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ナッキの声に答えてランプが差し出して皆に見せ付けたのは、両方の巨大化した鋏(はさみ)の表面に蠢(うごめ)く白い線虫の如きウネウネした虫達であった。
良く目を凝らしてみれば、ザリガニの大きな頭と胴体部の接合箇所、水棲生物特有の鰓(えら)の間からもワラワラと湧き出てきた白いヤツラは皆同様にウネウネし続けている線虫の様である。
ランプはにこやかに言葉を続ける。
「この子達って揃って魔獣化したみたいなんですけどね? ヒルミミズなんですよぉ! この子達をハサミに留まらせておけばハサミが巨大化しましてね! 鰓周辺に留まらせれば体自体が大きく変化するっ! 我々ニホンザリガニはその法則を見つけ出してここまで大きく成長した、そう言う事なのですよぉ! ナッキ様、ナガチカさんっ! コレって使えませんかねぇ?」
なるほど、出会った時から何と無く、魚や蛙たちより進んだ生命体として感じていたザリガニの優位性はこの辺りに有った様である。
確かに、ザリガニの体に寄生するヒルミミズは宿主たるザリガニの成長を促進する事で知られてはいるが……
鰓(えら)も鋏(はさみ)も持たないヘロン達がどう使えば良いと言うのだろうか?
私同様、ナッキが首を捻っていると、助け舟のつもりだろうかナガチカがランプに言う。
「哺乳類の私が試してみようか? その、ヒルミミズだっけか、飲み込めば良いのかい?」
「飲み込むと言っても消化器官じゃこの子達直ぐ死んじゃうと思うんで、気管の方に吸い込めば良いんじゃないですかね? たぶん…… ほら鰓と肺って似てるじゃないですか? はい、どうぞ」
「き、気管に…… ええいっ、男は度胸っ! ままよっ! すうぅ~、ぐっ、グホンッグホンッグホォッ!」
ナガチカは盛大に咽(むせ)ている、そうなる事位少し考えれば判るだろうに…… 父はこんなに馬鹿だっただろうか?
顔を真っ赤にして咳き込んでいたナガチカだったが、暫(しばら)くすると少し落ち着いたらしく、目尻を潤ませたままで何故か嬉しそうな声でナッキに言う。
「ゴホッ! ど、どうですかねナッキ殿、私大きくなりましたか? ふふふ百八十越えたかな? ゴホゴホッ!」
コンプレックスが思った以上だったらしい……
キラキラした瞳で自身を見つめているナガチカにナッキは答える。
「いや体は全然変わらないよ、殆(ほとん)ど咳き込んで出しちゃっただろうしね、でも僕の中でナガチカの存在感って言うか、何事にも体当たりでチャレンジする姿勢、それに対する評価は随分大きくなったよ」
「そ、そうですか…… ワンチャンあるかと思ったのですが、残念です、ゴホゴホ……」
う、うん、まあ、親も人間だもんね、自分の理想通りって訳にも行かないよね……
親ガチャ外れたぁ、とか言うけど、親からしたらそんな事口にした時点で子ガチャ大外れだもんねぇ。
過度の期待は失望の元、当然だが親と同じレベルの子供が産まれるんだ、立派な親からは駄目駄目君は生まれるはず無いし、逆もまた然(しか)りだろう。
遺伝ってあるんだからね……
父の残念な感じは、私自身がもっと頑張る為の道標(みちしるべ)として胸の奥に刻んで受け入れるとするか。
まあ、奥も何もスカスカなんだけどね。
そんな風に私、観察者が自分のドグマと向き合っている間に、ナッキは現実としっかり向き合っていた様で呟きを漏らす。
「うーん、上手く行かないねぇー、巨大化とか魔獣化、悪魔化は難しそうだけどぉ、鳥達が石化で死んじゃう事だけでも回避出来れば良いんだけどなぁー、そんなに都合良く行かないかぁー、うーん……」
なるほど……
軽い感じで新たな仲間を次々と王国に迎え入れて来たナッキではあるが、受け入れた瞬間に仲間として認め屈託無く、所か、直ぐさま長年の友人の如く接して来た姿は、私もずっと目にして来た。
これこそが王の資質、と言う物では無いだろうか?
奇しくもメダカ達の先見の明が明らかになったのでは無いかと思える。
出会った瞬間にナッキを王に抱いた眼力は、流石に巨大な瞳を持つ文字通りの慧眼(けいがん)ゆえ、では無かろうか? メダカだけにね。