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「は、は?え?ぼっ、僕が出るんですか?!」
つい取り乱してしまう
BLは百歩譲って良い。
そういうコンセプトを持って1日限定でメイドカフェが男装カフェをするということもあるし
そういうのと同じだと思うからいいと思う…
でもなんでよりにもよって、僕が…..?!
「しかもそれBLってことは、太齋さんのパートナー役と同義ですよね?!」
僕が困惑してそう言うと、太齋さんは手を合わせて僕に頼み込んでくる。
いつも試食、味見という体で美味しいチョコレートをタダで食べさせてくれるのに
頼み事の一つや二つも聞かないとなると傲慢なやつだと思われるかもしれない….
これも大好きなショコラトリーの益々の繁盛のため…やるしかない。
そう自分に言い聞かせると、僕は少しだけ躊躇した後、ゆっくりと頷いた。
「これも多くの人にこのショコラトリーを好きになってもらうためだし、心苦しいですけど、分かりました…っ!」
そう言うと、途端に太齋さんは喜びながら僕に抱きついてきたが、嫌な予感しかしない。
「でも本当に僕なんかがお客さんを癒せるのかどうか…」
不安を口に出すと
だいじょーぶ!言ったじゃん?ひろくんはかわいーよって、とか言ってくるもんだから、本当に腹が立つ。
「もう…そんな冗談は置いといて…その、太齋さんと僕がゲイカップルという体でお店に出るなら……もう、シチュエーションとか、受け攻めとかは決めてるんですか…?」
BLとなれば別問題だ、演技だとしても腐女子腐男子の心を驚掴みにするようなカプを演じたいと思い、詳細を細かく訊いた。
「なんだ、やる気満々じゃん」
「別にそんなんじゃないです…けどただ…お客さんに半端なものは見せたくないだけです、同族として…」
「ふーん?まあやる気になってくれたならそれでいいけど♪」
そして話されたカプの詳細は、こんな内容だった。
まず、僕は女の子みたいな童顔で可愛い系の男子。
太齋さんは高身長で男前なイケメン男子らしい。
そして2人の出会いは僕がたまたまバイト先として選んだショコラトリー。
太斎さんはそのお店のオーナーで、接客の一環で僕に色々教えてくれたりして仲良くなる。
そしてある日、バイト終わりにオーナーから告白されて恋人同士になった…….しかし、オーナーは重度のキス魔で性癖がねじ曲がっている攻め、というものらしい。
聞いただけでは、すごくBL漫画に出てくるような
果たして僕みたいな陰キャが上手くできるのかどうか…
少しの不安を抱いたが、やるからには徹底的にやろうと決めたし
そんな難しいことをするわけでもない。
大半は太齋さんがリードしてくれるとのことだし、とりあえず肩の荷は降りた。
そして1ヶ月後…遂にバレンタイン当日がやってきた。
お店のHPやSNSでも官伝をしていたお陰でもあるが、朝からバレンタインデーということもあり
お客さんがひっきりなしに来店しており、店内は大盛況だった。
ショコラトリーの制服を着用した太齋さんと僕は
スイーツを作って運んではお客さんの元に注文を取りに行く。
それの往復をしていた。
もちろん2人では足りないので太齋さんの元職場の元同僚の人2人にも助っ人に入ってもらっていたので、なんとか捌くことはできていた。
「すみませ~ん!この「あーんして、激辛チョコソース当てゲーム♥ (お好きなCPをお選びください) 」って注文すればやってもらえるんですか
〜?」
「はい、誰をご指名致しますか?」と尋ねると、注文を入れてくれた女性客からは即答で「太齋&宏カップル」と言われる
ありがとうございます!少々お待ちくださいと返事して太齋さんのいる厨房へと向かう。
「早速、だざひろご指名です!」
「ん、了解~注文はなに?」
「えっと…激辛チョコソースのやつですね」
メニューにはあんして、と書いてあるから
僕と太齋さんがあーんし合うということなのはわかるけど
分かっているからこそ今から緊張してしまって仕方ない。
「ぷっ…顔真っ赤じゃん」
「き、気のせいですよ!ほら、行きますよ…!」
大丈夫大丈夫…たかが、あーんするだけだ
そう言い聞かせながら
予め作っておいた激辛チョコソース入りフォンダンショコラを冷蔵庫から取り出して
お客さんの元へ向かった。
僕たちが顔を出すと、すぐに店の女性客が黄色い悲鳴をあげた。
分かりやすい、さすが絵に書いたようなイケメン高身長の太齋さんだ。
僕一人ではこうはならないだろう。
そんなことを考えている隙に
太齋さんはフォンダンショコラを先程のお客さんの机に並べ終えていた。
「では今からゲームをします!次の6つのフォンダンショコラのうち、1つだけ激辛チョコソースが入っています、当てられたお客様には商品を差し上げますので、俺たちの演技を見破って、ぜひ当ててみてくださーい♥」
太齋さんの大まかなゲームの説明が終わると、低くもあり甘い美声に女性客はもう既に虜になっているようだった。
それを、見ていた僕も思わず感嘆のため息を漏らしてしまう。
本当に仕草ひとつひとつまでイケメンだなと改めて思わされる。
しかしそんなことを考えている暇はない
太齋さんが、あーんして?と僕を急かすので仕方なくフォンダンショコラを一口サイズに切ってフォークに刺す。
そしてそれをゆっくりと太齋さんの口に運んでいくと
周りからは黄色い悲鳴が飛び交っていたが、不意に頭の中に一つの考えが浮かんだ。
いつも僕をからかってくる太齋さんだ、仕返しができるなら今しかないのでは…?
