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#勇者
みどりのとり
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特訓が始まって早2年――。
「はぁはぁ……も、もう限界だぁぁぁ!」
カイルは天井を仰ぎながら声をあげていた。
「なぁに甘えた事言ってるの?」
「そんな事、言ったてよ!」
「文句言わずにさっさと走る!」
「ひぃぃぃ!」
加速するカイルを横目に僕も重い足を前に出す。
「ははっよし!僕も負けていられないな……!」
その後も走り続けていると。
「ラスト一周!」
アリアの掛け声と同時に僕とカイルは視線を合わせ、最後の力を振り絞り駆けだした。
「「うぉおぉおおおおおおおおーーーー!」」
2人ほぼ同時にアリアの前を駆け抜けた。
「「はぁはぁ……どっち!!」」
「んんん……僅差でアレンね」
「だぁぁくそっ!負けたぁぁあ!」
大の字で寝転がるカイルの横で喜びを噛み締めていた。
「カイルには負けられないからな」
(それにしても、最初の頃に比べてだいぶ体力がついたし呼吸も楽だ。日々の訓練は確実に僕の力になっている……!)
それもそのはず、アリアの指導は徹底して基礎能力の向上から始まり、剣の握り方、立ち回りと駆け引き、受け流しの技術などアリアの持つ剣技のすべてを叩き込まれた。
「2人ともなかなか体力がついてきたようね……そろそろいい頃合いかしら」
彼女は突然木剣をこちらに向かって投げてきた。
「おっと」
「あでっ!痛つつ、ん?木剣….ってことは!」
ここ最近になって実践形式の戦闘訓練をするようになった。
「ふふっじゃあどこからでもいいわよ?」
構えもせず余裕の笑みを浮かべこちらを眺めているアリア。この訓練で僕たちは未だ一本どころか触れることすらできていない。
「よっしゃ!今回こそ一本とってやるぜ!」
先ほどとは打って変わって元気よく飛び起きたカイル。
「ああ、カイル作戦忘れてないよな」
「当たり前だ、行くぞアレン!」
駆け出す僕に合わせるようにカイルが詠唱を始める。
「さぁて、今日は一本取れるかしら?」
「烈火よ、爆ぜろ!【フレア・バースト】!これでも喰らえ!」
以前使っていたファイアボールとは魔力の密度が明らかに違う。より強力な炎となってアリアを襲う。
ドォォォォン!
爆煙が辺りを覆う。
「へぇー、魔力の制御が上手くなったわねカイル」
爆煙の上部からアリアが飛び出してきた。
しかし、着地地点を予測し駆け出していた僕は木剣を低く構え、猛然と踏み込んだ。
「はっ!」
「ふふ、甘いわね」
その瞬間――。
ドンッ!!
空気を裂くような轟音とともにアリアの上段からの一撃が振り注ぎ、まるで雷が落ちたかのような衝撃が全身を襲う。
「ぐっ!?」
腕が痺れ、受け流すことすらできない 。
(どうすれば……!)
すると、その一撃の重さに耐えきれなかったのか足元の地面が砕け体勢が崩れる。
「うわぁ!」
吹き飛ばされる体を翻し何とか木剣を地面に突き立て衝撃をいなす。
(くそっ……!今の一撃で腕が……!)
タタタッ
「っ!」
僕の体勢が整え切る前に距離を詰めていたアリア。
ブンッ
横薙ぎの攻撃を寸での所で後方へ飛び退き回避。
「今のよく避けたわね」
「伊達に師匠に鍛えられてないですからね」
ふと、アリアの後方に視線を送る。
(え?な、なんでカイルが倒れているんだ……!?)
