「大丈夫。でも、命をかけてでも助けたい大切な人たちなの…」
「そんな事なら尚更、許す訳にはいかないだろ」
「パパ…お願い! 私が助けに行かないと、その人たちの生死に関わるの…」
「・・・・・」
「お願い!」
遥香は手を合わせてお願いをしていた。
「本当に大丈夫なんだろうな?」
「いいの?」
「駄目って言った所で、止めるような性格じゃないだろ。ママとソックリだからな…」
「パパ…。絶対無事に戻るから」
「本当に気を付けなさい…パパにとって遥香は命よりも大切なんだからな」
「パパ…」
遥香は僕に抱きつくと、しばらくの間しがみついて放そうとしなかった。
「遥香、頑張りなさい」
「はいっ」
誰を助けに行くのかわからないけど、遥香は葵のように能力者としての使命を果たそうとしていた。
能力者の顔になっていた。
「それとね…今日の18時に会わせたい人がいるの」
「男か?」
「違うって。前に話した事があったと思うけど、小学生の時ピアノ教室で知り合って今でもお世話になっているお姉ちゃん…」
「そうか…それまでには帰って来れるんだろうな?」
「うん。もし間に合わなくても、美咲ちゃんにも言ってあるから大丈夫だよ。それと…今日のお礼に私からのちょっとしたプレゼントがあるの。後でどんな味だったか教えてね」
「あぁ…わかった」
それから下駄箱で遥香と別れて家に帰った。
玄関を開けると美咲さんの靴があった。
「ただいまぁ」
「おかえりなさい。何処か出かけてたの?」
買い物から帰って来ていた美咲さんは玄関まで出迎えてくれた。
「遥香に忘れ物を届けに学校まで行ってきました」
「そうなんだ…。紺野くん、コーヒー飲む?」
「えぇ、すいません」
「直ぐに用意するから、テレビでも観ていて」
ソファーに腰掛け、しばらくテレビを観ていると、美咲さんがコーヒーを持ってリビングにやって来た。
そして、いつものように僕の隣に座るとコーヒーカップの取っ手を僕に向けて手渡してくれた。
美咲さんは僕が受け取ると、美味しそうにコーヒーを飲み始めた。
40歳を越えているというのに、その横顔は色っぽく、またどこか幼さが残っていた。
「どうしたの?」
「いっ‥いえっ…相変わらず美味しそうに飲むなぁって思ってた所です」
知らぬ間に美咲さんの横顔に見とれてしまっていた。
葵がいなくなり、いつもどんな時も一緒にいてくれた美咲さんに僕は安心感を抱いていた。
いや…惹かれていった。
でも、それは駄目だと自分に言い聞かせてきた。
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