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オレはお前の特別で居たい。
それ以外は何も望まない。オレは、お前の
特別な存在でありたい。
「おいキッド、いい加減にしやがれ!」
『ケケケッ、いいじゃねぇか名探偵!』
こんな他愛ない話が出来ることが、オレは何よりも嬉しくて、幸せに感じていた。
ただの犯罪者だけど、名探偵と話せることが、
オレは何よりも嬉しかった。
でも、犯罪が決していいとは思ってない。
盗みをし続けて、名探偵も警部もきっと呆れてるだろうなって事くらい分かってる。
それでも、オレが名探偵と対等に出会えるのは、
オレがキッドの時だけなんだ。
「おめー、いい加減足洗えよ」
名探偵はオレの目を見てそんなことを言う。
オレだって考えてる。こんなこと辞められたなら、どれだけ楽なんだろうなってさ。
でも、辞められないから続けてるんだ。別にオレは名探偵に分かってもらいたいとか、そんな気持ちは無いけど、それでもやっぱり、苦しいんだ。
『悪ぃけど、オレは足は洗わねぇぜ。 まだやるべき事が残ってるからな』
そう言ってオレは、名探偵に偽りの笑みを向けて去るしかできない。
でも、それでよかった。命の石《パンドラ》を
見つけるなんて、夢の話かもしれねぇけど、いくら辛くても、名探偵はオレの為に来てくれる。
オレのために、必死になって追いかけてくれる。そんな姿がどうしようも無いくらいかっこよくて、好きになっちまう……。
『名探偵って、やっぱかっこいいよな?』
「ハァ?何言ってんだおめー……」
名探偵は自覚してないんだろうけどさ、やっぱかっこいいんだよ、おめーは……。
自覚しろなんて言わないけどさ……。ていうか、自覚なんてしないで欲しいくらいだしさ。もし
名探偵が自覚しちゃったら、他の人に取られちまう気がするんだよな……。
だから、オレはお前に自覚して欲しくないって思うんだ。
『まぁ、名探偵はオレだけの名探偵で居てくれよな❤︎』
「おめー気持ち悪ぃこと言ってんなよ……」
名探偵はオレの言ってることを間に受けてくれないんだろうけどさ、オレは本気なんだぜ?
『オレのこと、捕まえてくれよ?❤︎』
オレはお前に捕まりたい。お前に捕まって、そのままお前と永遠の時を過ごしたい。
「捕まえてやってもいいぜ?ただし、足洗えよ」
やっぱり名探偵ってそういう所あるよなぁ。
やっぱ犯罪者を捕まえるってことしか頭にねぇのかな……。オレだって、普通の高校生なんだぜ?
名探偵と同い年の、”普通の”高校生だったんだぜ?誰もオレの私情を知ろうとせず、皆がオレを敵だって言ってくる……。
「お前、自分の話しねぇくせに文句言うなよな」
じゃあさ、言ったら助けてくれんの?言ったら、なんかしてくれんの?オレのために命の石《パンドラ》を見つけて、オレのために壊してくれんの?
『変な期待させんなって……』
そうだよ、期待なんてさせんなよ。お前、探偵だろ?探偵が犯罪者に変な期待させんなよ……。
どうせお前はオレを捕まえるために居るんだろ?お前はオレを追ってくれる存在かもしれねぇけど、そうじゃねぇんだよ……。
オレは……月明かりの下だけでしか会えないのが嫌なんだ……。陽の光の下でも、お前に会いたいんだ……。
「期待したいなら、させてやるよ。お前が全部話してくれるんだったらな」
名探偵はオレにそんな言葉をかける。けど、期待しちゃいけない言葉なんだろ……?
期待したら……後悔しちまう言葉なんだろ?なら、そんな言葉かけないでくれよ……。
オレはお前の特別で居たい。でも、甘い言葉に誘われて騙されるのは嫌なんだよ……。
「オレはお前を騙したりしねぇよ 」
騙さない?お前が、犯罪者のオレを?
何言ってんだ?騙さないわけないだろ?だって、探偵は犯罪者を捕まえるために居るんだろ?
じゃあ、騙すしかないだろ……?