「カイルが気になるのかしら?」
「……なにしたんですか師匠?」
今にも離れそうになる木剣を強く握りしめ呼吸を整える。
「ふふっ簡単な話よ?あなたを吹き飛ばしたあと、悪さをしようとしていたカイルを叩きに行ったの」
笑顔で言うアリアが恐ろしく感じた。
「はは、デタラメすぎる……」
すると、視線の先で腹部を押さえながら起き上がろうとするカイルが見えた。
「痛っててて、容赦なしかよ師匠! 」
「カイルあなたはそこで大人しくしていなさい、まだろくに動けないでしょ」
「くっそ……」
カイルは立ち上がれず片膝をついた状態で苦痛の表情を浮かべていた。
(師匠の言う通りまだ動けそうにないな……)
「さぁ、気を取り直していくわよ」
そう言った瞬間、アリアの姿が掻き消える。
「っ!?」
瞬く間に目の前に現れたアリアに驚きつつ、僕は後退りしそうになる体を前へと出す。
カンッ!
「ふふ、いい判断よアレン。でもこれはどうかしら?」
カンカンカンッ
無数の剣戟が襲いかかる。
「くっ!」
次第にアリアの剣速が早くなり次々と擦り傷が増えていく。
(このままじゃ、凌ぎきれない……!ここは一度距離を取ってーー)
ズンッ
「それじゃあ逃してあげないわよ」
「くっ」
僕の思惑を見抜いていたのか一気に距離を詰め、鍔迫り合いに持ち込んできた。
「おいおい、俺のことはそっちのけかよ!」
「あら、もう起きてきたのね」
横から切りかかったカイルの攻撃を避け一度距離を置いたアリア。
「大丈夫かアレン?」
「あぁ、カイルこそ大丈夫なの?」
「誰に言ってんだよ!」
呼吸を整えアリアの方を見る。未だ息一つ切らしていない。
僕は頬の血を拭い木剣を構え直す。
「ふぅ、さぁここからが本番だ!」
「そうだな!そんじゃ今度は2人がかりで行くぞ!」
「あぁ!」
「いいわ、来なさい!」
「「はぁぁあ!!」」
僕とカイルは一足飛びで切り掛かり、体術を絡めた隙のない入り乱れた攻撃でひたすら攻め続けた。
カンカンドンブンッ!
「ふふふ」
「くそっ避けんじゃね!」
「そういうなら当ててみなさい」
だが、アリアは難なく僕たちの攻撃をいなし涼しい表情をしていた。
「カイル!」
「あぁ!師匠、軽口叩けるのもこれまでだ!紅の霧よ、視界を奪え【パイロ・スモーク】!」
カイルが地面に手をついた瞬間、紅い霧がアリアを取り囲むように広がっていた。
「これはただの霧じゃねぇぜ、行くぞアレン!」
「あぁ!」
僕たちは瞬時に霧の中に身を隠しアリアの周囲を駆ける。
「ふふ……」
霧がじわじわと迫る中、 アリアが木剣を頭上に掲げた。
ブンッ!!
次の瞬間。
周囲を覆っていた魔法の霧がただの剣圧だけで瞬く間に吹き飛ばされた。
「おいおい、嘘だろ!?」
「ま、まさか魔法をあんな簡単に……!だが、カイル!」
「ああ、もう遅せぇ!」
僕たちは霧が晴れる直前、アリアを挟むように陣取り同時に切り掛かっていた。
(届く……!)
そう思った瞬間。
カカンッ!!
「「っ!?」」
アリアは一切動いてない、だが僕たちの木剣はなぜか同時に弾かれていた。
(重っ……!)
瞬間、のけぞった僕たちの腹部に重い一撃がはいる。
「うわぁ!」
「ぐっ!」
地面を擦りながら転がる。
(なんだ今の……!)
先ほどの木剣を弾いた攻撃。僕には一切認識することができなかった。
そんな事を考えていると、間髪入れず体勢の崩れたカイルを狙うアリア。
「くっ、やらせない!」
間に合わない――そう判断した瞬間、僕は咄嗟に横に転がっていた木剣を投げた。
ヒュンッ――!
「いい判断ね、でも…」
カン!
