テラーノベル
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※実際の団体、個人とは無関係です。
※成人向けに準ずる表現があります。ご注意ください。
※その他、捏造した設定が多く含まれます。
※中華絵巻を参考元にしてます。
※※※ 閲覧には十分注意してください。
営業終わりの朝方、4時。
もう昼の営業もないので奏斗は寝る支度を整え、早々にベッドへ入っていた。
だが、頭の中は別れを告げてきたあの客のことばかりで到底眠れそうにない。
体の向きを変えたら窓の日除けの隙間から射し込む朝焼けが眩しくなった。
「な〜、奏斗ぉ。ちょっと聞いて」
布団へ逃げようとしていた奏斗を相部屋の雲雀が呼び留める。
不機嫌さを隠すことなく、むしろわざと不機嫌である事を前面に出しながら布団から顔を出した。
「なに。今寝るとこだったんだけど」
「ごめんて。……でも、どうしてもこれだけ話したくてさ。」
いつもなら軽くつつき合うぐらいだが、雲雀ははにかむばかりで俯いていた。
「真剣な話?」
「実はそうなんよ。」
顔を赤らめ、照れくさそうに笑う雲雀は今の奏斗からするととても幸せそうに見えた。
営業終わりの雲雀はいつもどこか沈んだ顔をしていたからこんな顔を見るのは久し振りだ。
「あんな、俺、明日ここ出てくんよ。」
「……そ、っか…おめでとう。」
「本当は誰にも言ったら駄目なんやけど、奏斗には言っときたくて。…内緒な?」
唇に人差し指を当てて、しーっと音を立てた。
雲雀までいなくなってしまうのか、そう考えたら取り繕えていた笑顔が保てなくなって奏斗の目からは涙が溢れ出していく。
「ちょぉっ、え〜、泣いてくれるん?奏斗ぉ〜…」
雲雀は泣き出した奏斗を抱き寄せて、背中を撫でさすってくれる。
子供をあやすような雲雀の声、近づいた体からは奏斗と同じ桃のような甘い匂いがする。けれど、自分とは少しだけ違う匂い。
口に含めばきっと幸せをいっぱい感じられると思わせるような甘い匂い。
ただ甘ったるいだけの奏斗とは違う匂い。
「おめでと、雲雀…。おめでとう…っ」
ー
ー
奏斗には親がいた。それこそ名のある家柄だったのだが没落してしまったのだ。
一体何があったのか、幼い奏斗に細かいことはわからなかった。
だが、気がついたら、ここへ連れてこられていた。
最初は桃ばかりの食事に飽きたり体調を崩すこともあった。
雲雀とはここへ来てからずっと相部屋で、気付けば隠れて馬鹿をやるような気の置けない仲になっていた。
物珍しさで桃娘と同じ扱いを受ける男児を買う客は多かった。
痛い日もあった。客からも店の人からも怒鳴られることなんて毎日だった。それでもここで生きるしかなかった。
そんな中でお互いに慰め合えて、たまに助けてくれた雲雀は家族も同然だ。
桃娘の行く末なんてたかが知れている。だけど、彼が幸せになってくれることを切に願ってしまう。
ー
ー
雲雀の出発は静かに行われた。
赤い服でめかし込んで、迎えに来た車に乗って、それでお終い。
奏斗は部屋の窓越しに雲雀を見送った。
車の乗口から見えた眼鏡の彼は、手を差し出して雲雀が車に乗るのを助けている。
それから、愛おしそうに抱きしめていた。
照れて笑う雲雀。
それ以上は見ていられなくて、奏斗は仕事の準備を始めた。
コメント
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あぁ、辛い…😭切ない… どうかkntが報われますように🥲 更新ありがとうございます🙇♀️ いつも楽しみにしております🙇♀️