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コーチに花火大会の事を伝えたらすんなり許可が出たため拍子抜けした。
元々そのつもりだったのかもしれない。
瞳とのデート…女の子だとわかって、動揺しなかったわけではない。
ただ、朱里の事をからかってた訳では無い、そして、会いにこなくなるのが嫌だった。
それが本心で、誠実に向き合ってくれるなら、この近づきたい思いが変わることはなかった。
合宿中にデートの予定が入るなんて考えていなかったから、持ってきている私服はシンプルなものしか無かった。
花火大会でデートをする事になったと知った友人達はわらわらと朱里を囲み、持ってる服を出し合いコーディネートし、メイクをし、ヘアアレンジまでこなした。
17時20分 辺りはまだ明るかった。
待ち合わせのサッカーコート前に着く頃には、花火を見に来た人で賑わっていた。
朱里はなんとなく落ち着かず、前髪をいじりながら瞳を待っていた。
「お待たせ〜」
振り向くと、そこには瞳がいた。
前髪を少しあげ、毛先を遊ばせるようにセットしている。
ゆったりしたメンズシャツの下に、細い鎖骨が見えていた。
…まるで、王子様のようだった。
「お疲れ様っ、いつもと雰囲気違くてびっくりしちゃった」
「朱里ちゃんも。服も、髪型も新鮮な感じするね。すごく可愛い」
瞳は微笑んで朱里を見た。
朱里は頬が熱くなるのを感じた。
「瞳ちゃんは、いつも今日みたいなコーデするの?」
「ううん。今日はデートだから、王子様目指した。兄ちゃんの服とワックスとか借りてみたんだ」
ゆったりしたシャツは兄のものだからだろうか。
様になっていた。誰が見ても、かっこいいと思う。
でも、朱里は少し不服だった。
「瞳ちゃんは、目指さなくてもいいんじゃない?王子様。」
「…え?」
「えと、瞳ちゃんが好きなら、すごく素敵だと思う!実際すごく似合ってるし、王子様みたい。だけど、あんまり男みたいって言われるの好きじゃ無いのかなって思ってたから。」
「私は瞳ちゃんとデートしたいから、無理に男性らしくする必要はないんだよ?」
朱里は真っ直ぐな目をしていた。
「…そうだね。ありがとう。つい、こういうのを求められる事が多かったから」
「〜〜他の子とのデートの話?!」
朱里は頬を膨らませ瞳に詰め寄った
「ち、ちがう!ちがう!ほら、学園祭とか、その方がウケるし、家でも学校でも、何となく、男に近い自分を求められてる気がしてた。」
「それに、デートは朱里ちゃんが初めて」
瞳は頬を染めて微笑む。
その言葉に朱里は満足だった。
「じゃあ今日は、求められる瞳ちゃんじゃ無くて、そのままの瞳ちゃんでいてね。」
ふたりは花火大会の会場に向かった。
「うわ〜人増えてきたね」
「一応一番混むところは避けたけど、この辺じゃ一番大きい花火大会だからね」
「迷子なんないように気をつけないと」
瞳はチラリと朱里を見た。
「……!」
「迷子になんないように…嫌じゃ、無ければ」
瞳は朱里の手を握っていた。
斜め前を歩いていたため、顔をしっかり見ることはできなかったが、首が赤く染まっていた。
朱里は手を握り返す。
今まで、友達とは何度だって手を繋ぎ、ハグだってした事がある。
でも、こんなに心臓がうるさいのは初めてだった。
出店でおやつを買い、瞳について行く。
「ここ、少し遠いけど人そんな多くなくて綺麗に見えるんだよ」
瞳は芝生にレジャーシートを敷き、2人分のクッションを置いた。
「用意周到だね」
「毎年兄達ときてるんだよね」
「そうなんだ。じゃあ今年は私が横取りしちゃったね」
「横取りなんて言わないでよ〜。私嬉しかったんだから。」
瞳はクッションに腰掛け笑いかけた。
「もうすぐはじまるかな」
「最初アナウンスあるからもう少しかかるかも。喉乾いた。今から行って間に合うかな〜」
「私の飲みかけで良ければあるよ。飲む?」
朱里はペットボトルを差し出す。
「え、あの、それはダメかも…」
「ごめん、こういうの苦手だった?」
「違くて、あの……間接キスになっちゃうし」
瞳は顔を伏せ、耳の先まで真っ赤に染めた。
友達と回し飲みをする事は多かったから、つい差し出してしまった。
意識し出すと恥ずかしくてたまらない。
「そ、そそそ、そうだね!ごめん!!こっち!冷やしパイン!まだ手付けてないから良かったら!」
恥ずかしさを誤魔化すように差し出した。
「ありがとう」
瞳はチラリとだけ朱里を見てパインを口に咥えた。
ーーーーードンーーーーー
低い音が響いた。
空には赤と黄色の大きな花が咲いていた。
「うわあ、キレ〜」
「やっと始まったね」
1度上がり始めた花火は次々と続いていく。