背後から迫る木剣を振り向きざま弾いたアリア。
一瞬の隙にカイルが手を翳し魔法を放とうとしていた。
「炎よ、閃光となれ!【フレイム・バレット】!!」
複数の火球がアリア目掛けて飛来する。
ババババババッ!!!
すると、アリアは迫る火球を高速の剣戟で打ち落としながら歩みを進めた。
(なっ!?木剣で火球を切っている!?)
「まだだぁ!うおぉぉぉぉおおお!!!」
さらに威力の増した火球が襲いかかる。
(今のうちに……!)
「カイルそろそろ魔力の限界じゃないかしら?」
「はぁはぁ……!限界?そんなもん俺には無ぇ!」
カイルがアリアを惹きつけている間に僕は足に力を込め空中の木剣に手を伸ばす。
ババババッババッババッバ….
「くっ……あとは頼んだぜ……」
カイルの魔力が尽きゆっくりと地面へと倒れた。
「ふぅ、次はあなたねアレン」
アリアが振り向きざま空中にいる僕を視界に捉える。
(カイル、任せとけ!)
「くらえぇぇぇぇえええ!!」
回転の延伸力を加えた全身全霊の一撃。
剣先が淡く輝きをみせる。
「っ!」
ドオォォォォオンッ!
すごい音と共に地面が砕け、土煙が巻き上がる。
「はぁはぁはぁ…..」
「やるわねアレン、まさか身体強化を使わされるなんて」
土煙の中からアリアの声が聞こえる。
(いったいどこに……!)
「ここよ」
「くっ!」
背後から声がし、咄嗟に切り掛かる。だが、剣は空を切るのみで手応えは何もない。
「動きが単調よ」
ドスッ!
「がはっ……!」
腹部に正拳突きを喰らい地面を転がりながら数メートル後方の壁に激突する。
「くっ……」
「今日はここまでね」
僕とカイルが戦闘不能になったのを確認したアリアは戦闘訓練の終了を告げた。
アリアの治療を受け回復した2人。
「2人共お疲れ様、結果から言うとあなた達の連携と戦闘技術は実戦でも通用するレベルに仕上がっているわ」
「え…..?本当ですか?」
「えぇ、ってなんでそんなにびっくりしているのよ?」
「だ、だって今まで一本すら取れていないんだぜ!今回だって!」
「はぁ」
深いため息をつき、呆れた表情でこちらを見つめるアリア。
「 よく考えてみなさい、ハンデがあったとしてもたった2年ちょっとで私に身体強化魔法を使わせたのよ?それが何を意味するのか、分かる?」
確かに、ここ2年で多くの人が口を揃えて言っていた。
『彼女が敵側に回れば国ですら降伏せざるおえない』
それ程に恐ろしいということ。
(そんな人に僕たちは……)
「……お、俺らもしかしてめちゃくちゃすごいことしたのか?」
「そ、そうかも……」
僕とカイルは目をパチクリさせ顔を見合わせていた。
「そうかもじゃなくて、そうなのよ!」
「……ま、まじかよ!おい!なぁ、え?これ現実か?アレン俺の頬つねってくれ!」
「う、うんわかった」
「いてて、しっかりいてぇっ……ってことは!よ、よっしゃぁぁぁああ!俺ら、なぁアレン!」
「あ、あぁ!そうだな僕らちゃんと強くなっているんだ!」
「ふふ、そんなに喜ばれるとなんだか複雑だわ、今度はもっと厳しくしようかしら?」
不敵な笑みで話すアリアに肝が冷える弟子2人。
「な!師匠それはあんまりですよ!」
「ふふっどうしようかしら?」
すると、アリアが少し悩んだあと口を開いた。
「ねぇアレンひとつ聞いてもいいかしら?」
「ん?はい」
「あなたが放ったあの一撃いったいどうやってやったの?」
(……確かに、あの一撃は今までのどんな一振りよりも重かった気がする、だけどどうやったかは僕にも分からない。ただあの時は夢中でーー)
