる。
「おーっ!やっと仲直りしたか!」
「なんか元気だね」
すちはいつも通りに返事しつつも、
その指は、隣のみことの袖をそっとつまんだままだった。
みことは少し恥ずかしそうにうつむきつつも、目元は優しくほころんでいた。
「よかった……ほんと、よかった」
こさめがにこっと笑いながら、みことの腕をとってくるくると回す。
「泣いてたって聞いたから、心配してたんだよ~?」
「なつが言ってたよ、“すち、ガチ泣きしてた”って」
「やめて」
すちが思わず睨むように振り返ると、いるまが肩をすくめて笑った。
「……でもまあ、結果オーライじゃね?」
「だな。俺たちのおかげだよね、らんくん!」
「うんうん。あとは今日、ふたりがちゃんと“例のやつ”果たすかどうかだよね~?」
「“例のやつ”……?」
みことがきょとんとしながら聞くと、こさめが笑顔で宣言した。
「“明日一緒にお昼食べよ”っていうやつ!」
「えっ、ちゃんと聞いてたの……?」
「当たり前でしょ?あの約束、絶対守ってもらうからね!」
らんがにやにやしながら、ピクニックマットを取り出した。
「中庭、空いてたらここで食べようと思って準備しといた~! もちろん、すちとみことは、特等席ね!」
「えっ、ピクニック!? 本当なの!?」
みことが困惑しながらも笑い出し、すちも思わず口元を緩めた。
「……なにそれ。ほんと、変な友達だなぁ」
「でも、悪くないよね」
みことがそっと言うと、すちは小さく頷き、 みことの指をもう一度、ちゃんと握りなおした。
「悪くないよ、全然」
笑い声と、昼の光の中――
ふたりは、もう離さないと誓うように、手を繋ぎ続けた。
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緑の芝生には色とりどりのピクニックマット。
その上には、みんなが持ち寄ったお弁当やサンドイッチ、ジュースがずらりと並んでいた。
「こっち! すち、みこと、ここ座ってー!」
らんが空けておいた特等席を指さして、満面の笑みで呼びかける。
「……ほんとに用意してたんだ」
すちが少し呆れながら言うと、こさめが嬉しそうに返す。
「だって“お祝いピクニック”だもん。仲直り成功記念!」
みことはすちと顔を見合わせて、小さく笑った。
「うん……なんか、嬉しいね」
ふたりが並んで座ると、いるまがすちの肩をぽんっと叩く。
「昨日の夜はどうなるかと思ったけど、今の顔見たら全部チャラだわ」
「いつからそんな保護者ポジに……」
そう言いつつも、すちの声はどこか穏やかだった。
そして自然に、みことの肩に自分の肩が触れる距離に座る。
それだけで、みことの頬がうっすらと赤くなった。
「……お腹すいたね」
「そうだね。食べよう」
すちが差し出したおにぎりを、みことはおとなしく受け取る。
一口食べると、ふわっと笑顔になる。
「……すちの手、あったかいから、おにぎりまであったかい気がする」
「何その天然すぎる感想……」
すちはわずかに照れたように口元を歪めるが、すぐに顔を背けた。
「……馬鹿」
「今、ちょっと嬉しかったでしょ?」
「……知らない」
みことがくすくす笑っていると、ひまなつが唐突にジュースをすちの膝に置いた。
「ほれ、照れてる場合じゃないよ、乾杯しようぜ~!」
「なんの乾杯だよ……」
「すちとみことがラブラブで仲直りした記念っ!」
「……うわ、言葉にすると恥ずかしい」
みことが顔を赤らめて俯くと、すちがふっと笑った。
「……じゃあ、乾杯」
「え、のるの!?」
「……仕方ないでしょ。ここまで来たら、乗るしかないじゃん」
そんなやりとりに、みんなが笑い出す。
カップ同士がカチンとぶつかり、透き通った音が春の風に乗って響いた。
芝生の上、陽だまりの中。
笑い声と、優しい視線が交差する昼下がり。
すちとみことの手は、食べ終わっても、そっと膝の上で重なっていた。
それは、もう“仲直り”を越えた、ちゃんと恋人としての一歩。
ふたりはまだ、少し照れながらも――
間違いなく、隣にいることの幸せを噛みしめていた。
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ランチも食べ終わり、みんなが芝生の上でのんびりとくつろぎ始めた頃――
ひまなつが、飲みかけの缶ジュースをくるくる回しながら、ふと口を開いた。
「ねぇ、そろそろ言ってもいい?」
「は? 何を?」
