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………痛い。

溶かされるような、熱されるような、削られるような感覚が絶え間なくこの身を覆い、そして理性をすり潰す

全身の神経を直接嬲られる様な痛覚に体が飛び跳ね、空気を取り込む行為が無意味である事を強調する様に、噛み締めた歯を押し退け体内へ入ろうとしてくる

全身があれに包まれているという忌避感は勿論あった。視界に入れる事すら吐き気が伴い、自分の無力さを押し付けて来るそれへ混ぜ込まれている事実に叫びたくもあった。

それでも。前にある物全てを掻き分け、ただがむしゃらに進み続ける。

指先から『規制済み』され、感覚が薄くなっては行くが、もはやどうでも良かった。


過去も、過ちも、想いも。


全てを掻き分け、そして背負って進み続ける

もう、逃げない

目の前の大切な人を、掴み損ねたくないから。




そして、


そして




……そして。






「M4DUUEW@9…」

「………やあ…スミレ。久しぶりだな。」

「B@?YUXE」


全てを掻き分け切った先。

其処に居たのは…なんとか存在が出来ている様な小さな空間でもたれ掛かり、腹から下は切り裂かれ、首から上は『規制済み』で覆われ、この空間と一体化している人物だった。

その体には視認出来る全ての部位が傷跡で赤く染まっており、人の形をしている事以外で人間と認識出来る要素が何一つ無く、その上それ越しに伝わる言葉は読解も理解も出来ず、そもそも文を形成しているのすら分からない


「3UQKQ?UO…」


気付けば痛みは感じなくなり、掌の感触も冷たく、妙に柔らかい物へなっていた

手の先へ視線を向ければ、そこには原型も残っていない程の、肉塊とも呼べない細かな挽き肉。元は人間であった事がギリギリ認識出来る程度に崩壊していた

…俺は恐らく、この肉塊の正体を知っている。

自分の表情が歪む事を感じながら彼女へ向き直る


「スミレ。本当にすまなかった………!!!

……あの後アンジェラ様から聞いたんだ。…L社でずっと苦しんでた事も、折角脱出出来た後も俺の事を探し続けてくれた事も…全部。」

「………」

「俺達が覚えてないだけで、スミレは何度も何度も…本当に……

…きっと俺が言えた事じゃ無いんだろうが……」

「UYIM6‐@5WUEHPI」

「………」


……この先の言葉が、出なかった。

スミレが何百年も苦しみ続け、それでも俺の事を想い続けてくれた。…それなのに、俺は俺の事ばかりで、自分で考える事を放棄して。スミレの苦痛全てを否定してしまって。

その結果が…今の惨劇を生み出していて


「……全部…全部、俺の所為で……」

「………。」


目の前で大切な人が苦しんでいるのに、苦しめた人が居るのに。また救うことすら出来ない自分を戒める様に皮膚を掻き毟った

あまりの惨めさに涙が出そうになる

……もう、あの頃には戻れないのだろうか。


「QR:W」


『規制済み』から苦しそうな音が漏れる

目の前にいる筈が…なんだか遠く、遠く離れてしまった気がした。

…スミレは今、こんな情けない俺の事をどう思っているのだろうか。
















⁠───でも、その全部が貴方の為だから。

その為なら、何度だって苦しんでみせる。

貴方との”これから”の為なら…何度だって悲しんで見せる

何度でも、何度でも……何度でも。

…だから、泣かないで?ハンス。






「………」


あの日、嗚咽と共に抱き締めた彼女の言葉。

これ以上無いほど、俺に突き刺さった台詞。


…ここまで献身的に自分の事を想ってくれた大切な人を前にして、自分は何をしているのだろうか。

謝罪?自責?…そんな物、後で幾らでも付き合って貰えば良い。

今まで苦しみ続けた彼女が…”頑張って来て良かった”と思える様に…今。自分で言葉を紡ぎ、届かせなければならない。


「………スミレ」

「3」


この細い手足を傷つけないように優しく、それでいてこの気持ちが伝わるように力強く抱き締めた。触れる肌は冷たく数刻が経過した死体の様であったが、その冷たさを掻き消す為に自分の熱を与える

