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「チリリチリリ」
夜明けから何時間か経った頃、壁や床が風化しているアパートの二階の部屋で、1人の男が目を覚ました。
目覚まし時計に手をかけ、けたたましく鳴り響くベルの音を止め、半開きの目を右手でこすりながら起き上がる。
「ふあぁあ」
吸い込まれそうなくらいのあくびをし、時計の針の刺す数字を見て焦り出す。
そして、人が変わったように行動のスピードが上がる。
「やっべえ!」
フラつきながらキッチンへ向かうと、出しておいたお弁当箱に、コンビニのサンドイッチや、トマトなどの野菜を詰める。
冷凍庫から出した、唐揚げやシューマイを、小皿に並べ、レンジの中に突っ込んだ。
そして、冷蔵から卵をいくつか取り出し、大きなフライパンの上で割った。
殻をゴミ袋に入れた男は、寝室へ駆け寄り、叫ぶ。
「俊真!俊真!お支度しないと!」
俊真と呼ばれた男の子は、小さなうなり声を出しながら、掛け布団を額まで引き上げる。
「あー、俊真さん、起きてくださいよぉ」
中々起きない俊真の横で、床に膝と手をつき、参った表情で、ため息を漏らす。
「こんなことしている暇なんかねえ」
男は、タンスを勢い良く引き出し、中から短パンやスモッグなど、俊真の着替えを引っ張り出す。
それをタンスの上へと運んだ。
そして、自分の寝ていた布団を適当に畳み、開いたままの押し入れに突っ込んだ。
「はぁ」
疲れたのか、押し入れの戸に手を当てて、深いため息をつく。
「えーっと、あとは弁当と、朝飯と仕事の準備して、起こして……うわぁぁぁ」
「うるさい……」
父の叫び声のあまりのうるささに、俊真は口を開いたが、再びに眠りについた。
「やっと起きた!っておーい……」
男は参った表情で俊真を軽く睨む。
「起こすのは後でいっか、先に支度だ」
クローゼットを勢い良く開き、スラックスやワイシャツ、下着など、自分の着替えを掴み出し、素早くハンガーを抜き取った。
そして速歩で洗面所へ行くと、パジャマを脱ぎ捨て、仕事着を着た。
ボタンを留めながらキッチンへ向かい、フライパンを火にかける。
レンジから皿を出して、唐揚げとシューマイを弁当箱の隙間に詰め込んだ。
「よし……」
フライパンの火を止め、引っ張りだした食パンに乗せた。
それを皿に乗せて、居間の机に並べる。
「おはよぉ、パパ」
「おはよう俊真ぁ。朝飯食べててくれぇ」
やっと起きてきた俊真に涙を流す。
そんなごく普通のシングルファザーの、普通じゃない話。
続く