<瞳>
松本ふみ子は凌太のストーカーだった。
証拠を集めようとして・・・って、つい最近も聞いたセリフだ。
正人の不倫から私には随分と色々ある。
大殺界なのか天中殺なのか
単に正人の愛人である小野寺美優が疫病神なのか。
宇座の事でもいっぱいいっぱいなのにまた警察とかもう嫌だ。
Ryoの証言とボイスレコーダーがあれば監視カメラとかを調べて松本ふみ子が何をしようとしたかわかると思うけど、凌太が松本ふみ子とその両親と話をすると言っているから、それでちゃんと決着をつけてくれるのならそれでいい。
「Ryoさんは?」
「異母弟だ」
凌太の父親が長いこと不倫をしていたことは聞いていたが子供がいることは聞いていなかった。
「あいつが家に来たから俺は家を出たんだ」
学生時代のあの引っ越しはこういうことだったんだ。
「親父は俺の学校行事に来たことは無いが、あいつの為には行っていた。あいつは親父に愛されていて、俺は愛されなかった。だからあいつの話をすると俺が愛されていなかったことを認めるようで悔しくて惨めで言えなかった」
思わず俯く凌太を抱きしめた。
「辛かったね」
凌太は何も言わず、私が背中をポンポンと叩くと抱きしめ返してきた。
「俺のせいでゴメンな」
「本当」
きっともっと穏やかに過ごせる選択肢はあると思う。
だけど、私は凌太といる事を選んだんだ。
しばらくするとモニターフォンが鳴り凌太は相手を確認するとオートロックの解除をした。
「レコーダーを貸してくれ」
そう言われて手渡すと凌太はモバイルパソコンにコピーを始めたとき、チャイムがなり玄関に歩いて行った。
玄関先で少し話をしたあと、凌太は片手にスマホを持って「交換していたスマホだ」と言って見せてくれた。
GPSの画面を見せてもらうと凌太の実家からそれほど離れていない場所にマークがあった。
そう言えば、あの綺麗な庭の家って凌太の実家だったんだ。
そしてふと思い出した。
写真に写り込んでいた年配の女性。
一度だけあの家に行った時に出迎えてくれた人だ。だから見覚えがあったんだ。
凌太が「あの探偵」と言って電話をかけはじめる。
あの探偵とは美優の素性を特定してくれた人で凌太の知り合いだと言っていた。
電話を切ってから画面を見ている凌太が「驚いたな」と呟いたので何だろうと凌太の顔を見ると私の疑問に答えるように画面を見せてくれた。
「松本ふみ子の実家は俺の実家から近かった」
画面には地図が表示されていて、GPSのマークの場所とほぼ同じ所だ。
高校の時から好きだと言っていたから、その頃も凌太の家の近くに行っていたのかもしれない。
「今から松本ふみ子の家に行ってくる。帰るなら駅まで送る」
そう言う凌太が何となく子犬に見えて出迎えてあげたいと思った。
「凌太が帰ってくるまで待ってる。深夜でも朝までも待ってるからしっかり終わらせてきて」
「ありがとう」
私はスマホを取り出すとロックを解除して凌太に差し出した。
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