僕が難しい顔をしているのを察してか、カイルが話に割って入ってきた。
「そんなもん決まってんだろ!今までの特訓の成果だろ!」
「そう、なのかな……?」
「あぁそうさ!そうに決まってるって!」
「……うんそうね!変なこと聞いてごめんなさい、少し見覚えのある技だったから」
その言葉が何を意味するのか少し気になりはしたが、僕達はその場を後にした。
「うめぇうめぇ!なんだこの肉!」
訓練で疲労困憊の僕たちは食堂で大量の肉を食べていた。
「何言ってんだいつも食べてるやつだろ!」
「あんた達はいつも美味しく食べてくれるから作り甲斐があるねぇ」
「カイル、お前頬張りすぎだろ!わっはははは!」
ギルドの食堂で食事を取っていたら、ゾロゾロと人が集まっていつも間にか大所帯になっていた。
「隙ありぃぃいいい!」
「もぐもぐ……あっ!それ僕の肉!」
「あ〜ん!ふっふっふここは戦の場だ!油断をしたやつから肉を奪われるのだ!がっははは!」
「なんだよそれ……って肉返せ!っわわ」
僕がカイルと肉の取り合いをしていると、突然誰かが背後から抱きついてきた。
「アレン〜?ちゃんと食べてるの〜?」
それは、頬を赤らめ酒を飲むアリアだった。
「僕は美味しく頂いてますよ、って師匠こそ顔真っ赤じゃないですか!」
「そういってやるなアレン、愛弟子達が成長して浮かれてんだこいつは!がっはははは!」
背後からジョッキを持ったグラムが僕の肩に手を置き豪快に笑う。
「そうなんですね、ははは!」
今日の出来事が相当嬉しかったのだろう。酒瓶片手にからみ酒をするアリアを眺め嬉しさを噛み締める。
「それにしてもマスター?なんで今日はこんなにも賑やかなんですか?」
グラムが眉をひそめ不思議そうに僕の顔を覗き込む。
「はぁ?そんなの決まってんだろ!お前達の成長を祝っての宴会だこりゃあ!」
「え?そうだったの?」
「あぁ!」
そんなグラムの背後から不穏な気配が近づいてきていた。
「マ・ス・ター!なに嘘ついてるんですか!」
「いでっ 」
勢いよくお盆でグラムの頭を叩いたのは受付嬢のリズベットだ。
「痛ぇじゃねぇかリズ!お前、アレン達の成長が嬉しくねぇのか?」
「う、嬉しいにきまってます!……アレン、今日も頑張ったのね、偉いわ!毎日あなた達の成長を聞くたびにみんなで話しているの」
リズベットは優しく僕の頭を撫でた。
「そうなの?なんだか照れ臭いな、でも嬉しいよリズベット」
リズベットの頬が微かに赤らんでいるように見えた。
だが、すぐにグラムへと詰め寄るリズベット。瞳には殺気が満ちていた。
「そんなことよりマスター?やることがあるのに、酒を片手に何を遊び呆けているんですか?」
「それは……ま、まぁ今日くらいはなーー」
「問答無用!マスターにはやっていただくことが山積みなんです! 」
リズベットはグラムの耳を掴みギルド長室へと連行していってしまった。
「ま、待ってくれ!今日ぐらいは、今日ぐらいは許してくれぇぇぇええ! 」
「あははは……」
(今後、リズベットを怒らせないようにしよう)
そんなこともありながら、大賑わいの宴会を皆が楽しみ喜んだ。
コメント
1件
みぅです🤍 いやー…2年の特訓の成果、しっかり感じられる回でしたね!カイルとアレンの連携が本当に息ぴったりで、読んでいてワクワクしました。アリア師匠に一歩でも迫れた実感、あの“届いたかも”っていう手応え、めちゃくちゃ熱いです🔥 特に、アレンのあの一撃に師匠が「見覚えのある技」って反応したのも気になる…。 最後の宴会の温かさも含めて、じんわりくる第10話でした。二人の成長、ちゃんと見守ってます!