「お前が普通じゃねぇことはよくわかってる」
「お前が怪盗を続ける理由を知ってるわけじゃねぇけど、お前は悪いやつじゃねぇ。そうだろ?」
なんだよ、その言葉…………。オレを油断させようとしてんの……?そんな言葉、ずるいだろ……。そんな言葉かけられたら…誰でも油断しちまうだろ……。
みんながみんなオレを悪者扱いする世界で、そんな言葉言われたら…ポーカーフェイスどころじゃ無くなっちまうじゃん……。
「ハハッ、顔崩れてんなw」
『ッ………笑い事じゃねぇぞッ……』
「わぁってるよw」
お前だけだよ…オレにそんな顔してくれんのは。
お前だけが、オレに笑って話してくれる…。
どれだけ後ろ指をさされていても、どれだけ他のやつから傷つけられようと……
お前だけが、オレの気持ちに寄り添ってくれる。
「たまには、休んでもいいんじゃねぇの?」
なんだよ、探偵のくせに……。これじゃあお前、共犯者みたいじゃねぇか……。
「お前が辛いなら、話せよ。聞いてやるからさ」
「泣きたい時は、泣いていいんだぜ。変に我慢してっと、苦しいだけじゃ済まねぇぞ?」
泣きたい時に泣くって、それが犯罪者に言う言葉かよ……。
やっぱりこいつは、変なやつだ……。だけど、お前が変だからこそ、オレはお前の特別になりたいと思ったんだ。
お前が変であってくれるから、オレはお前に惹かれた。何もかもが欲しくて、知りたくなって、お前の痛みを分かち合えたならって、何度も思うほどだ。でも今は、お前が背負う必要のない痛みを請け負おうとしてるのか……。
「お前頑固だからなぁ、簡単に話してくれなさそうだけどさ、守らせろよな」
『守るって、なんだよッ……探偵のくせにッ…』
「ハハッ、いいじゃねぇか!守りたくて守るんだからさ!」
名探偵は笑ってそんなことを言う。何でそこまで優しくするのか、マジでわかんねぇけど、嬉しくねぇわけじゃねぇんだ。
お前の言葉は、まるで親父みてぇな温もりがあるんだ。優しくて、暖かい……そんな温もりがある。だからこそ、ポーカーフェイスが崩れちまうんだ。
「…………よく、一人で頑張ったな」
「偉いな、キッド…………」
そう言って名探偵は俺を抱きしめてくれた。決して顔を見ようとせず、ただオレを抱きしめてくれた。その温もりが嬉しくて、オレは涙が止まらなかった。もう感じることの出来ないと思っていた温もりが、今この身で感じられているその喜びが湧き上がる感覚……。
『ッ………キッドなんてッ…呼ぶなよッ…』
不意に、そんな言葉が出ていた。
「じゃあ、なんて呼ばれたいんだ?こそ泥か?」
名探偵は酷い。優しいくせに、冷たくて、言葉の一つ一つが刺さるみたいに痛い時がある。
でも、それでいいんだ。それが、オレが愛する名探偵だから……。
『”快斗”ってッ…呼んでくれよッ……』
「ん、わぁったよ…快斗」
名探偵は、オレを抱き寄せて優しく背中を撫でてくれた。自分の子供をあやすみたいに、優しく、温もりがある手つきで撫でてくれた……。
名探偵だって辛いはずだ。ガキの体になってた時も、元の姿に戻った今も、どっちも辛いはずだ。
ガキの時は不便なことばっかで、元の姿だと人目があったりで、辛いことばっかりのはずなのに。
なのに名探偵は、そんな事ないみたいに振舞ってくれる……。
「ここじゃ冷えちまうし、帰ろうぜ」
”帰ろう”
名探偵はそう言ってくれた。オレとお前は赤の他人なのに、お前は帰ろうと言ってくれる。
帰ろうと言って、手を差し出してくれる。オレは、お前の優しさをよく知ってる。だからオレは、お前の特別でありたいと思った。
「おめーがオレの中で特別じゃなかったら、こんなこと言ってねぇからな?」
あぁ、そーいう所だよ……。そうやってオレに優しくしてくれるから、好きになったんだよ…。
もし、オレが怪盗キッドじゃなかったとしたら、お前はオレと出会ってくれなかったのかな。
オレがマジシャンを憧れてなかったとしたら、名探偵はこんなに優しくしてくれなかったのかな。
名探偵が優しくしてくれるのには、色んな縁があるんだろうなって実感した。
「帰ろうぜ、快斗」
優しく暖かい声に、オレは安心した。
自然と涙が溢れて、言いたいことが言えるようになって、素直になれるのは、間違いなくお前のおかげなんだろうな。
そんなこと、考えなくても実感できてる。お前が居てくれるから、オレはオレで居られるんだ。
そう思いながら、オレはお前の手を取った。今までも、これからも、お前の特別でありたいから……。
ーFinー