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「――大丈夫?」
そっとその場を離れ、独り窓の外の景色を眺めていると、不意に頭上から声が降ってきた。 顔を上げると、従兄弟の透が痛ましいものを見るような表情でこちらを見下ろしていて、理人の心臓がドクリと跳ねた。
「……別に。平気」
慌てて視線を逸らし、ぶっきらぼうに答える。だが透は困ったように眉を下げると、おもむろに理人の頬を大きな両手で挟み込み、強引に顔を上向かせた。
「全然、平気って顔してないよ」
真っ直ぐな瞳に見つめられ、居心地が悪くなって目を伏せる。すると今度は顎を指先で固定され、逃げ場を奪うように視線を合わせられた。
「……ッ、おい、なにす――」
「理人。凄く、辛そうな顔してる。学校、楽しくないの?」
いきなり核心を突かれ、息が止まりそうになる。透は昔から、恐ろしいほど勘が鋭い奴だった。今年中学に上がったばかりだというのに、妙に落ち着いていて、時折大人びた冷徹なまでの観察眼を見せることがある。
「……べ、つに。普通だよ」
「嘘。理人がそんな顔をする時は、決まって何か一人で抱え込んでいる時だ。小さい時からずっと一緒に居るんだもん。そのくらい、言われなくてもわかるよ」
「……」
「オレにだけは、ちゃんと教えてよ。力になりたいんだ。……理人とは、本当の兄弟みたいなものだろ?」
その言葉に、胸の奥がギュッと締め付けられる。血の繋がり以上に、二人は本当の兄弟のように育ってきた。 口下手で自分の内面を晒すのが苦手な自分と違って、透は明るく社交的で、常に輪の中心にいるような太陽のような存在だ。
中学に入りバスケ部で揉まれてからというもの、透の身長は劇的に伸び、今では理人より頭一つ分も大きい。まだ少年らしいあどけなさは残るものの、肩幅も広くなり、その掌の熱さには確かな男の骨格が宿っている。
だが。本当のことなんて、口が裂けても言えるはずがなかった。 憧れの兄貴分であるはずの自分が、男に組み敷かれ、中を汚されているなんて。弟のような彼にだけは、絶対に知られたくない。
「大丈夫だって。……ただ、部活での成績が少し、いまいちなだけだから」
「……それは、本当?」
「本当だ。しつこいぞ。透」
頑なに言い張ると、透はまだ何かを言いかけて唇を戦慄かせたが、すぐにそれを飲み込んだ。 そして諦めたように小さく溜息を吐き、困ったような苦笑いを浮かべる。
きっと納得はしていない。けれど、これ以上問い詰めても理人が心を閉ざすだけだと、瞬時に悟ったのだろう。こういう時の透は、残酷なまでに聡い。
「……ねぇ、ゲームしよっ! ゲーム! 久しぶりだし、今日は理人と遊び倒すって決めてきたんだ」
「え? あぁ……そうだな」
ぱぁっと、嘘のように明るい表情を作って、透が理人の手を握りグイと引っ張る。その無邪気な笑顔は、小学生の頃のままだ。 わざと話題を変えてくれたのだと気づき、理人は密かに安堵の息を吐いた。
「……嘘つき……」
ぽつりと、透の唇から零れた言葉はあまりに小さく、理人の耳には届かなかった。
「ん、今何か言ったか?」
「ううん、なんでもない! それより早く行こう」
眩しいほどの笑顔で誤魔化され、手を引かれるままにリビングを出て、二階の自室へと移動する。 透が中学に進学して以来、こうして二人きりで過ごすのは本当に久しぶりだった。部屋に入るなり、透はリュックの中から手慣れた様子でゲームソフトを取り出した。
今流行りの対戦型アクションゲームだ。以前は理人も熱中していたが、最近は勉強や部活、そして蓮との「時間」に忙殺され、コントローラーに触れることさえ忘れていた。久しぶりに起動した画面は、記憶よりもずっと鮮明で、どこか遠い世界の出来事のように思えた。
「ね、勝負しよ! 真剣勝負!」
透はそう言って、弾んだ声でコントローラーを差し出してきた。心からこの時間を楽しみにしていたことが伝わってきて、理人の頬が自然と緩む。
透と一緒にいると、蓮に汚された身体も心も、少しずつ浄化されていくような気がした。この清らかな時間だけが、今の理人にとって唯一の「救い」だった。
もも
#創作BL