ピクリとも動かない腕中の彼女を愛おしく撫でながらも、つらつらと話し始める


「………本当に、スミレは今まで頑張って来た。

俺なら耐えられないような地獄を何年も、何十年も、何百年も…」


俺が触れたスミレの『規制済み』が俺の手を伝って俺の体へ向かってき、グジュグジュと気色の悪い音を奏でながら俺の腕を食い破る。


「もう苦しまなくていいなんて言わない

もう何も考えなくて良いとも言わない。

…それは、お前のこれまでを否定する言葉だから」

「………」


俺の腕を貪る力が強くなり、やがて肩、首元まで伝ってくる。体内へ入って来る感覚と同時に喉元から溢れてくる赤と鉄の味を口から漏らす。

…死が迫る


「スミレは誰かのためを思える奴だから…誰よりも傷付きやすい。

それなのに何度も何度も傷付いて、その果てにこの姿になったのなら…それはきっと俺の所為だ。」

「……………」


体内の肉がゆっくりと噛み千切られる感覚

自分そのものが軽くなっていく感覚

それでも抱き締める

言の葉を紡ぎ続ける

…あれだけ遠かった彼女が、目の前に居るのだから。


「だから…だから。お前の苦痛はお前だけの苦痛じゃない。

…俺と、お前の物だ。


……これまで、スミレばっかりに押し付けてしまって、本当にすまなかった。

これまでの分も、これからの分も…スミレの苦痛を、俺達の苦痛を一緒に噛みしめてやる。


…なあ……だから……頼むよ……」


もう枯れ切っていた筈の涙で瞳が潤む

今抱き締めている彼女は、輪郭が失われているかの様に揺らぐ


届け。


「……もう、置いて行かない。

もう、置いて行かせない。

もう…逃げてやらないから」

「………,…」


……届け。


「だから……今度こそ。」

「…FYR」

「俺と…ずっと。一緒に居てくれ」





















「………………あ」






─────





















……ふふ


「……よろしくお願いします……だったね。」






「…………スミレ」

「ただいま。ハンス」

「…………ああ、おかえり。」


何気無い、本当にありきたりな会話。

…ただそれだけで良かった。


「…ごめん。スミレがどんな思いでこの図書館まで来て…そして俺に本にされたのか…何も考えていなかった。

これも、その所為なんだろ?俺の所為で──」

「違う。……これはちょっと、私が我が儘言っただけ。…ハンスも辛かったでしょ?私はこのくらい何ともないよ。

…それに……ずっと一緒に居てくれるんでしょ?」

「…ああ、約束する。」

「…ふふ……なら、それで十分。」


…そうだ。これからを2人で作って行くんだ。

心底嬉しそうな彼女の笑顔に口角がゆっくりと上がる。この様な会話は何時ぶりだろうか

幸せそうに笑う彼女へ手を伸ばす


「…早く此処から出よう。…立てるか?」

「勿論」


スミレは俺の手を取った。

掴み損ねない様に、手放さない様に…強く握り締めて。


俺達は元来た道へ飛び込んだ。






─────






「…ッゲホ」


『規制済み』の中から脱出し、地に叩きつけられた2人はもう一度『規制済み』と見合う形となる。

…あの時とは違い、2人は煙の根源を見上げ、そして笑みを浮かべていた。


…もう、恐れる理由は無い。

逃げ出す必要も無い。

ハンスは先程投げ捨てた大鎌を拾い、スミレは素早く武器、装備E.G.Oを抽出する。

あの頃から成長した2人が、背を預けながら立ち並ぶ。


「行くよ、ハンス。」

「ああ」




そして………













『 煙の根源 の本獲得』


【 ,D@;QRN; 接待完了】



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