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17 - 第14話:地下の図書室

2025年05月03日

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第14話:地下の図書室

 学校の地下階――

 その存在を知る生徒は、もうほとんどいない。


 「記録保管室」と呼ばれていたその場所は、

 AI導入以降、“非効率な学習資源”として封鎖された。




 ミナトがその扉を見つけたのは、偶然だった。

 校舎の裏手、旧備品倉庫の奥。錆びついたフェンスの向こうに、

 誰にも使われなくなった古い鉄扉があった。


 扉の上には色褪せたプレートが残っていた。

 「図書保管区域:旧教育指導書専用」




 鍵はなかった。ドアはすでに破損し、手で押せば軋んで開いた。


 中は暗く、空気は重く乾いている。

 電気は通っておらず、ミナトはポケットライトを点けた。


 棚には埃をかぶったファイル、紙の教科書、

 そして――ひとつだけ、黒い布に包まれた本があった。




 ミナトはゆっくりとそれを開く。


 中には、祖父の名前――フジモト・カイの署名。

 ページには万年筆で書かれた文字が残されていた。


 その筆跡は、彼の記憶にある“あの手”そのままだった。




 > 「言葉は、ただの記号ではない。

 >  誰かの痛みを、形にする灯火だ。

 >  言葉が生きる時、沈黙の中に声が残る。」




 ミナトの指先が震える。


 この詩は、祖父が「誰にも読ませずに封印した」と言っていた作品だった。

 AI導入が始まり、“詩を書くこと”が制度的に禁止されかけていたあの頃――

 最後まで“生きた言葉”を書こうとしていた痕跡。




 その瞬間、彼の端末が振動した。


 【非認可通信エリアに侵入/記録開始】


 警告は出たが、停止命令はない。

 “まだ見逃されている”範囲。




 ナナからメッセージが届いた。


 「今どこ? さっき、君の詩がまた削除されたって通達が出てた」


 ミナトは迷わず写真を撮って返信する。

 祖父の詩集のページ――灯火のように滲んだインクの一節を。




 その夜、彼は久しぶりに震えながら書いた。


 > 「消されたはずの言葉が、

 >  静かな場所で、まだ呼吸をしていた。

 >  それを見つけた僕は、

 >  この社会の“記憶”と繋がった気がした。」




 誰かが消そうとした言葉。

 誰にも届かないようにされた詩。


 けれど、生き残っていた。


 そして、それを今、ミナトが読む。



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