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8 - 【 無意識 】

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2025年07月12日

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【 無意識 】



「ただいまー…」


返事は帰ってこず、家の中には僕の声が響いただけ。そりゃそうだよね。もう深夜三時過ぎだし、僕の恋人は超朝型なんだから。仕事着を適当に脱いで、ササっとシャワーを浴びて、ふらついた足で寝室まで歩く。きっと今頃夢の中であろう恋人を起こさぬよう、音は立てないようにそーっとね。


「…ただいま、蒼井。…って、」


そこにはすやすや心地よさそうに眠る恋人…と、その恋人を抱えるように抱き着く大きなぬいぐるみ。一瞬浮気かと思った。大きいし。でもまあ、僕の恋人がそんなことするわけないよね、うん。それはそれとして。

……かわいい、な。

うん。かわいい。もうとっくに成人してるのに、ぬいぐるみに抱き着いて眠っているなんて。なかなかないぞ。即座に明るさの下げられたスマホを取り出し、無音カメラを起動させて数枚写真を撮る。明日見せて揶揄ってあげよう。……そういえば、ものすごく今更だけど。普段、僕が一緒に寝ようっていっても拒否されるのに、このぬいぐるみはいいんだ。ふーん。そう考えるとなんか複雑だなあ。


「……えいっ」

「んん……」


蒼井を抱え込んでいたぬいぐるみを抜き取る。ぬいぐるみを取られた蒼井は少し身じろいで、行き場のなくなった腕をもぞもぞと動かしている。このぬいぐるみを探しているのだろうか。駄目だよ、その場所は恋人である僕のでしょ。ぬいぐるみはソファに寝かせてから、蒼井の腕を少し浮かして間に潜り込み、蒼井を抱え込む。ぬいぐるみを見つけたと思ったのか、蒼井は僕の背中に手を回してぎゅうっと抱き着いてくる。こんないい思いしてたのかあのぬいぐるみ。僕には頼んだってハグなんかしてくれないのに!


「あーおーい」

「ぅ……」


頬に手を滑らせると、蒼井は眉をひそめて唸った。ねえ、そんなに僕に触られるの嫌なの?そんなあからさまに嫌な顔しないでよ。傷付くよ、ねえ。…はあ、寝てる人にこんなんしたってしょうがないんだけどさ。もう疲れちゃったし、早く寝よ。目を閉じて、とっとと眠ってしまおうとした、その時。


「かい、ちょう、」

「えっ」


ぽつり、と蒼井が僕を呼んで、僕にすり寄ってくる。起こしてしまったのかと思ったが、どうやらそうではないらしく、心地よさそうにすやすやと眠っている。その一方で、僕は大混乱していた。それはもう、蒼井が心臓の音だけで起きちゃうんじゃないかと思うくらい。もしかして、あのぬいぐるみ。僕だと思って一緒に寝てたのかな。そうだったらうれしいなあ。


「ふふ、ふふふっ。」


ああ、にやけがとまらないなあ。今の顔見られたらきっと気持ち悪いって言われるんだろうな。でもいいや、今は何言われても。ふふ、録音しておけばよかった。きゅうっと腕の力を強めて、瞼を落とす。今日は幸せな夢が見られるだろうな。



翌朝。


「…う、かいちょう、源会長!!」

「んぅ、あとごふん……」


まだぜんぜんねむい。まぶたおもすぎる。おきられない…。


「寝るのはいいですけど、せめて離れてください!僕が起きれないだろ!!」


おきれない、はなれる。なんのこと?うう、声が大きいよ、あたまにひびく……。


「ああっ、もう!いいからはーなーせー!!」


…めっちゃ押してくる。そんなに?重たい瞼をなんとかこじ開ける。すると、目の前には。


「あっ、やっと目開いた!離してください、どうしてこんなことになってるんですか!」


というか、寝てたにしては力強すぎなんですけど!!と蒼井がカンカンに怒りながら、僕の腕の中に収まっていた。というより、収められていた。なんでこんなことになってるんだったか。……ああ、思い出した。


「かわいいね、蒼井。」

「はあ?いいから離せこの馬鹿力!!」

「やだよ。蒼井今日は休みでしょ?このままここでゆっくりしようよ。」

「それこそ嫌です。というか、僕の抱き枕は?!どこやったんです!!」

「ああー……」


ちらりとソファに寝そべっているぬいぐるみを見やる。ふふん、いいでしょ。やっぱりこの位置には僕がいるべきだよね。


「ね、蒼井。今度からはあんなぬいぐるみじゃなくて僕と寝ようよ。」

「は??嫌です」

「ぬいぐるみはいいのに、僕は駄目なの?なんで?」

「う…。ああもう、わかりましたよ。その代わり、絶対今日みたく強くしないでくださいね!絶対ですよ!」

「…うん、善処するね。」

「おい!!」


これからは、ここはずうっと僕の場所。



【 おわり 】

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