赤、緑、ピンク、黄色。
様々な花が咲いては散っていく。
瞳の顔を横目で見た。
花火の光が反射して、とても綺麗な横顔だった。
つい、見とれてしまった。
視線に気づいた瞳は振り返った。
「ん?どうしたの?」
「…ううん」
朱里は瞳の手に触れる。
瞳はチラリと朱里を見て、そっと指を絡めるように握り直した。
しばらくそのままだった。
響くような鼓動を、花火の音でかき消した。
花火の音が止む。休憩時間だろうか。
「綺麗だったね」
「私あの、1回静かになってからパラパラって開くのが好き」
「わかる!一瞬不発かなって思わせてくるやつね」
「…でもね〜私が1番見とれちゃったのは瞳ちゃんのお顔かな〜?」
朱里は冗談っぽく言った。
「なにそれ」瞳はくすくすと笑う
「花火の光で照らされてて、なんか、目が離せなかった…なんか照れくさいかも!」
朱里は笑いながら、自分の付けている髪飾りをひとつ外し、瞳の耳にかかる髪につけた。
「ねえ、これプレゼントしてもいい?」
鏡を出し瞳に見せる。
マゼンダの花が着いたヘアピンが瞳の髪に付けられていた。
「私よく使ってたやつなんだけどね、瞳ちゃんに似合うと思って。」
瞳は鏡に映る自分を見た。
可愛いものを身につける姿はなんとも照れくさい。
でも、嬉しかった。
「可愛い。ありがとう。変じゃない?」
「変じゃない。似合ってるよ」
朱里は笑いかけた。
再び花火は打ち上がり始めた。
隣に並んでいたふたりは、いつの間にか肩が触れる距離で花火を見上げていた。
時間はあっという間だった。
クライマックスの花火が終わると、人はぞろぞろと移動していく。
「おわっちゃったね〜」
「そうだね、こんなちゃんと花火見るの久しぶりだった!」
「いいでしょ。海辺の花火」
「よかった。すごく。また来年も来たいな」
…瞳ちゃんと一緒に。
なんて声に出す事もできずただ隣を歩いた。
会場を離れると人もまばらになっていた。
「何時までに戻らないといけないとかある?」
「21時に点呼あるからそれまでには戻らなきゃ」
時刻は20時20分。 合宿所まではすぐ近くだった。
「もう少しだけ、お話していかない?」
「……うん!」
瞳は朱里の手を引いて、いつもの芝生に腰掛けた。
「今日のデートは、いかがでしたか?」
「えへへ、すごくね、楽しかった。」
「嬉しい。私も、楽しくて幸せな時間だったよ」
ふたりは顔を見合わせて笑いあった。
「……帰りたくない。」
朱里は膝を抱え込みながら呟いた。
「朱里ちゃん」
瞳は朱里の手を取った。
朱里はゆっくり顔を上げ、瞳の目を見つめ返した。
夜風が吹いても、繋いだ手は熱かった。
瞳はまっすぐだった。
「私は、朱里ちゃんの事が好きです。」
「求められる姿じゃなくていいって、私を見てくれるって言ってもらえて、すごく嬉しかった。
この4日間、沢山の思い出をありがとう。」
瞳は朱里の指先に口付けをした。
「朱里ちゃんに会えてよかった」
瞳はそう言って小さく笑った。
繋いでいた手が、そっと離れようとする。
「……なんで、そんな終わりみたいな事言うの?」
朱里は咄嗟に、その手を握り返した。
「私も、瞳ちゃんの事が好き。」
「会えてよかったし、これからもずっと一緒にいたい。もっと瞳ちゃんの事を知りたいよ。」
声は震えていた。
「私の、恋人になってくれませんか」
波の音が静かに響いていた。
朱里は目をそらさなかった。
瞳も、目を離すことはできなかった。
「……私で、いいの?」
握った手に力が入る。
「瞳ちゃんがいい」
朱里は目を細めて笑った。
高光は困ったように視線を落とし、口元を緩めた。
「だめだなぁ」
「ちゃんと、かっこよく終わるつもりだったのに」
「かっこよくなくていいんだよ」
瞳は朱里と目を合わせた。
「……よろしくお願いします」
瞳はそっと朱里を抱きしめた。
柔らかい匂いがした。
瞳が小さく笑う。
「来年も、また一緒に来ようね」
「うん……!」
花火の匂いも、人の気配も無くなっていた。
世界はいつの間にか2人だけのものになっていた。
コメント
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第5話、めっちゃ良かった…!花火大会デート、かわいすぎてやばい。瞳ちゃんの王子様コーデを見て「無理に男性らしくしなくていい」って言う朱里ちゃんの気持ち、すごく刺さった。お互いの「そのまま」を認め合う感じが尊い。 間接キスで真っ赤になる瞳ちゃんと、髪飾りをプレゼントする朱里ちゃんのやりとりも最高。最後の告白シーンは「終わりみたいなこと言わないで」って朱里ちゃんが引き戻すところが胸熱すぎた…!来年も一緒に来ようね、の約束がめっちゃ沁みる。ほんとお幸せに…!