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#1 赤いランプが回る場所で
商店街の外れに、古い交番がある。もう警官は常駐していないが、赤いランプだけは夜になると律儀に回る。その前で、私は久しぶりに彼女と再会した。
「会いたかったピーポー」
そう言って、ミオは手を振った。相変わらずだ。語尾に「ピーポー」をつける癖は、中学生の頃から変わっていない。救急車のサイレンが好きだとか、意味はないとか、いろいろ言っていたが、本当の理由を私は知らない。
「相変わらずだな」
「相変わらずって言われるの、嫌いじゃないピーポー」
ミオは笑う。私はその笑顔に、十年前の約束を思い出していた。
――大人になったら、この交番の前でまた会おう。
それは、彼女がこの町を出ていく前夜に交わした、他愛もない約束だった。私は残り、彼女は都会へ行った。連絡はいつの間にか途切れ、約束も記憶の奥に沈んでいた。
「ちゃんと来てくれたんだ」
「約束だからピーポー。忘れるわけないでしょ」
ミオはそう言ったあと、少しだけ真面目な顔になる。
「ねえ、覚えてる? 私がなんでピーポーって言ってたか」
「いや……正直、覚えてない」
彼女は交番の赤いランプを見上げた。
「この音が鳴るとね、誰かが誰かを助けに行ってるって思えたピーポー。怖いときもあるけど、約束みたいに必ず来てくれる音だった」
その言葉に、胸の奥が静かに鳴った気がした。
「だからさ、今日ここに来たのも、私なりのサイレンピーポー。約束を守りに来た音」
私は何も言えず、ただ頷いた。交番のランプがくるりと回る。赤い光が、過去と今をつないでいく。
「じゃあ、また会えるよな」
「もちろんピーポー。次は、約束を増やそう」
ミオはそう言って、今度は語尾にピーポーをつけなかった。それがなんだか、ひどく大切な沈黙のように思えた。