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私が世界一見たいと願った妄想です。
ゲタ吉さぁん!!!!!
なんでもいいよー!という寛大な心の持ち主のみこの先へどうぞ。
万が一地雷を見て気分が悪くなってしまった場合、私には何もできません。他の方の神小説を漁ってください。心が休まります。
唐突に始まって唐突に終わります。
「あー、もう。なんなのサ」
今日は恐らく、一年の中で最もツイていない日だったと思う。白銀の髪を雨に濡らして、一面を雲が覆う夜空から降り注ぐ水滴をものともせずに歩き続ける。
水を吸ってずっしりと重くなった服が家へと帰る足を一層重たくさせる。
面倒臭い。今日は家にも帰りたくない。少し考えてから、彼は後輩の家に行くことにした。しかし、誰の家に泊まることにしようか?やはりここは、一番付き合いの長い一期の所だろうか。ああ、しかし、彼奴は家を出て放浪していることが多い。じゃあ二期?…あいつも多分家を出てる。暫く立ち止まって悩んで、彼は別世界へのゲートを開いた。
ブラックホールのようなそれに身を投じれば、すぐに景色は移り変わる。自分の世界とは打って変わって明るく雲ひとつない空に少し目をやり、再び歩き出す。今度は、人気者の後輩の家へと。
まったく、人間の真似をするのも楽じゃない。雨に濡れてすっかり重たくなった学生鞄を持ち直して、奇異の視線で此方を見る妖怪たちの間を通り抜け、ツリーハウスの下から声を上げた。
「高山くーん!」
「ゲタ吉さん!って、びしょ濡れじゃないですか!」
すぐに出てきた面倒臭がり屋な後輩にあはは、と苦笑しながらタオルを持って下に降りてきた高山に礼を言って軽く髪を拭く。
「どうして僕のところへ?なにか用事が…?」
「…あぁ、いや。そういうワケじゃあ、ないんだけど…ただ、」
そこまで言って言い淀む。後輩に言うには少しダサすぎるかな?なにか、今日は随分と弱気になってしまう。だからって後輩に縋るとは。情けない限りだ。
「……ただ?」
なかなか言い出さないゲタ吉を不思議に思ったのか、高山はゲタ吉の言葉を反芻する。
……今日くらい、縋ってしまっても構わないのかもしれない。気が緩んでしまって、思わず口が動く。
「逃げ出してしまいたくて」
今日は驚くほどツイていなかったんだ。と慌てて弁解すると、高山はやさしく微笑んで、柔らかい声音で「風邪、ひいちゃいますよ」と彼を家の中へ招いた。
「…ごめん、高山くん。ぼく、迷惑だよナ」
「迷惑なんかじゃないですよ。でも、気になります。…なんでそこまで落ち込んでるんですか?」
高山くんの父さんは横丁へと出掛けているようで、家の中はシーンとしていた。高山が正座なのに対して、彼は胡座をかいて座った。
「今日は特別運が悪かっただけサ。」
ただ、数週間前に酷い悪夢を見て、飛び起きて。それからなにもかも全てが上手くいかなくて、夢が怖くて上手く眠れなくなって、今日、学校で少しだけ眠ってしまって。またあの悪夢を見たんだ。ただそれだけのこと。
一から十まで説明して、机に突っ伏す。よく見れば、目の下には濃いクマがあるのが分かる。数週間前。それだけ前からひとりでずっと恐怖に耐えて、不眠症になるくらい頑張って、今日その頑張りにも限界が来て、後輩に頼った。ゲタ吉さんがこんな状態になるくらいの悪夢。高山は気になると同時に優越感を感じた。一番に頼ってくれたのは付き合いの長い一期や二期の野沢さんたちでは無く、自分であったことに。
「…何故僕の所へ?」
目の前のその人とは違い、小さいその手を伸ばして頭を撫でながら、高山は聞いた。ゲタ吉は依然として視線を下に落としたまま、ゆっくりと口を開く。
「…わから、ない。けど、…君に会いたかった」
それだけじゃ、だめかな。自信なさげに揺れる瞳に薄く笑って、机に手をついて身を乗り出す。目蓋にそっと唇を落として、驚くゲタ吉ににっこりと笑った。
「貴方なら、大歓迎ですよ。一緒に寝ましょ?悪夢を見たら僕が起こしてあげますから。」
ゲタ吉の隣に行って寝転がる。ばっ、と腕を広げて困惑するゲタ吉を招く後輩の傍に、ゲタ吉は言われるがままに寝転がると、高山はゲタ吉を小さな腕の中に閉じ込めた。じわりと体温が伝わってきて、安心しきったのか、段々と落ちてくる目蓋に抗う。
「…大丈夫、僕が居ますから。大丈夫ですよ」
ぎゅう、と高山の服を握りしめて、自分より小さな身体に頭を押し付けた。悪夢から目を瞑るように、しかし安眠を求めて、ゲタ吉はゆっくりと眠りに落ちた。すぅ、と静かに寝息をたてる先輩の唇に、そっと口付けた。
「貴方が大好きです」
ぽつり。夢を呟いて、少年は同じく、目を閉じた。