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3 - 第3話 今夜、俺の隣で寝ろ

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2025年05月13日

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喬葵は部屋の真ん中に立ったまま、思わず一か月ぶりのその空間を見回していた。


霍震庭は普段から多忙を極めている。家を継いで以来、その忙しさはさらに増していた。喬葵が京城の女学校に通うようになってから、二人が顔を合わせる機会は、決して多くはなかった。


霍震庭の部屋は広々としていた。扉を入ってすぐのところに、梨花木の椅子が二脚、その間に一つの小卓。どれも装飾用で、日常的にはほとんど使われていない。


床には厚手の絨毯が敷かれていた。聞くところによれば、遥か波斯から取り寄せたものらしい。右側にはやや低めの文机があり、ときおり霍震庭がそこで事務を執っていた。


窓辺には高脚の椅子が二脚、そこには今ちょうど盛りに咲く木蘭の鉢が置かれていた。


左手には大きな四柱の拔步床が据えられており、その上には柔らかそうな敷物が重ねられている。喬葵が来るときには、よくここに腰掛けて霍震庭と話をしたものだ。


その手前には円形の茶卓があり、上には精巧な茶器が並べられている。四脚の円凳が均等に配置され、整った佇まいを見せていた。


窓辺にも、先ほどと同じく木蘭の鉢植えが二つ置かれている。


部屋の奥、重厚な実木のダブルベッドが静かに鎮座し、その前には脚台もあった。どちらもふかふかの敷物に覆われ、落ち着いた気品を湛えていた。


視線をめぐらせていたその時、奥の盥洗室(せんめんしつ)から水音と共に足音が聞こえ、喬葵は反射的にそちらへ目を向けた。


そして、ちょうど出てきた霍震庭と目が合った。


霍震庭の髪からはまだ僅かに水滴が滴り、身には輸入物のバスローブを羽織っていた。結実した筋肉質の胸元が覗き、色気と威圧感が同居している。


一ヶ月ぶりの対面に、喬葵の胸がひときわ高鳴った。


霍震庭もまた、じっと彼女を見つめていた。制服姿の少女。藍色の布地で仕立てられたチャイナ風の短上着。小さな手首が少し覗いている。


立ち襟のチャイナボタンが、小ぶりで精緻な顔立ちを引き立てている。両側に結った三つ編みには空色のリボンが結ばれ、毛先には新式の髪留めが施されていた。


膝下まである黒いスカート。今まさに部屋の中央に立つその姿は、まるで森の奥へ迷い込んだ子鹿のように可憐で、生き生きとしていた。


じっと、霍震庭を見上げていた。


「――おいで。」


霍震庭が低く笑みを浮かべながら言った。


喬葵の心臓は鳴りやまず、彼の方へ一歩一歩近づいていく。


霍震庭は彼女の細い腰に手を回し、やわらかな身体をぐっと自分の胸元へ引き寄せた。


懐かしい香りが、鼻腔にふわりと広がる。


南方での滞在中、彼女のことを何度思い出しただろうか。音沙汰ひとつない日々。元気にしているのか、それさえも分からなかった。


だからこそ、商談がまとまった瞬間、すぐに戻ってきた。今、ようやくこの腕の中に帰ってきた。


彼女の頬に手を添え、優しくその顔を見つめる。


喬葵はじっと霍震庭を見上げていた。この世で、彼以上に美しい人を彼女は知らなかった。


鋭さと整った線を併せ持つその顔。髪は洗い立てで、普段よりわずかに柔らかく見える。白い肌、通った鼻筋、引き締まった唇。どこをとっても完璧で、目を離すことができなかった。


霍震庭の親指が、彼女の滑らかな頬をそっとなぞる。


大きな瞳は真珠のように澄んで、長くカールした睫毛が瞬くたびにその瞳をより鮮やかに映し出す。見つめられているだけで、彼の胸を掻き乱す。


小さく整った鼻先、そしてうっすら紅く色づいた唇。まるで小狐のように艶やかで、何をしなくても彼を惹きつけてやまない。


(自分は小狐なんかじゃない。ただの静かで素直な女の子なのに――)


そう思っても、霍震庭の目にはそう映っているのだろう。


「どうした? 俺の顔見て、何も言わないのか?」


霍震庭が囁くように問いかけた。


喬葵の背丈は低くない。だが、彼の腕に包まれると、小さく、華奢に見えた。


彼の肌からは、入浴後の石鹸の香りと、いつもの淡い蘭のような香りが混ざっていた。そして、その体温は、驚くほど熱を帯びていた。


「……いつ戻ったの?」


ようやく言葉が出た喬葵の声に、霍震庭は思わず笑みをこぼす。


「俺がいつ戻るか、知らなかったのか?」


そう言いながら、彼は彼女の額にそっと額を重ねた。吐息が頬にかかり、喬葵の顔はさらに赤くなる。


(……ばか。)


「南方は……順調だった?」


霍叔に訊いたのと同じ言葉を、今度は彼本人に向けて口にした。


それがまた霍震庭の笑いを誘った。


この小さな娘は、昔から人の心をくすぐるのがうまい。


「まだ嫁にも来てないのに、もうそんなに俺を気にかけてくれるのか?」


その一言に、喬葵の顔は真っ赤に染まり、怒ったように彼の胸から離れようともがいた。


けれど霍震庭は、その腕を離さず、暴れる彼女をぎゅっと抱きしめて、真っ赤な頬に口づけた。


頬から鼻先へ、そしてうっすら閉じた瞳、額へ。再び目元に降りて、鼻、唇へと――霍震庭の口づけは、丁寧に、愛おしげに降り注がれていった。

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