葵に申し訳ないと思っていた。
それに、いくら僕が美咲さんに想いを寄せていても、美咲さんが僕をどう思っているのかはわからない…。
「紺野くん、飲んで」
「はい…いただきます」
僕は、コーヒーをひと口飲んだ。
「うまっ」
相変わらず、僕好みの砂糖とミルクの絶妙なバランスだった。
「良かったぁ」
すると美咲さんは意識的にやってるのかどうかわからないけど、座っている僕との距離を縮めて密着してきた。
ドキッとした…‥
いつもそうだった…‥
僕の想いを何も知らない美咲さんの言動に、いつも惑わされていた。
そして僕の心はいつも揺れ動いた。
「これインスタっ‥」
「いつも言ってるけど、これインスタントコーヒーだよ」
「そうなの?」
「そうよ…」
美咲さんとの距離感が恥ずかしくて、それを悟られたくないから、どうでもいい話題でごまかした。
「遥香から聞いたんだけど、今日の18時に遥香の知り合いが来るそうですね?」
「彼女は、は~ちゃんの友達というか、先生というか、特別な存在なの。だからご馳走イッパイ作るから楽しみにしてて」
「はい…。でも、先生ってどういう事?」
「う~ん、そうだなぁ…。勉強の事とかピアノの弾き方とか、能力の使い方とか…色々教えてもらってるの」
美咲さんは僕の顔色をうかがいながら、そう言った。
「能力の使い方? その人は能力者なんですか?」
「えぇ…。彼女がいたから、は~ちゃんは今まで何も問題を起こす事も事件や事故や問題に巻き込まれる事もなく普通の生活を送ってこれたの」
「そんな人がいる事をどうして今まで黙ってたんですか?」
「黙ってた訳じゃないの。このマンションに引っ越して来る前は、は~ちゃんに会いにしょっちゅうアパートに来てくれてたんだよ。紺野くんが帰宅する前には帰っちゃったから会えずじまいになっちゃったけど…」
「そうかもしれないけど、そんな人がいるなら教えてくれればいいのに。それに来るなら来るって言ってよ。そうすりゃ、都合をつけて帰って来たのに」
「ごめんなさい…」
「ごめんじゃないよ」
「そうだね…ごめんなさい」
僕の喧嘩ごしの態度にも美咲さんは怒る事なく優しく受け止めてくれた。
いつもそうだ…‥
ずっとそうだった…‥
美咲さんは17年という、とてつもなく長い歳月を文句1つ言う事なく、僕と遥香の為に費やしてくれた。
笑顔でいてくれた。
優しく僕らを包んでいてくれた。
自分の幸せと引き換えに僕らを幸せにしてくれた。
僕らと一緒にいなければ、美咲さんは自分の人生を自分の為に使い、幸せを掴む事も出来たはずなのに…。
それなのに僕らと生きて行く道を選んでしまった。
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