「今日、うち来る?」
特に何も考えることなく、その言葉が口をついて出た。
ただ──これ以上、翔太があんな顔しているのに1人にしたくなかった。
苦しさを隠して、笑ってる翔太を、もう見たくなかった。
部屋に入って、ソファに並んで腰を下ろした翔太は、グラスを手にしながらぽつりと呟いた。
「涼太って、ほんと……優しいよな」
──胸の奥で何かが軋んだ。
翔太は何も知らない。
俺が、どんな想いで翔太を見てるかなんて、知らない。
「……そう?」
「だってさ。今日だって何も聞かずに飲みに連れてきて、慰めて、家まで来させて──」
その言葉に、また胸が軋む。
“誰よりも近くにいたい”
何年も前から、ずっとそう思ってた。
それでも、バレないように。
気づかれないように。
翔太にとって“頼れる幼なじみ”でいようと、そう決めてたはずだったのに。
──もう、限界だった。
手を伸ばして、翔太の頬に触れる。
少し驚いたように目を見開いたその顔に、口づけた。
一瞬、翔太の体がこわばる。
でも、拒まなかった。
それだけで、今夜は許される気がして。
一度だけ、願いが叶うなら、せめてこの夜くらい──
唇を離しても、翔太は何も言わない。
まっすぐな目で見つめてきて、俺のことを試すようにしている。
「……失恋から立ち直るには、他のことに夢中になるのが一番だよ」
囁くように言うと、翔太の目が揺れた。
「こんな時に言うのもなんだけど、俺翔太のこと好きだよ。翔太が、俺を“あの子の事を忘れるため”に使いたいなら……俺はそれでもいい」
ずるいことを言ってるって、わかってる。
でも、それでもいいって、思ってしまった。
翔太が、俺を選んだように見えることが、ほんの少しの救いだった。
ゆっくりと、肩を引き寄せる。
翔太の息が、熱を帯びて近づいてくる。
「……俺、今、ちゃんとした答え出せないよ」
「わかってる。……でも」
再びキスを落とす。
今度はもっと、執拗に。
翔太の唇を食むように舌を滑らせ、奥をくすぐるように絡める。
「今だけは、俺のこと……欲しがって」
その言葉に翔太が小さく頷いた瞬間、もう何も我慢する理由はなかった。
シャツのボタンを外していくたびに、露わになる肌。
翔太の胸元に口づけを落とすと、びくりと身体が跳ねた。
「っ……やば、……涼太──」
くすぐるように舌を這わせた。
翔太の背に手を回し、ゆっくりと押し倒す。
「今だけは、ちゃんと……“男”として見て」
翔太の視線が潤んで、熱に溶けていく。
呼吸が速くなって、指先が俺の背中をつかんだ。
──キスだけじゃ足りなかった。
欲しかったのは、翔太の心。
けれどこの身体だけでも、そばにいてほしかった。
肌を重ね、言葉を交わす代わりに、何度も唇で想いを伝えた。
翔太の声、吐息、微かな震え。
全部、愛しかった。
全部、欲しかった。
たとえそれが、
“忘れるための行為”だったとしても。
この夜だけは、俺だけを求めてほしかった。
コメント
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え、好きすぎる… 続きめちゃくちゃ楽しみです💕