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瞼が重い、身体が重い。
こんな感覚は初めてじゃない、いつの頃からか、こんな痛みは常に抱えていた。
痛み、苦しみ、倦怠感……そんな中で、いつもとは違う感覚がある。
「…?」
重い瞼を開けてみれば車の中で座っていたことに気付く。
顔を上げるといつもの通学路が視界に写る、そこで車の助手席に座っていることを自覚した。
「あ、お嬢様。起きたのですね」
隣の運転席にはアリヤが座っている。
アリヤ18歳、車の免許持ちというハイスペック。
「とりあえず現状説明ですね。
お嬢様が倒れて30分ほど経ちました。その間に車に乗せて今帰宅中です」
「…っ」
次いで、後部座席に座る二人の威圧が背筋に走る。
いいや、威圧するつもりはないのだろう。そこにいて、緊張と強烈な感情を抱いているだけなのだろう。
しかし獅子を前に猫が萎縮するように、ただそこにいるだけでその強大さに威圧を覚えてしまうのだ。
「む、すまない」
「これは失礼しました」
ふっ、と圧が消える。
「それで?? 続きを聞こうか。
私の耳には娘さんをください、だのとふざけた戯言が聞こえたのだが……
すまないな、耳が悪くなっているようで聞き間違いをしてしまった」
「ははは、足りないのは耳ではなく理解力と心の方だと思いますよ。
なので行くのなら耳鼻科はよした方が良いと思います」
「あはははは。羽山さん車を止めてください。
私たちは少し歩いて帰るとします」
火花が散っている。というより殺意と殺意の応酬が巻き起こっていた。
耐え切れず無言で前を向く。
「…………」
「…………あ、車停めるので揺れますよ。お嬢様」
「あ、うん……」
後ろで圧迫面接。前の席に座る二人はその気まづすぎる状況に冷や汗をだーだー掻いていた。
「アリヤ、これ…は?」
「…………娘さんをください、みたいなの…です」
車を降りる二人。危険な雰囲気しかない。
「…あ……そう……」
アラカは考えるのを止めた。
「(今回の件……どうすればよかったのだろう)」
後ろでアラカください話から似合う服の話になり始めてる二人を放置して、アラカは外を見上げた。
車の窓から見える世界は、一歩だけ遠くに見えた。
「(僕が間違いなくあの黒い塊を恐怖している。
気持ち悪いと思い、視界に入れることすら叶わない。
————どうして?)」
停滞は敵であり滅ぼすべき悪だ。
ゆえに殺し尽くさねば気が済まないし、そしてそれを賞賛する奴は全員死ねばいいとさえ思う。
「(アレらに過去、酷いことをされたから?
それとも……僕の心に、何かが不足しているから…?)」
不足しているのならば足さなければならない。
「(アレは……恐ろしかった。
怖かった、頭がどうにかなりそうだった)」
まずは分析から始め、何が不足しているのかを考える。
車窓をその繊細な指で触れ、少しだけ暗い外の世界を眺める。眺めた世界は、少しだけ遠く、少しだけ不快感が少なかった。
「(……もう少し、そう、もう少しだけ。
この車窓のように、少しだけ離れた場所で世界を眺めることができるなら、あるいは……)」
そして脳裏で一つの答えが生まれる。
アラカの有する知識はその情報だけで意図も容易く解決策へと踏み出した。
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