ふとそう思った僕は、絶対に太齋さんに激辛チョコソースを食べさせてやる!!なんて意気込む。
そんなことを考えながら、太齋さんの口にチョコを運ぶ。
が、どうやらアタリのようで、彼は全く顔を歪ませることなく平らげてしまった。
「うん、美味しい…さすが俺。んじゃ、次はひろくんね〜…はい、あーんして」
そう言って太齋さんは僕の口元にフォークを持ってくる。
負けじとあーんと口を開けて、チョコが入ってきたところで、味を確かめるべく噛み締める。
「あっ、アタリ…普通に美味しいフォンダンショコラだ…!」
そして次々と交互に口に運んでいき….ついに最後の2つになった。
まだハズレが出ていないということは、この2つのどちらかということだが…頼む!ハズレであってくれ……!!
そう強く願いながら口の中に運ばれたチョコフォンデュを噛もうとしたとき、口の中で耐え難い痛さと辛さが襲ってきた。
「…..う…っ、これ…お、おいしい…」
(いやいや初手で来るとか僕運悪すぎでしょ…っ?!)
それでもなんとか我慢して笑顔で感想を口にする。
しかしその辛さは徐々に強烈な辛さへと変わっていくのがよく分かる、今飲み込めばきっと表情は歪んで固まってしまう。
(だめだ….我慢、しなきゃなのに…….にこ、れ…辛すぎない…….?!!)
「ちょ、ひろくん大丈夫…?顔赤くない…?」
「…….だい、じょぶ」
思わず涙目になってしまい、ついに我慢できずに言葉が漏れてしまった。
「も…….っ、だめ….太齋さ…ん!み、水を…!!」
そう助けを乞うも、水を渡されるよりも先に、なにか柔らかいものが唇に触れ、それと同時に水が流し込まれて行く感覚がした。
それを飲み込むと、僕は一体、なにが起きたのか分からず目を白黒させて太齋さんの顔を見る。
自分が今なにをされたのか理解し、頬が熱くなる。
「へ…っ、いま…くち、うつし…いや、キキキキスして…っ?!」
「泣くくらいなら我慢すんなっての~…って、まだ顔赤いじゃん。ふっ…なに、そんなドキドキした?」
そんなこと言いながら企むような笑みで僕の顎に手を添えてくる。
完璧な演技とシナリオ、いや、アドリブだ。
なんて心の中で悠長に感心しつつも、それどころではなくて
これは世間一般にいう顎クイってやつでは?!とアタフタしてしまう。
僕がその手を振り払うことも出来ないのをいいことに、太齋さんはそのまま顔を僕に近づけてきて…..
そして唇が触れそうな距離まで近づく。
演技だとは言ってたけど、まさかキスまでしなきゃなの……?!