いるまがとなりでそっけなく答えるが、少しだけ声がこもっている。
「んー……すちとみことが無事に仲直りできたから、なんかタイミング的にも今かなーって思って」
「え、なに? なになに?」
らんとこさめが身を乗り出す。
「実は……俺たちも付き合ってんだよな」
ひまなつがさらっと言った。
「……は?」
一同、時が止まる。
「ちょ、ちょっと待って、今の、どういう意味?」
みことが口をぱくぱくさせながら聞き返すと、いるまがため息混じりに続ける。
「だから、そのまんま。俺とこいつ、付き合ってる」
「いつから!?」
「んー…秘密?」
ひまなつがにこにこしながら言う。
「えええええええ!? 全然気づかなかった!!」
らんとこさめが声をそろえる。
「……いや、絶対気づいてたでしょ」
すちが半ば呆れながら言うと、らんがにやにやと笑った。
「まあね~?ちょっと怪しいとは思ってたけど、本人たちから聞きたかったから、あえて黙ってた」
「というか、なっちゃんが距離近いのいつものことすぎて……告白ってピンと来なかった……」
みことがぽそっと呟くと、ひまなつが「それ偏見じゃない!?」と笑った。
「でも、なんか……嬉しいな」
みことが笑って言った。
「俺たちだけじゃなかったんだって思うと、安心するというか」
「うん、わかる。なんか、背中押されるよね」
こさめがうなずく。
いるまは無言でひまなつの方にちらりと視線を送り、
ひまなつも自然な仕草でその手をとった。
ふたりの指が絡まる。
それはまるで、誰にも見せびらかさない代わりに、確かな絆を示すみたいな、静かな愛情表現。
「ま、うるさい奴らばっかだけど……俺は気にしてない」
いるまがぼそっと言うと、すちが鼻で笑った。
「そういうとこ、変わんないね」
「すちこそ、変わったんじゃね? ずっと手、離してないし」
言われた瞬間、すちとみことは目を見合わせ、
同時に照れたように俯いた。
「……こっちは、いいの。今は、これで」
「ふふ、かわいい~」
みんなの笑い声が、春の風に混じってふわりと広がっていった。
ピクニックは、ただのランチじゃない。
大切な人たちと、秘密を分かち合う場所になっていた。
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いるまとひまなつのカミングアウトでざわつく中庭の空気の中――
ふいに、こさめがぱんっと手を叩いた。
「っていうかさ~~~」
その声にみんなの視線が集中する。
「この流れだったら……俺たちも言っていいよね?」
「えっ……まさか……」
みことがぽかんと口を開ける。
するとすかさず、らんがにっこりして言った。
「うん、俺たちも付き合ってるんだけどね♡」
「……はあああああ!?」
今度こそ一斉に声が上がる。
「え、ちょっと、待って……ほんとに?」
みことが目を丸くすると、こさめが嬉しそうにうんうんと頷いた。
「うん!2ヶ月前から!」
「今まで黙ってたのは?」
すちが眉をひそめる。
「ん~、特に隠してたわけじゃないけど、聞かれてなかったし、なんとなく流れで?」
「さりげなく手繋いだり、アイコンおそろだったりしてたけど、みんな気づかなかったね~」
「お前らの自然すぎる距離感、マジで見抜けねぇよ……」
いるまが思わず額を押さえる。
ひまなつが笑いながらうなずいた。
「いやー、今日カミングアウトデーじゃん」
「カップル祭りじゃん」
すちが苦笑まじりに呟くと、こさめがふわっと笑った。
「でもさ、こうやって、みんなが自分の“好き”をちゃんと話せるのって、すごくいいことじゃない?」
「うん。なんか、誰が誰を好きでもいいって空気、すごく安心する」
みことも微笑む。
らんが手をひらひらと振って、すちとみことを見た。
「ってことで、これで全員カップル成立~♡」
「まさかの全員恋人持ち……」
みことが呆然と呟くと、らんがいたずらっぽく言う。
「次はダブルデート、トリプルデート企画だねっ!」
「誰が幹事するの」
すちがぼやいたその声も、どこかあたたかかった。
笑い声が絶えない午後。
秘密を分かち合った仲間たちは、心の距離をまた一歩縮めていく。
この場所にいること、誰かを好きでいることが、
あたりまえで、誇れることだと感じられる――
そんな時間が、ここには流れていた。
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