馬鹿みたいに笑って、
馬鹿みたいに吐いて、
馬鹿みたいに死んだあの人を、
俺が笑う資格はあるんだろうか。
あの人を一言で表すのなら、
『自意識過剰な変人奇人』。
これに尽きる。
そもそも俺みたいなハグレモノに声を掛けた理由が、蓋を開けてみれば偽善でも何でもなく「誰でも良いからお酌をして欲しかった」という馬鹿げたものだったのだから、 相当だ。
どうやらその性格は生まれつきらしかった。あの人は街中からやんわり嫌われていた。だから共に酌をする相手もすっかり見当たらない。あぁ、道理で。
絶望的に空気の読めないあの人は、当時人当たり最悪だった俺相手にもめげなかった。 親父は禅問答の末にいつも俺に手をあげたというのに、あの人はただのらりくらりとへらへら笑っているだけで。まぁ、人によっては苛つくだろうな、ああいうの。俺は拍子抜けしたというか何と言うか、全部馬鹿らしくなっちまったんだけど。
そんなに人の汲んだ酒が飲みたいかと、あの時は心底呆れ返ったものだ。
酒に弱いくせにかなり強いのが好みで。しかもえげつないペースで飲むもんだから、毎回げろげろ吐いてたなぁ。本当、あの人はよくあそこまで生きてこれたもんだ。死ぬだろ普通あれは。まぁ、それを腹を抱えて見てた俺も俺だったな。
あの人は殺しても死ななそうな所があったから、急にふつりと意識を失っても、吐きすぎて顔が紫になっても、心配という選択肢は俺には全く無かった。良く言えば、俺はあの人の頑丈さを信頼していたのだろう。
ただ、まぁ、なんだ。なんというか……あの人は確かに、正真正銘人間だった、というか。
だからあっさり死んだ。
それにしたって階段踏み外すって、どうなんだ。酒関連であれよせめて。本当にあの人は、最期の最期まで予想の斜め上を行く。だから俺は…俺、は………
……あー、本格的にやばいな。頭回んなくなってきた。
それにしても走馬灯、馬鹿みたいなのばっかじゃねえか。俺の人生って随分愉快だったんだな、知らなかった。これも全部、あの人のお陰か。
………よかった。俺は酒で死ねるから。 あの世であの人にこれでもかと自慢してやろう。まぁ、いつもみたいにへらへら笑って躱されるんだろうけど。そんでまた、あの人が吐くまで酌して、それ見て腹抱えて笑って……
……あぁ、久々に美味い酒が飲めそうだ。
あの人の言う通り……独りで飲む酒は、あんまりおいしくなかったな。