そう考えながら僕は勇気を振り絞ってぎゅっと目を瞑るが、唇は一向に触れてこない。
恐る恐る目を開けてみると、そこには悪戯そうに微笑む太齋さんの顔が間近にあった。
それを見て、僕はさらに顔を赤らめて俯くことしかできなかった。
そんな太齋さんと僕にアイドルのライブ会場並の黄色い悲鳴が飛び交った。
そしてその後もお客さんの要望のポッキーゲームをしたり
太齋さんの元同僚さんたちもイケメンなことから反響が良く
その他にもCP同士で写真をリクエストされたりと、それだけで店の中には止めどなく嬉しい悲鳴が飛び交っていた。
────太齋さんたちとのBLカップルによるバレンタイン限定メニューは大好評で2日日も沢山のお客様が来てくれた。
そして3日日、4日日と日にちが進むにつれて客足はどんどん増えていき、店内は常に満席状態が続き大盛況だった。
そして無事にショコラトリーのバレンタインイベントは終わりを告げ、お店の後片付けをしていた。まだ微かに顔に熱が籠っていた。
太齋さんに気付かれないよう必死になって顔を見られないよう片手で顔を隠すようにして座っていると、突然太齋さんの綺麗で大きな手が僕の手に重なる。
びっくりして手を離そうとするが、なかなか離してくれず、そうこうしているうちに太齋さんの手が僕の指の間へと入り込み、恋人繋ぎのようにされてしまう。
「なっ、なにするんですか!」
いい加減離してください、と言おうとした僕の言葉を遮って、ふと思い出したかのように太齋さんは口を開いた。
「今日のひろくんめっちゃ可愛かったよ」
この人はまたそんなことを言って、人たらしにも程がある。
いや、女誑しって言った方が正しいのかな。
沸騰したポットの如くぼふっと顔を紅潮させる僕を見て、何故か太齋さんは深く長いため息を吐いてからまた口を開いた。
「あー…うん…やべえ、やっぱひろくん好きだわ」
そんな突然すぎる言葉に一瞬思考が停止しかけたが、それでもなんとか頭を働かせて、すぐにツッコミのような言葉を返す。
「いや、急に何言ってんですか….もうBLイベは終わってますよ?またからかってるんなら…お先に失礼しますね」
この4日間で僕は相当疲れてしまったようで、まあ乗り掛かった船を今更降りる訳にも行かないと思ったからだが…まさかあんなに好評だとは思わなかった。
ふと時刻を確認するともう八時を過ぎており、疲れた体を起き上がらせ、椅子から立ち上がると
片付けも終わりましたし僕は帰りますね、そう言おうとしたときだった。
突然、後ろから太齋さんに抱きしめられた。
突然のことにびっくりして、頭が真っ白になってしまい、なにも考えられずに体が硬直する。
太齋さんは、更に僕の首の後ろへと顔を埋めて強く抱きしめる力を強くする。
「ひぇ…っ、あ、あの…」
つい珍妙な悲鳴を上げる。
なぜ今、僕は太齋さんに抱きしめられているのか…理解が追いつかない。
「ちょっと、だ、太齋さん…?離して…ください」
慌てて太齋さんを自分から剥がそうとするが、やはり力の差がありすぎて、到底及ばない。
太齋さん、僕もう帰らなきゃで…と呼びかけると、首から顔を離し、僕の体を自分の方へと向かせてきた。
すると、太齋さんはへんに真剣な、引きつったような表情をしたまま口を開く。
「ひろくん、男もいけるなら俺もイけるってことだよね…」
「え…いや、太齋さんは幼馴染だし……って!いい加減僕をからかうのは…!」
それと同時に僕の言葉を塞ぐように唇に柔らかいものが触れた。
予想外の出来事に僕は思考回路が停止し、目を見開いて太齋さんのことを見つめるしかなく、身体が強ばる。
抵抗をしようと太齋さんの胸板を押すと、ゆっくりと唇を離されて、僕はやっと息ができる状態になり、はふはふと息をする。
しかし僕の思考回路はもう既にショート寸前で、それにさっきのこともあってか、もう頭が回らない。
なんでこんなことを、と言えば太齋さんは快惚とした表情を浮かべて言う。
「今のもさっきのも、演技でもからかってるわけでもない、本気で言ってんの…俺さ、ひろくんのこと好きなんだよね」
そう言われたその瞬間…僕の思考回路は完全にクエスチョンマークで埋め尽くされて石化したように固まる。
ただ一点、僕に背を向けて裏口から出てい
く太齋さんの背中を見つめてしまっていた。
その姿が見えなくなりふと我に返ると、その場にしゃがみこんでしまい、もうわけがわからなくて仕方なかった。
そんな困惑した感情のまま、無事家に帰宅した頃にはもうヘトヘトで
お風呂に入ってご飯を食べて、ベッドに入ると
ふとさっきの太齋さんの表情と言葉が頭をよぎった。
だめだ、今太齋さんのことを考えるのはよそう…
そう思って目を瞑り眠りにつこうとするが、全く眠れずに逆に目が冴えてきてしまった。
好きってどういう意味なんだか…幼馴染としてではなく恋愛感情としてと言ってたけど、まず太齋さんってノンケだ。
だから僕が腐男子でゲイだからってあんなこと言って、いつものようにからかってきたんじゃないかと思ったけど…
長い付き合いだからこそ分かってしまう。
あの目は本気だ……